ろくでなしぼっち

青高

イキってて何が悪い

 俺は友達を作らない。何故なら人を信用しないからだ。何故人を信用しないのか、理由はシンプルだ。人に裏切られ、馬鹿にされることに慣れたせいだ。他人は俺の事を馬鹿にするのは当然だと脳が認識してるせいか、馬鹿にされてもそんなに腹は立てないし、同時に他人に対して何の情もわかない。

「またあいつ一人だぜ」

「友達がいないからだろ」

 そんな声が聞こえても、何の悔しさも恥じらいも感じなくなっていた。我ながら人として出来損ないと感じる。一人でいるのを悔しい、恥ずかしいと感じるから、人間関係を築き上げ、人として成長していく。だけど、そんな感情が湧かない俺は、人間関係を築く意味を見いだせなかった。

「俺が一人だからどうしたって」

 俺の事を笑っていた奴らに向かって話しかける。動機は何となくというか、暇つぶしだ。特に意味は無い。友達になりたいとでも、馬鹿にするのはやめてくれと言いたいわけでもなかった。

「い、いや別になんでもねぇよ」

 少し焦ったように目を逸らしながら言う男子。いざ馬鹿にしていた相手が面と向かって近づいてくると、やっぱ動揺はするみたいだ。まぁ、普段の行いや茶色の髪の毛で、ただのぼっちではなく、不良とでも思われているのかもしれない。

「じゃあ俺の話よりもっと楽しい話で盛り上がっとけよ」

「......い、言われなくても分かってるよ」

 俺はそんな言葉を尻目に席に戻っていく。我ながらイキってて気持ち悪い人間だなと感じるが、世界に対して信用を抱けなくなった谷垣正人という人間の末路というか、幾つかあった選択肢を選んで生きてきてこうなったのなら、もう仕方ないと感じていた。こんなもんだろ、イキってて何が悪い。
 そして戻る途中、まぁ必然的にあの女子が視界に入ってくる。しかし、彼女はこちらの様子を気にすることなく、ノートに先程の授業の振り返りなのか、真面目に机に向かっていた。

「相変わらず嫌なやつ」

 気にしていたようだった。

「なんか言ったか」

「相変わらず嫌なやつ。それだけ、話しかけないで」

「俺そんなに嫌なやつ? まぁ、自覚はあるっちゃあるけど」

「世の中嫌なやつばっかってこと。自意識過剰すぎ」

「また心の声でも聞いてたのか」

「どうかしらね」

 そんなセリフを吐きながら、彼女は無線型のイヤホンを耳にはめた。さっきも言ってたが、話しかけるなってことだろう。 まぁ本当に心の声が聞こえるならそんなの意味ないと思うけどな。超能力っていうのは五感じゃなくて、その一つ上をいくものだからな。

「谷垣、おい谷垣」

 そんな事を考えていると、先生のやかましい声が聞こえてきた。
 口うるさいと俺の中で評判の先生、静海優美しずみゆみ。実は俺の親戚なんだが、性格が凄い差で名前負けしてると思う。

「何だよ先生。今日はまだ居眠りしてねぇぞ」

 先生は俺の席の前まで来ると、腰に手を当てたままため息混じりに言った。

「ここでは言わない。後で職員室に来い」

「じゃあ今おっかなく呼びつける必要ないだろ」

「今言わなきゃお前はすぐ帰るからな」

 言いながら俺の隣の女子を見る。相変わらず怖い顔のままだ。美人なのに勿体ない。

星野ほしの。お前も後で職員室に来い」

 その言葉に星野と呼ばれた俺の隣の女子はイヤホンを外しながらゆっくりと顔を上げた。
 こいつイヤホン付けてるだけだったのかよ......。

「どうしてですか」

「あの犯行声明みたいな文章見せられたらお前をなんとか諌めなくてはと思ったからだ」

 今ので何となく呼び出しの理由が分かった。恐らく今後の展望とか今後の抱負をテーマにした作文のことに関することだろう。そしてこの星野は今後の抱負というテーマで犯行声明らしきものを書いたらしい。そりゃ呼び出されるわけだ。

「あー、怖い怖い」

「犯行声明じゃないです先生。あれは事実です。その事実に対して私の感想を書き連ねただけです」

「テーマに沿ったのを書け。この続きはまた後でだ」

 そう言って後ろを振り返ったが、もう一度こちらを見ると。

「来なかったらどうなるか、分かってるだろうな」

 俺はその言葉に面倒臭そうに無言で頷いた。
ふと星野を見ると、やはり不満そうな顔をしていた。

 嫌なやつ、か。

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