狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。
十一『呼び出し』
なんて事だ。あいつに向かって確かに放ったはずなのにあの球は軌道を逸れて横に行った。
『凛華さん、今のは凜華さんがやったのですか?』
教師が言う。あっちだって分かっているのだろう。こんな悪戯は学園で何回も起こしている。気に食わない男爵令嬢を、大人数で囲んで、殴ったり蹴ったり。私に逆らった下級生をまた囲んでいじめて。魔力が弱くて魔術の授業の時に目障りだからと、そんな少ない魔力もらってやるといじめた一般庶民の娘。そして魔力がやたらと強くて気に食わないからいじめたら行方不明になった令嬢。これらのことを悪戯の言葉では済まされないことを何回もやってきた。人をいじめている時だけ家でのあの反吐が出るような親の言葉を忘れられた。
(凛華の記憶)
『パパとねママは凛華の気持ちちゃんと分かってる。だからね凛華が隣の子をいじめた理由もちゃんとわかってるんだ。』
なんだよ言ってみろよ。どんな面白い言い訳が出てくるのかと心の中で鼻で笑った。
『凛華、寂しかったんでしょ?』
『は?』
思わず声が出た。なんて勘違いをしているんだ。お前らは。思わず嘲笑さえ浮かべそうになる。両親がいないのは普通のこと。だから寂しいと多少思ったって銀が遊んでくれるからそれで寂しさなんてどっかに飛んでいく。私が人をいじめるのはその人が見せる表情と、あんた達が必死にかけてくるその言葉。別に何ら意味は無いが幼い頃から人を支配することが好きだという凛華の性格のせいである。最初は勘違いしている両親の言葉を聞いて滑稽だと思った。けれど十歳になり、十一歳になり、今になって、両親の言葉が何処か台詞を読んでいるように虚しく聞こえてきた。両親は私より下にいるのではなく、私を下に見て宥めているんだと。この歳になってやっと理解した。昔から勉強は嫌いで、本を読むのも嫌いだった。たまに銀が本を読んでいるので覗いたりするが、そのほんをかりてよめば、登場人物が多すぎて誰が話しているのか、誰が何をしているのかわからないし、そういう本に出てくる大体の主人公は母に愛されていて、私のような意地悪な性格のものは主人公の敵役として描かれていた。その時にただ思った。ああ、私は悪い子なんだ。悪役なんだって。なんて幼稚なことを思ったのだろうか。なんて当たり前のことを思ったのだろうか。そしてその本の影響か、人をいじめる目的は変わった。一つはその人の表情を見るため。もう一つは私がいじめた人はその悪に立ち向かうのか。本当にくだらなすぎる理由だ。
『わざとじゃないのか?』
『俺、さっき凛華嬢が投げるみたいな仕草したの見た!』
『いや、こないだ問題を起こしたばかりだ。そんな頻度で前は問題を起こしてなかった。』
生徒達のあいだで中途半端な憶測が広がっていく。まあ、そこで立っていることしかしないんだからそれくらいしかできることは無いんだろう。それにしてもなんだろう…、さっきからなんだか誰かに見られているような気がする。花梨からか。違う。もっと上の方から。謎の視線を気にしながらも私は作り話をして教師に伝える。
『手が、滑ったんです。』
『でも、もし当たっていたら手が滑ったでは済まない。お前の家が最悪潰されることだってあるかも知れないんだ。』
ハイハイ。あんな家、いっそ潰れてしまえっての。誰にも聞かれてないとはいえ、少しは口調を改めた方がいいかもしれない。と思っていると授業の終わりのチャイムがなった。
その後特に問題にはならなかったが、私は花梨を呼び出した。
『何で、碧斗さんまでついて来てらっしゃるの?』
『いや、何か心配ですし…。一人で来いとは書いてありませんでしたから。』
返事に詰まる。
『まぁいいですわ。なんでさっき私の攻撃が逸れたのか、分かります?』
『え?』
話題が意外だったのか、自覚無しか。
『さっき逸れたの?それは貴女がやったのだと思って…』
『まあいいわ。それ以外に聞きたいことがありましてよ。』
私は花梨を話しの途中でぶった切って話題を変える。
『糸?』
思わず、花梨が何か言ったのを私は聞き逃さない。
『糸?糸とはなんのことですか?』
そういった瞬間碧斗と、花梨が目配せし合う。絶対なにかあるに違いない。
『なんですの?』
『いや…それは…』
碧斗が『イケメンだけど、静かすぎて声をかけられない』と言われる程整った顔に、皺を寄せて言葉を濁す。
『あ、いや、今なんとなく服を見たら糸が解れてるな〜、って思いまして!』
空元気を出したように花梨があからさまに明るい声を出す。怪しい。でも聞いてはいけない。こんな陰キャ達と話していてはいけない。凛華は妙にプライド高い性格であった。でも好奇心は止まらない。
『その事ではありませんね?』
明らかに何かを隠している様子でぎくっとした二人に追い打ちをかける。
『そもそもさっきから気になるんですけどなんであなた達が二人でいるんですか?まさか婚約?』
それに至っては私でもないと思うが、丁度いい言葉がなかったので、仕方なくそういう言葉にした。
『な、婚約!?私は庶民ですし身分的に無理でしょう。』
碧斗が真っ赤になる。
『しかし、庶民から王様の寵愛を受けて妾にまで、上り詰めた人だっているのですよ?』
ああ、私はなんでこんなにもムキになっているんだ。言いながら思う。恥ずかしいくらいだ。いつもは厚顔無恥に振る舞い、下級生が来れば警戒されるくらいに作り笑顔でにこやかに接する。気に食わないと思った相手は社会からとまではならないが学園から抹消する。
『うん?あ、知り合いの匂いがする?あんな人からあなたの?犬ですか?』
突然花梨が誰かに向かって喋り出す。
『あいつ?あいつって誰ですか?え?なんでめんどくさい家で働いてるんだ?どういう意味ですか?』
碧斗までしゃべり始めた。私一人蚊帳の外である。
『なんなんですの二人して?』
『隠す必要がなくなったって言ってますね。』
だからが誰だよ。
『って、ひぃっ…!!』
目の前に少女が現れた。右目に包帯をして黒髪の少女だ。格好は少し粗末なものの顔出しはなかなかに整っている。
『誰ですの?』
『さっき花梨がうっかり名前を零した糸だよ、覚えてないか。』
『あ、あのときの!』
『お知り合いですか?』
碧斗が言うが、わたしは黙った。言うもんか。
『お前から銀の匂いがするから』
『銀は世話役で…』
私は疑問に思った。何故こいつが私の世話役の匂いがするなどと言って姿を現したのか。
『銀はこの娘の世話役なのか。』
『ま、面倒事の度に謝りに走ってただけかなって感じですけど。』
銀本人が出てきた。木の上から降りてきたようで糸の横にたった。
『『!?』』
花梨と碧斗はあったことないから突然現れたこと青年に驚きの顔を向けている。
『なんでここに…!』
私はさながら裏をかかれた強盗のような台詞を言ってしまう。銀は少女の頭に手を置いて
『この子が街で暴れてるかもしれないから回収して来いって言われて。』
『誰に?』
たしかに口は悪いが、暴れているという表現は少し言い過ぎじゃないだろうか。
『兄ですね。』
『銀はなんでこいつを知ってるの?』
『んーと、ううん…難しいな。』
銀は言葉を濁らせ黙った。それと同時に蚊帳の外だった二人が話しかけてきた。
『糸、この人は?』
『私の…』
『あ、そう!この子は私の親戚の子なんです!』
『魔物に親戚とかあったっけ…』
少女が無駄なツッコミを入れる。
『え、じゃあ、更紗みたいにこの二人も魔物なの!?』
『いや、違うけど。』
え、魔物じゃ無かったらが今銀が言ったこと嘘じゃない?
『あぁ、もう…とりあえず兄さん回収お願いしまーす。』
銀が叫ぶ。
『ま、見つけてくれたし、回収するよ。これ以上いると面倒くさくなりそうだ。あ、これうちの妹ね』
『もう大分面倒になってますけどね?』
ほかの青年、銀によく似た金髪の子が銀の登場の時のように突然出てきて、一人で喋り始めた。そしてその青年はこないだ、花梨を襲った時少女と一緒に居たやつだ。
『よっと、じゃあうちの妹が失礼しました。じゃ。』
そう言って青年は少女をもののように脇に抱えて去った。銀を除く三人はその場に呆然と突っ立っていたのだった。
『凛華さん、今のは凜華さんがやったのですか?』
教師が言う。あっちだって分かっているのだろう。こんな悪戯は学園で何回も起こしている。気に食わない男爵令嬢を、大人数で囲んで、殴ったり蹴ったり。私に逆らった下級生をまた囲んでいじめて。魔力が弱くて魔術の授業の時に目障りだからと、そんな少ない魔力もらってやるといじめた一般庶民の娘。そして魔力がやたらと強くて気に食わないからいじめたら行方不明になった令嬢。これらのことを悪戯の言葉では済まされないことを何回もやってきた。人をいじめている時だけ家でのあの反吐が出るような親の言葉を忘れられた。
(凛華の記憶)
『パパとねママは凛華の気持ちちゃんと分かってる。だからね凛華が隣の子をいじめた理由もちゃんとわかってるんだ。』
なんだよ言ってみろよ。どんな面白い言い訳が出てくるのかと心の中で鼻で笑った。
『凛華、寂しかったんでしょ?』
『は?』
思わず声が出た。なんて勘違いをしているんだ。お前らは。思わず嘲笑さえ浮かべそうになる。両親がいないのは普通のこと。だから寂しいと多少思ったって銀が遊んでくれるからそれで寂しさなんてどっかに飛んでいく。私が人をいじめるのはその人が見せる表情と、あんた達が必死にかけてくるその言葉。別に何ら意味は無いが幼い頃から人を支配することが好きだという凛華の性格のせいである。最初は勘違いしている両親の言葉を聞いて滑稽だと思った。けれど十歳になり、十一歳になり、今になって、両親の言葉が何処か台詞を読んでいるように虚しく聞こえてきた。両親は私より下にいるのではなく、私を下に見て宥めているんだと。この歳になってやっと理解した。昔から勉強は嫌いで、本を読むのも嫌いだった。たまに銀が本を読んでいるので覗いたりするが、そのほんをかりてよめば、登場人物が多すぎて誰が話しているのか、誰が何をしているのかわからないし、そういう本に出てくる大体の主人公は母に愛されていて、私のような意地悪な性格のものは主人公の敵役として描かれていた。その時にただ思った。ああ、私は悪い子なんだ。悪役なんだって。なんて幼稚なことを思ったのだろうか。なんて当たり前のことを思ったのだろうか。そしてその本の影響か、人をいじめる目的は変わった。一つはその人の表情を見るため。もう一つは私がいじめた人はその悪に立ち向かうのか。本当にくだらなすぎる理由だ。
『わざとじゃないのか?』
『俺、さっき凛華嬢が投げるみたいな仕草したの見た!』
『いや、こないだ問題を起こしたばかりだ。そんな頻度で前は問題を起こしてなかった。』
生徒達のあいだで中途半端な憶測が広がっていく。まあ、そこで立っていることしかしないんだからそれくらいしかできることは無いんだろう。それにしてもなんだろう…、さっきからなんだか誰かに見られているような気がする。花梨からか。違う。もっと上の方から。謎の視線を気にしながらも私は作り話をして教師に伝える。
『手が、滑ったんです。』
『でも、もし当たっていたら手が滑ったでは済まない。お前の家が最悪潰されることだってあるかも知れないんだ。』
ハイハイ。あんな家、いっそ潰れてしまえっての。誰にも聞かれてないとはいえ、少しは口調を改めた方がいいかもしれない。と思っていると授業の終わりのチャイムがなった。
その後特に問題にはならなかったが、私は花梨を呼び出した。
『何で、碧斗さんまでついて来てらっしゃるの?』
『いや、何か心配ですし…。一人で来いとは書いてありませんでしたから。』
返事に詰まる。
『まぁいいですわ。なんでさっき私の攻撃が逸れたのか、分かります?』
『え?』
話題が意外だったのか、自覚無しか。
『さっき逸れたの?それは貴女がやったのだと思って…』
『まあいいわ。それ以外に聞きたいことがありましてよ。』
私は花梨を話しの途中でぶった切って話題を変える。
『糸?』
思わず、花梨が何か言ったのを私は聞き逃さない。
『糸?糸とはなんのことですか?』
そういった瞬間碧斗と、花梨が目配せし合う。絶対なにかあるに違いない。
『なんですの?』
『いや…それは…』
碧斗が『イケメンだけど、静かすぎて声をかけられない』と言われる程整った顔に、皺を寄せて言葉を濁す。
『あ、いや、今なんとなく服を見たら糸が解れてるな〜、って思いまして!』
空元気を出したように花梨があからさまに明るい声を出す。怪しい。でも聞いてはいけない。こんな陰キャ達と話していてはいけない。凛華は妙にプライド高い性格であった。でも好奇心は止まらない。
『その事ではありませんね?』
明らかに何かを隠している様子でぎくっとした二人に追い打ちをかける。
『そもそもさっきから気になるんですけどなんであなた達が二人でいるんですか?まさか婚約?』
それに至っては私でもないと思うが、丁度いい言葉がなかったので、仕方なくそういう言葉にした。
『な、婚約!?私は庶民ですし身分的に無理でしょう。』
碧斗が真っ赤になる。
『しかし、庶民から王様の寵愛を受けて妾にまで、上り詰めた人だっているのですよ?』
ああ、私はなんでこんなにもムキになっているんだ。言いながら思う。恥ずかしいくらいだ。いつもは厚顔無恥に振る舞い、下級生が来れば警戒されるくらいに作り笑顔でにこやかに接する。気に食わないと思った相手は社会からとまではならないが学園から抹消する。
『うん?あ、知り合いの匂いがする?あんな人からあなたの?犬ですか?』
突然花梨が誰かに向かって喋り出す。
『あいつ?あいつって誰ですか?え?なんでめんどくさい家で働いてるんだ?どういう意味ですか?』
碧斗までしゃべり始めた。私一人蚊帳の外である。
『なんなんですの二人して?』
『隠す必要がなくなったって言ってますね。』
だからが誰だよ。
『って、ひぃっ…!!』
目の前に少女が現れた。右目に包帯をして黒髪の少女だ。格好は少し粗末なものの顔出しはなかなかに整っている。
『誰ですの?』
『さっき花梨がうっかり名前を零した糸だよ、覚えてないか。』
『あ、あのときの!』
『お知り合いですか?』
碧斗が言うが、わたしは黙った。言うもんか。
『お前から銀の匂いがするから』
『銀は世話役で…』
私は疑問に思った。何故こいつが私の世話役の匂いがするなどと言って姿を現したのか。
『銀はこの娘の世話役なのか。』
『ま、面倒事の度に謝りに走ってただけかなって感じですけど。』
銀本人が出てきた。木の上から降りてきたようで糸の横にたった。
『『!?』』
花梨と碧斗はあったことないから突然現れたこと青年に驚きの顔を向けている。
『なんでここに…!』
私はさながら裏をかかれた強盗のような台詞を言ってしまう。銀は少女の頭に手を置いて
『この子が街で暴れてるかもしれないから回収して来いって言われて。』
『誰に?』
たしかに口は悪いが、暴れているという表現は少し言い過ぎじゃないだろうか。
『兄ですね。』
『銀はなんでこいつを知ってるの?』
『んーと、ううん…難しいな。』
銀は言葉を濁らせ黙った。それと同時に蚊帳の外だった二人が話しかけてきた。
『糸、この人は?』
『私の…』
『あ、そう!この子は私の親戚の子なんです!』
『魔物に親戚とかあったっけ…』
少女が無駄なツッコミを入れる。
『え、じゃあ、更紗みたいにこの二人も魔物なの!?』
『いや、違うけど。』
え、魔物じゃ無かったらが今銀が言ったこと嘘じゃない?
『あぁ、もう…とりあえず兄さん回収お願いしまーす。』
銀が叫ぶ。
『ま、見つけてくれたし、回収するよ。これ以上いると面倒くさくなりそうだ。あ、これうちの妹ね』
『もう大分面倒になってますけどね?』
ほかの青年、銀によく似た金髪の子が銀の登場の時のように突然出てきて、一人で喋り始めた。そしてその青年はこないだ、花梨を襲った時少女と一緒に居たやつだ。
『よっと、じゃあうちの妹が失礼しました。じゃ。』
そう言って青年は少女をもののように脇に抱えて去った。銀を除く三人はその場に呆然と突っ立っていたのだった。
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