部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第十七話 「お出掛け」

はい。どうもラルダです。今日私はですね、【魔神王】様と一緒にお出掛けします。なんかデートみたいですけど決してそんなけったいなものでは無いのでご了承ください。
「あぁ、ここに居たか。すまない、遅れた」「いえ、私も今来たばっかですから」
特にそういう事もないのだけど王道のやり取りをすませ、まず何処に行くかを決めるところから始めた。正直、先に決めとけば良かったと思ってる。そして大体行くところも決めたところで、唐突にお腹がすいてきた。朝食べて無いししょうがないか。
「はぁ…お腹すいたなぁ」「ん?何か食べたいものとかあるか?」「んー…強いて言うなら無頼揚げが食べたい。カリカリしてて美味しいからさ」「無頼揚げか。確かに分からないでもない…。何故か食いたくなるよな、あれは万人受けする美味さだ。よし、無頼揚げを買いつまんで行こう」「うん!」
無頼揚げというのは生前でいう唐揚げのようなものだだ。あっつい油で肉をカリッと揚げて中に肉汁を閉じ込める。もうそれだけで美味しいおかずである。もっとも、この世界にはっていうかこの里で養鶏はやっていないので鶏ではなく別の何かなのだが、味も見た目も鶏肉で唐揚げなのでさして問題ではない。生前油っこい物を好き好んで食べていた私はそれを初めて見た時は喜びのあまりクレイさんに引かれたぐらい飛び跳ねたものだ。
「ていうか王様の癖して庶民ごはん食べるんだね」「貴族の飯は好きになれん。俺は庶民の飯のが美味しいと思う」「へぇ。贅沢な好き嫌いだねぇ」「言わないでくれ」
彼は含みのある笑い方をした。さては貴族、王族の人達に嫌われてるな?まあいいよ、私達が居ますから。とか思ってたら、王様は既に無頼揚げを買ってきていた。速い。
「ほれ」「ありがとう!少しサイズが大きいんだね」「サイズが小さいのよりはマシだろ?」「うん。よーし、ここは一つやってみよう」「何をだ?」
何をってそりゃあ、こういう物はシェアする物ですよ、魔神王様。という訳であれだ。あーん、って奴だ。生前は恥ずかしくて出来ないと思っていたが、ココは異世界…。通用するはずだし、今の私の姿は小学一年並の子供。行ける、なんの不思議も無いだろう。それにウェルト(30代)がどういう反応を示すか知りたいという欲もあるのだ。だけどウェルトって本当に30代なのだろうか?言動的にさほど変わらない気がする。
「ふー…。はいっ!あーんっ」「!?」
お?効果は覿面か?これは凄い顔だ。おじ様とかに見せたい。なんて言うんだこれ。照れと恥ずかしさに押し潰されそうな顔してる。30代だよな?
「どうしたの?」「あっ、いや、そのだな!公衆の面前だ、そう言うのはよさないか?」「大丈夫だよ。至って健全なただ仲がいい子供二人って感じにしか映らないから!」「いやでも!俺とお前はそういう関係じゃないから!」「ウェインさんもエスドさんも言ってたけどいい関係って言ってたよ?」「いい関係っ!?あいつらっ!ふざけっ…!」「分かったならあーんしよ?」
周りから見ても全然大丈夫だ。ただ仲がいい男女。そうとしか見られないはず…。ていうか凄い抵抗だな。そういう事なら無理矢理突っ込んじゃえ。
「んぐっ!?」「えへへ。ごめんね。でもね、抵抗する方が悪いよ。抵抗しなきゃすんなり入れてあげたのにさ」「恐ろしい娘だな……。本来の目的を忘れそうだ」「その見た目に対して36歳のおじさんの癖にこういう奴の耐性が童貞なみの人の方が恐ろしいよ」「童貞…?まぁいい、行くぞ」「はーい」
ん?童貞が通じない?童貞ぐらいどの世界線でも共通かと思ったのだけど…。因みに今こうして二人でお出掛けしているのは王様が直々に街、というか里を紹介する、と言ったからだ。そしてこの里、盆地に位置している、高評価だ。そして私達は道を歩いていてふと気になった。
「そう言えばなんで【魔神王】っていう忌み名を持ってるのに、貴方の歩く道を開けたりしないの?魔神族の王様でしょ?」「俺が【魔神王】と思われていないからだ」
へ?どういう事だ?
「民は未だ、旧魔神王が存在していると思っている」「え、でもそれだと戦う時指揮が取れないんじゃ…」「指揮は旧魔神王の時から居るエルドラードやエスドレイジに任せている。しかし、やはり父上にはその指揮力で劣るのだ」「なんで王が代わったって喧伝しないの?」「この様な姿じゃあな…」「あぁ…」
やはり身長だろうな。本には旧魔神王はかなり長身で威厳もある王と記されていた。しかし今の【魔神王】は言い難いけど威厳も無いし子供みたいに身長も小さい。彼が【魔神王】と名乗っても信じる人は居ないだろう。
「なんか空気悪くしてごめんね?」「いや、良いんだ。それより、次の場所に行こう」「うん」
目的地は湖の畔だ。この里の大半の漁獲を担っているのは今から向かう湖である。そして、何気に恋愛スポットとしても栄えているのだ。ふーむ。また弄ってみたい気持ちが募るなあ。なんて思いつつ、私達は湖に向かった。
_____________
所は変わり、魔王城。今日は【魔神王】が不在の為、皆オフである。あろう事かオフである。普通有り得ないがオフである。城内には少なからず人はいるが、働いてはいない。しかしながらそんな日になっても休まず、働く者が四人。
「ほれほれ。さっさと掃除せんかい」「じいさんも働けよ!こちとらずっと拭き掃除で足が疲れたんだよ!」「疲れた……」「儂は老いぼれじゃしのぉ」「老いぼれだからって働けると思うよ?今僕が働いているし」「【龍帝】は少し若いじゃろうが」
【龍帝】と【土王】は少し仲が悪い。しかし気が合う時もあるので一概に仲が悪いとは言えない。
「エルドラさん…少し休みましょうよ〜」「んー。でももう少しで終わるよ?頑張ろう!」「うわぁぁーん………」
ウェインがへたり込む。滅多な事では疲れないウェインやクレイもかなり長時間掃除させられてるので流石に疲労困憊である。そんな空間に、合わない人物が走ってきた。
「上位指揮官殿!」「ん?どうしたんだい?」「城壁付近で彷徨い歩いていた人物二人を捕縛しました!その内一人はかなりの重症です!」「ふむ。取り敢えず様子見しに行くか。行こうか」「ん」「はいよ」「分かりました」
【龍帝】の言葉に三人は同意し、その捕縛者達の元に向かった。

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