狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。

佐藤 優奈

二十四『森の主と雅』

「私がこの森の主、糸です。」

「それはどうもご丁寧に、私は雨波 雅と申します。」

つい挨拶をするときの癖で糸と名乗った少女に釣られて自己紹介をしてしまった。

少女ー糸は(少女から見て)右目を包帯で隠していて、首には真っ黒な首輪がついていた。そして髪色と目の色はさっきから言っているように真っ黒で、人間の国に生まれ落ちてしまったとしたら、きっと赤ん坊のころに殺されていただろう。

雅は目の前に誰もが恐れる狂乱の森の主がいることに雅はあくまで冷静でいた。

「あなたがこの中で一番偉そうだったから話しかけてみたんだけど、あってる?」

「言い方は少しあれですがまあ合っています。」

「そっかそっかじゃあ話が早いよ。」

少女はにこやかにうなずいて宙に手をかざす。
すると、少女と雅の周りを薄い膜のようなものが覆った。

「っ!?」

騎士団たちが駆け寄ってくるが、薄い膜、結界と思われる壁に阻まれ、こちらに来ることができないようだった。
人形ひとがたの魔物と思われるローブを着た者たちはちゃっかり結界の中に入っていた。ついでにあの竜もだ。

「周囲の音と物理攻撃、魔法攻撃、指定の人物以外を拒む結界を貼ったからゆっくり話せるね。」

糸はまたニコニコと笑う。
雅はこの少女に得たいのしれない何かを感じていた。
とはいっても今初めて感じたわけではなく、少女が魔物たちを森に返したあたりから、感じていたのだったが。

「それで話、とはどういうことでしょうか。」

雅は糸に向かって質問を直球でなげかけた。
後ろの魔物たちがどう動くわからないので一応丁寧な言葉で話す。

「いやー、今回の件でねだいぶ迷惑かけちゃったと思うんだよね。だからさ、そろそろ新しい住処にしよっかなーって考えてるわけよ。というかだいぶ前からなんだけど、魔物たちも窮屈になっちゃってるだろうし。」

世間話をするような軽さで切り出された話題に雅は思わず糸を凝視ぎょうしする。

「あ、もう言葉の通りの意味だよ。本当に。」

糸はやだなあ、疑わないでよ、というふうに右手をパタパタさせながらカラカラと笑う。
そんなふうに話していい話題なのかこれは。

私が唖然としているのを見てが後ろの魔物もクスクスと笑っている。ただ一人だけ黙って俯いている魔物がいたが、周りの魔物は少しその魔物を見てそのまま前を向いた。
よくよく見るとその魔物だけフードを周りの魔物たちより深くかぶっていた。

「えらく人間じみてるなって思ったんでしょ。」

糸が雅の顔を覗き込んでニヤリと笑った。それから少しだけ寂しそうに目を伏せて言った。

「うちの森の古参の魔物達は今の魔物の先祖みたいなもんで、元々魔物は昔ちょっと頭がおかしい魔女が人間と動物を合わせるだかなんだかしようとしてできた偶然の産物みたいなものだからね、ここにいるのは竜以外は。」

そこまで喋って糸はハッとした顔になった。
そして何かを喋ろうとした瞬間に先程一人だけだ待って俯いていた魔物が動いた。
動いた表紙にフードが脱げた。
肩までくらいの長さになった・・・銀髪を除けば雅はその少女を見た事があった。

「…に、兄様…」

その少女には他の魔物についている獣の耳はついていなかった。

 少女は人間だった。

フラフラとした足取りで結界の壁に手をつく。中からは出られないようになっているのか半透明な壁は少女の行方を拒んだ。
少女は心ここにあらずというようなうつろな目で壁を挟んだ向こうにいる人物を見つめた。

「カシア」

糸が少女に呼びかけた。それを聞いて少女の瞳は少しだけ揺れたが、そのまま下を向いてかぼそい声で独り言のように話し出した。

「兄様、ごめんなさい、ごめんなさい…役立たずな妹で。役立たずな上にわたしは逃げてしまった。ごめんなさい。 
主が、もし森の主が違うところに行くというのならば私、ついて行こうと思うんだ。
今まで私がいじめられてた時にいつも助けてくれたことも、母様や父様が辛い時に支えてくださったことも全部ふいにして。
ひどい妹。いなかったほうがいいのに。」

そこまで一息に言って少女は糸を振り返った。

「私は貴方に受けた恩を一生忘れず、貴方についていきます。だからどうか、最後に兄に会わせてください。」

突然始まったことに雅は困惑を隠せない。
何とも言えぬ疎外感に雅はそっと席を立って、人が少ない結界の端によりかかった。

兄に会いたいと今糸に訴えかけている少女は記憶が正しければ蓮沼家の娘、光だろう。
彼女は狂乱の森に入り、自殺したことになっている。

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