狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。

病んでる砂糖

十九『王城』

『あの森を焼き払う…?』

雅の声が王城の応接間に小さく響く。森とは糸や多くの魔物達が住む狂乱の森のことである。雅は最近糸が気に入ってこっそりつけている花梨の母である。

『うむ、あの森をほうっておくのは少々危険かと思ってな。』

雅の疑わしげな声に答えるのはオブライアン王国の国王である。
雨波家は公爵家で王家とは縁続きにある。故にちょっとした相談に雅が王に呼ばれるのは日常的にあることだった。

『しかし、あの森の主は莫大な魔力を持ち、そして森の魔物達に慕われ、この国に魔物が侵入することを防いでくれています。』

『だからなんだ。』

王は眉間に皺を寄せて言う。王は魔物の恐ろしさを知らないのだろう。

『王は魔物とあったことはほとんどないでしょう。魔物は最弱の者でも騎士が三人でかかってやっと倒せるのです。魔術師であれば見習でも倒せますが。』

『しかし騎士達に倒させるのではないぞ?森を焼き払うのだ。不意をついて森に全方位から火を放てばいくら強かろうと魔物はいずれ焼け死ぬだろう?』

雅は心の中でため息をついた。
この王は世間知らず過ぎる。確かに王だし、少しは世間知らずでも良いだろう。しかしこの国に魔物が侵入してこないという平和な環境のせいで魔物の森を焼き払う事の重大さがわからないのだろう。

『王様〜?』

雅が王をどう説得しようか迷っていると少女の声が聞こえた。
この部屋は基本子供が入るところではない。王の子供が入ることを特別に認められることもあるが。

(この声は聞いたことがない…)

すなわち王家の人間ではない。
少女の声の方向に目を向けるとその少女は応接間の窓から顔を出して呑気におうにひらひらと手をふっていた。驚くべきは少女のいる場所である。
王城は五階建てで応接間は五階にある。少女のいる場所を考えると今少女は王城の外の壁からこの五階まで登ってきて窓から応接間に入ってきている状況なのである。

『なっ…!』

いつも冷静な雅が驚きで思わず声を出す。しかしあんまり大声を出すと外の警備兵にいらぬ心配をかけることになる。

『なぜ、子供がこのような…』

雅は王を見上げる。

『一ヶ月ぶりか。』

全く少女に敵意を見せずに接している王に失礼を通り越した間抜けな声が出る。

『は?』

『王様ー、今何話してたの?確か森を焼くとかなんとか。』

『いつからいた?』

『森を焼き払うと王様が言った辺りからでしょうかね。』

国王の前だと言うのにあまり気にせず友達と話すようにのほほんと笑う少女に雅はただただ驚いてみていることしか出来なかった。



100PV超えました!ありがとうございます!更新は一週間に一回、それより長引くかもしれませんが暖かく見守って貰えると嬉しいです。

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