狂乱の森と呼ばれる森の主は魔王の娘だった。

佐藤 優奈

九『花梨と碧斗』

花梨が帰ってしまうとそれっきりみんな思い思いのことをして夕飯までの時間を潰した。夕飯は主に直兄さんと俺で作る。他の義兄弟達は年齢的にも、性格的にもあまり料理は向いていない。

『それであの子は碧斗の級友かい?』

『え?それ知らないで話してたんですか?』

『いや、聞く暇なかったし。』

『まあそうですけど。』

『あの子には何があったんだろうね、首を切られるなんてただ事じゃない。』

『いや、兄さん。犯人はきっとこれただ事にする気なんだ。きっとあの時みたいに死んでないから大丈夫、なんて言ってうまく言い逃れするに決まってる。』

『あの時?碧斗、こういうことは前にもあったのか?』

『直兄さんも知ってるでしょ?蓮沼家の娘が行方不明で、自殺扱いになっている事。』

『花梨嬢は、きっと凛華嬢がやったと言いたかったんじゃないかな…』

『凛華嬢とは?』

『だからあの行方不明自殺事件の黒幕と思われる新留家。その家の娘が行方不明の令嬢を、虐めていてそのせいでこうなったんじゃないか。って今も言われてる。その家の娘が今言った凛華嬢。』

『あ、だから。』

直兄さんも読めてきたようだ。令嬢の首が切られるなんて死んでいなくても問題になる。元々、この国には女性が少ない。だから今は庶民であっても女を殺すことは大罪となっている。殺したのが女であっても。どんな理由があろうと。これを問題として花梨嬢の母が通報すればきっと新留家は慌てるだろう。今度は相手が自分たちよりも強いのだから。揉み消したとしても、あっち花梨の家が証拠を集めて、そうすると新留家は文句を言えない。これは虐めのように魔力云々ではなく、権力云々の話であるのだから。




『なんだか私、安心しました。』

帰り道、更紗がぽつっと言った。

『何で?』

『あんなふうに、お嬢様が頼れるお友達を作れたのだなぁと、おもいまして。』 

少し楽しそうに更紗が言う。

『そんなの…』

沢山いたよ。と言いかけて口を噤んだ。いた。そう、いただけなのだ。今は碧斗以外いない。その碧斗もさっきは戸惑って少し抱きしめてくれただけで、本当のところはわからない。何故か碧斗を見た瞬間に涙がこみあげて来て、何故か泣き顔を見られたくないと思った。いつも、陰口をいわれたって、何をされたって意地を張って決して傷付いた顔を見せまいとしてきたその意地がこんな形になったのかもしれない。

『それにしても、お嬢様も悪いですねぇ。』

『何で?』

私、なにか悪いことした?

『いや、もうあの時の碧斗君の顔は絶対にお嬢様に惚れてましたね。』

『ほ、惚れて…!?』

あの碧斗が?

『心の中で可愛いって言ってましたからね。』

『え!?嘘!!?』

『私めがしかと聞きました!』

そんな自信満々で言わなくても…。でもなんか…

『嬉しいかも…』

つい口に出してしまった。

『両想い、てやつですかね?』

『さあ?』

誤魔化すために足元の石を蹴る。更紗がはしたないですよと言った。
でも、初めて栞堂に言った時あいつがいたのを見て最悪だと思った。あんまりいけすかないやつだったから。だけど、今は早く明日になって学校で会いたい、と思った。




翌日。

『おはようございます、花梨嬢様!首をお怪我なさったんですか!?』

下級生の子達が心配してくれる。

『心配してくれてありがとう。でも大したことないし、変な転び方しちゃったんだよ。』

自虐的に笑う。今の誤魔化しなんだ。変な転び方って、その転び方じゃ一歩間違えれば死んでるだろ。自分で自分に心の中でツッコミを入れる。下級生の子達は私を心配しながら自分の教室へと入っていった。同級生だとそういうわけに行かないから良かった。そう、一応友達はいる。しかし更紗が言ったのは、きっとそういう事じゃない。
何も隠すことなく心の内を打ち明けられるそう言うのを友達って言うんだろう。
碧斗はどちらか分からない。

『お、おはようございます…花梨嬢。』

『おはよう…』

同じ挨拶なのになんだこの差は。何故か恥じらいがこみあげてくるが平静を装う。

『首の怪我はどうですか?』

『そんなに大した傷じゃないってお母さんが言ってた。でも首は魔術では治すことが出来ないんだって。だから気長に待つしかないってお母さんが言ってた。』

『そう、なんですか。』

碧斗が言葉を区切らせて言った。

『碧斗?』

『ん?』

『いや、何か普段より教室が静かだなぁ…ておもって。』

『そう。気のせいじゃない?』

そう言って少し碧斗が笑った。とても小さく笑ったから一瞬気が付かなかったほどだけど、同じクラスになった四月から碧斗の笑顔は見た事無い。
思ってたより子供っぽい笑みだった。

周りはそんな私達を戸惑いと疑念が混ざった目で見ていた。
いつもの私たちは二人揃って本を読んで授業が始まるまで滅多に動かない。
そんなイメージだったのだろう。そんな私達が話している。
お互いに興味が1ミリも無さそうだった碧斗が私の心配をして私が大丈夫と微笑み返す。それだけ、級友から見れば異常事態だった。でもお構い無しに私たちはできるだけ平静を装って話す。

『今日の帰り、また栞堂で話しませんか?あの話を全部聞いてません。』

そう碧斗が言ったあと私は少し声を小さくして言った。

『ああ、本当にあれはあとから恥ずかしかったです。その時はとにかく誰かに抱きつきたくて…』

碧斗が吹き出す。

『なんですかそれ。あの時、俺は…』

そう言って碧斗は口を噤んだ。私は続きを聞こうと思ったが先生が来たのでお互いに黙った。

『えー、おはようござます。今日は魔術の実践授業があります。怪我をしたら先生にすぐ報告してください。あと、雨波さんは、先日首に怪我をなさいました。少し触ると傷が開いてしまうので気をつけて接してあげて下さい。』

『はい。』

クラスのみんなが返事をすると先生はもう出ていき、入れ替わりに魔術の授業をする先生が入ってきた。

『えー、今日の授業は実践授業なので皆さん、訓練場に移動します。』

私達は学校の隣にある校舎より半分くらいの広さの訓練場に来た。私は怪我をしているので見学になり、木陰からみんなの訓練を見学することになった。授業は見ているだけで面白かった。わたしはその木の枝に少女が座っていることにも気付かずに授業に見入ったのだった。

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