狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。

病んでる砂糖

番外 十七『雨(中編)』

一方その頃、更紗はまず糸に任された西へ走っていた。
なぜ雨ごときでそんなに慌てるのか。
それはまず、この森にいる魔物の三分の一位の魔物は昔元々動物だったのを魔術師達によって魔物にされた者達だった。魔術によって魔物になったとはいえ、そういう魔物達は元々動物だったのが魔力を持って、攻撃力が増し、人に化けられるようになった。そして同時に元の動物の特徴も引き継いだ。その中には動物だった時の名残で雨で弱る者もいる。まあ正確には水だが。水で弱る魔物の代表はうさぎ(の魔物)である。うさぎは毛が多く、一度濡れるとなかなか乾かない。そしてその湿気で体が弱り、最悪の場合死ぬ。うさぎといえば更紗もそうなのだが、更紗はもうだいたい成長している。
まだ、ろくに成長していない小うさぎの体でまともに雨に当たると死に直行しかねない。
更紗にはそうやって弟をなくした経験があった。



(更紗の記憶)

『さらさねーちゃん、さらさねーちゃんったら。ねえねえ、僕達なんであそこより向こうに行けないの?』

更紗の弟は活発で魔物の中で稀にいる人懐っこい性格だった。

『あそこは人魚さんが住んでいる沼だからよ、私たちが行って、悪戯にお水をかけられたら私たち、下手したら死んじゃうんだよ。』

更紗がやや脅すように言うと弟はちょっと考えて言った。
人魚は危害さえ加えなければ温厚な正確なので機嫌を損なわなければそんなことはされないはずだが弟の性格を思うと弟が人魚の機嫌を損ねる姿しか浮かばない。

『人魚さん…?さらさねーちゃんは会ったことあるの?』

『さあ?』

更紗は問いに答えず、にこりと微笑んだ。
口をとがらせる弟に更紗は頬を思わず緩めるが、銀が慌てた様子で森を走ってきた。

『おい、早く森の洞窟にいけ!もうすぐ雨が降るぞ!』

『俺たちはまだ遊び足りねーもん。』

『早く帰ろう?雨に濡れちゃうと私たちうさぎは死んじゃうんだよ?』

更紗が諭すように行ったが弟は意地を張った。
弟は活発なわりに体が弱く、いつも森の中心にある洞窟で寝込んでいるか、そこでほかの魔物の子供たちとしか遊んでいなかった。今日、更紗の気まぐれでちょっとならいいでしょ、と母親に許可を取って洞窟から連れ出したのだった。

『雨なんかで僕は死にやしないよ!ねーちゃん嘘ついてるでしょ?』

弟はうさぎにとって雨がどんなものか知らなかった。

『ついてないよ置いてっちゃうよ?』

更紗は冗談で言ったつもりだが弟は聞かなかった。 

『別にいいよ。』

更紗は言葉通りに本当に先に言ったところで引き返すつもりだった。
しかし説得をしているその途中で雨はもう降り始め急いで戻った時に弟は木の下でがたがたと震えていた。
急いで帰ったけれど、もうその時弟の体は冷え切っていて助けることは出来なかった。
あの時引きずってでも連れて帰ってればと悔やみきれないほど後悔した。

弟の事を思い出していると子うさぎ立ちが避難している森の中心あたりにある洞窟についた。

『もうみんな避難したの?』

『んーとね、葵がね、街に行くって言ってでて行っちゃったの。』

子うさぎの中の一人、かなが言った。


『街に行ったの?』

『うん、葵は街によく行ってるよ。』

『分かった。』

更紗はそう言って急いで洞窟を飛び出すと街の方へ駆け出した。

『おい、更紗どこに行くんだ。』

『あ、霧さん、今洞窟にいた奏から葵が街に行ったって聞いて…』

『わかった、早く行け!』

『ええ!?あ、はい行ってきます!』

更紗は街に飛び出した。人間達は雲行きが怪しいな、などと呑気に話している。こっちは雨に当たるだけで致命傷をおったようなもんなのに。

『葵!』

通りを行き交う人々の中から一人だけフードをかぶった子供を見つけた。その中からはちらりと銀髪が覗いている。

『更紗姉?』

子供―葵が聞き返した瞬間葵を抱いて走り出した。

(間に合わない…!)

森よりも近い栞堂に目的地を変え、更紗は走り出した。
途中から雨が降ってきた。葵は濡れないように抱いて走っている。体が熱くなっているのを感じ、意識も朦朧としてくる。しかしそれでも私は走った。そして栞堂の扉を開ける。

ガチャン

『すまない!栞!ちょっと雨が止むまでここにいていいか!?』

そう言って奥にいる栞を見た瞬間私の意識は途切れた。

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