狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。

病んでる砂糖

二十二話『桁違い』(雅視点)

『…っ!』

魔物の大軍が街をおそうという情報は瞬く間に街全体に伝わった。
狂乱の森の魔物がとてつもない化け物であることは街の住民達もおぼろげながらも分かっていた。

『嫌だああ!死にたくない!』

『ああ、終わりだ…』

狂乱の森はかなり広く今回襲ってくる魔物達は森の西側のところのものが多く、まだ街にはついていないという。
あくまで魔物達が街に向かってきているという情報だけだ。それなのに何故か街の住人は路上にへたり込んだり絶叫している。
この世の終わりとばかりに嘆く人で溢れている街の様子にまだ魔物がおそってきていないのに大袈裟な、と思いながら雅は馬を駆ていた。
そして今、街の住人達のせいで今立ち往生している。

『そこを退け!』

怒鳴るがどくのは僅かばかりの理性が残っているものばかりで絶望に染まり切っている住民達は地面に座り込んだり、発狂したりして周りの物音など聞こえていないようだった。

仕方なく馬をおりて走り出す。速度は馬の時と大して変わらなかったが住民達をおしのけて狂乱の森に急いだ。
その時、突然ものすごい地響きのような音が聞こえた。

遠くに見える森から茶色の巨大な塊が転がり出てきたように雅には見えた。
それは先程少女が言っていた魔物達だった。遠くに見えるだけだが、雅はその地響きのような足音と、だんだん大きくなってくる茶色の塊に恐怖して動けなくなってしまった。

王は騎士団を森に配置するように言っていたがあれほどの数を騎士団がとめられるわけない。
力の差は明らかだ。
雅は諦めて空を仰いだ。
その時仰いでみた空に巨大な何かが飛んでいるのを見た。

それは竜だった。竜騎士などが乗っているものと比べ物にならないくらい大きな竜が空を飛んでいた。

『騎士団はこの竜一匹さえ倒せないではないか…』

そう呟く。あの竜が一匹いれば王都は瞬く間に灰になるだろう。

そう諦めた瞬間竜は私の隣に舞い降りた。

『失礼な。人の子、俺は主の命令にてあの魔物らを沈めようと出てきたのに敵に間違うとは失礼ではないか。』

竜が流暢に人語をしゃべったことに私は驚いた。

『ーーだっ!竜だぞ!』

ようやく騎士団達が来たらしい。

『雅殿!その竜は危険です離れていてください!』

騎士団の団長が剣を構えながら言った。

『だからおまえら人間はどうして竜だと言っただけで襲ってくるのだ。助けてやろうと思っているのに。』

竜が呆れたように言った。竜の言葉を聞いて団長は仰け反った。

『なっ!?竜が喋った!?』

そういう団長を横目に私は竜に話しかける。

『それにしても随分と流暢に人語が喋れるんだな。』

私がいうと竜は少し考えたように黙って言った。

『主が言っていた。人語が喋れればいきなり襲われる確率も減るだろうと。』

『お前らが主、主と言っている人物はどんなやつか見てみたいね。』

竜は目を細めて言った。

『優しいお方だ。人間など直ぐに食ってしまえばいいのに主は殺すなと言う。主だって人間を恨んでいるはずなのに。』

そう言った竜と私の間に何者かが割り込んできた。一瞬身構えたがさっきを感じないので警戒を解いた。
突然割り込んできたその者は黒いローブを着ていて、フードを被っていたので顔が見えなかった。

『おい、何、無駄話してるんだよ。』

『すまん、主は?』

竜は全く申し訳なさそうにせずにローブの人物に謝った。
声はどうやら男のものらしかったが青年のような声だった。

『各魔物に声掛け中だよ。あと一分もしたら着くよ。』

『お前らの主とやらが来るのか?』

私が思わず会話に入り込むとローブの人物は顔は見えなかったがあっけらかんとした感じで答えた。

『なんせ西の魔物がほとんど来てるからな、主無しでやろうとしたら皆殺しにするしかなくてめんどくさいし。殺したら怒られるし。』

そう言ってローブの人物は心底めんどくさいと言うようにそうにいった。 

『主はいい人だけどいい人すぎるよね!こんにちは雅様。』

突然女の声がした。口調は無垢な少女の口調だがその声は聞き覚えがあった。

『更紗?』

そう言うといつの間にか竜の頭に乗っていたらしい更紗がいつもよりだいぶ軽い口調で言った。

『はい、そうです!主のめいにて駆けつけました。』

『更紗、お前敬語覚えたんだな。』

ローブの人物がしみじみと呟いた。

『だいぶ前から使えます、失礼ですね。少なくとも百年前から使えますよ。それに主に敬語を使わない霧さんに言われたくないです。』

『え?主に敬語使わないの?』

更紗は言った言葉を聞き返した。

『そうですよ森の見張りの兵をぶっ倒して服を奪って見張りになりすましているんですよ。』

『おい。』

ローブの人物が更紗に向かって声をかけたが更紗は気にしない様子でそっぽを向いた。

『事実なのか?』

私が聞くと更紗はニヤリと笑って答えた。

『事実です!』

『お前なぁ、言い方があるだろ…』

霧が少し疲れたような声で言った。

『おしゃべり終わりだ。さっきから魔物達がいるんだが。』

竜が森の方向を指す。

『いつの間に!?』

そこにはギラギラとした目でこちらを見ている魔物達がいた。




一週間に一回とか調子乗ってましたすいません。
投稿スペースがとてつもなく遅いです。申し訳ありません。m(_ _)m

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