継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》

リッキー

領地を視察します②


 俺たち四人は現在、ミュルディーン領の中心部を歩いていた。
 街の中心部にはたくさんの店が建ち並んでおり、活気に満ちあふれていた。
「それにしても、人がたくさんですね。馬車から眺めていた時よりも多いように感じます」

「そうだね。街を歩いてみると、改めてここが栄えていることを実感するよ」
 上からだと、小さく見える人が動いているな~程度だったから、そこまでこの生き生きとした雰囲気は伝わって来ないよな。

「そうね。ここをこれ以上良くするのって凄く難しいんじゃない?」
 確かにそうなんだよな……。

「絶対、あるはずなんだけどな……」
 あるよね? この視察で見つけられるかな? 見つけられなかったらどうしよう……。
 はあ、何かこの領地の悪い部分が近寄って来たりしないかな。

「おい、お嬢ちゃんたち。俺たちと一緒に遊ばないか?」

「そうそう。そんな坊主なんてほっといて」

「なんというか……ザ・チンピラだな。ルーに比べたら、可愛く思えてくるよ」
 というか、本当に悪い奴らが近寄って来たよ。
 まあ、ナンパを悪いことと捉えていいのかはわからないけど。
 それにしても、こんな厳ついお兄さんたちに絡まれたら普通の人なら怖がるんだろうけど、全然怖くないな。

「そうですね。どうします? 私が眠らせましょうか?」

「それは目立つよ」
 たぶん、聖魔法で眠らせることが出来る人って珍しいだろうから、もしかすると俺たちが誰なのか特定されてしまうかもしれないでしょ?

「それじゃあ、私に任せて」

「だから、目立ちたくないんだって」
 シェリーの魔法は威力が大きいんだから、絶対に注目の的になってしまうじゃん。

「大丈夫だって。私を信じなさい」
 信じろと言われても……。
 まあ、いいか。少しぐらい威力を調節してくれることを期待しよう。

「まあ、わかったよ」
 もしシェリーが全力で魔法を使った時の為に、逃げる準備をしておくか。

「おいおい。俺たちを無視するんじゃない。ほらほら、行こうぜ!」

「うるさい! 近寄らないで。どこか行きなさい!」
 ずっと俺たちに無視されていた男たちが、怒ってシェリーのことを掴もうとすると、シェリーが避けながら魅了魔法を使った。

「「は、はい……」」
 チンピラ二人は、今までの言動からは不自然なくらい素直にどこかに行ってしまった。

「あ、そういえば、その手があったな」
 そういえば、シェリーの魅了魔法を使えば簡単どこかに行ってくれたな。
 まあ、ちょっと不自然だから、もしかすると魅了魔法を使ったことがバレてしまうかもしれないけどね。
 まあ、目立っていなかったから大丈夫だろう。
 今度からは、シェリーに頼んで穏便に解決することにしよう。

「え? 私の得意魔法を忘れてたの? ヒドイ!」
 そ、そんなことないって! 忘れていたんじゃなくて……そう、思いつかなかっただけさ!

「ごめんって。あそこの店でお昼ご飯をおごるから許して」
 俺は謝りながら、近くにあったレストランらしき店を指さした。
 ちょうどお昼時だし、あそこでご飯を済ませてしまおう。

「あ、いいですね。もちろん許しますよ。ちょうどお腹空いていたんですよね~」
 良かった~なんとか許して貰えるようだ。

「ちょっと。許すかどうかは、私が決めるのよ?」
 シェリーがなんか言っているが、許しは貰っているから大丈夫だろう。

「細かいことは気にしない! ほら、行きますよシェリー」
 そう言って、リーナがシェリーのことを押しながら俺たちはレストランに入った。

「よし、この店は何が美味しいんだろう……あれ? ベル、座らないの?」
 レストランに入り、皆で席に座ると、ベルが俺の隣で何かに戸惑いながら立っていた。

「ベル、座りなさい」

「は、はい……」
 俺がどうしたんだろう? と、思っていたら、シェリーが魅了魔法を使って無理やりベルを座らせた。

「乱暴じゃない? それに、ベルもどうしたの?」
 別に、わざわざ魅了魔法を使わなくてもいいでしょ!
 本当……どうしてベルが座らなかったのかを聞いてからでも良かったのに……。

「その……レオ様たちと一緒に食事をとるなんて……」
 え? また、そんなことで? と、思ったけど、一般人なら皇女と同じ机で食事をするのは躊躇うのは普通だった。
 最近シェリーとベルが仲良かったから気にしないと思ったけど、ベルは真面目だからな。

「馬鹿じゃないの? そんなこと、気にしているんじゃないわよ。こういう時くらい、私たちと対等でいなさいよ!」
 俺がどう答えるのが正解なのかを悩んでいると、シェリーが真っ先に怒った。
 あの嫉妬ばかりしていたシェリーがそんなことを言うようになるなんて……。

「そうですよ。今は仕事中じゃないんですから、私たちに遠慮しなくていいんですよ?」
 おお、二人ともカッコいい!
 そして、ここまで三人が仲良くなってくれたのは本当に嬉しいな。

「……わかりました」

「よしよし」
 とりあえず、近くにいたベルの頭を撫でてあげた。

「レ、レオ様……」

「あ、ズルい!」

「お兄さん、モテモテだね。何を注文する?」
 シェリーが文句を言おうとすると、ウエイトレスのお姉さんが注文を聞きに来た。
 そういえば、メニューを見るのを忘れていたな……どうしよう?

「えっと……お姉さんのお任せって出来ますか?」
 また呼ぶのも悪いし、お任せにしてもらうことにした。
 まあ、これなら高い物を出されることはあっても、美味しくない物は出されることはないだろう。

「いいとも。それじゃあ、料理が来るまで待ってなさい」
 お任せでも問題なかったみたいで、お姉さんが笑顔で厨房に行ってしまった。

「お任せで良かったの? そもそも、メニューも見てないのよ?」

「いいじゃないか。何が来るかお楽しみにしようよ」
 まさか、予想を裏切って変な物は出してこないよね?

「まあ、いいわ。それにしても、さっきの男たちはウザかったわね」

「そうですね。視線が凄く気持ち悪かったです」
 ああ、さっきのチンピラ二人の話か。

「たぶん、ああいう人たちがたくさんいるんだろうね。周りの人たちが『またやってるよ……』みたいな目をしてたから」
 あそこにいた人は、誰も俺達を助けようともせず、なるべく目を逸らして関わらないようにしていたな。
 きっと、あれくらいのことは日常茶飯事なんだろう。

「そうだったのですか……。これは、早急にどうにかしないといけませんね」

「うん、これから憲兵の数が増えるから徐々に減っていくと思うよ」
 とりあえず、憲兵にはああいう輩には注意するように言っておかないとな。

「そうですか。憲兵さんには頑張って貰わないといけないですね」
 そうだな。頑張って貰おう。

「あとは、この領地の条例でそういう奴らを処罰できるようにしてみるよ」
 うん……ナンパ程度なら許してやるけど、無理やり連れて行こうとした時点で逮捕とかがいいかな?

「それなら、安心です」

「そうね」

「はい。お待ちどうさま。うち自慢のパスタだよ」
 ちょうど話が終わると、さっきのお姉さんがパスタを運んで来てくれた。
 うん、普通に美味しそうだ。お姉さんを信じて良かった。

「ありがとうございます」

「美味しそう~」

「それじゃあ、ごゆっくり」

「あ、待って」
 俺はあることが聞きたくて、厨房に戻ろうとしたお姉さんを呼び止めた。

「なに? どうしたの? まだ何か注文するの?」

「違います。一つだけ聞きたいんですけど。お姉さんが感じる、この街の悪いところってなんですか?」
 とりあえず、この街に長く住んでいそうなお姉さんなら何か知っているかも。
 そう思って、とりあえず聞いてみた。

「変な質問をしてくるわね。そうね……街のはずれに行くと、スラムがあって……道端で生活している人が多いことかしら?」
 スラムがあって、ホームレスが多いだと?

「そんなに多いんですか?」
 こんなに栄えている街なのに?

「そうよ。あそこは特に治安が悪いから行かないことね。歩いていたらすぐに物を盗まれるわよ」
 それは早急にどうにかしないといけないな……。

「そうなんですか……。ありがとうございます」
 帰ったら、フレアさんに相談してみるか。
 フレアさんなら前から気がついていそうだけどな。

「私としては、親に捨てられてしまった子供たちをどうにかしてあげたいんだけどね……。数が多くてどうにも出来ないわ」
 孤児が多いか……。これも治安悪化の原因だな。

「わかりました。ありがとうございます」
 おかげで、やるべきことが見つかりました。

「いえいえ。それじゃあ、冷めないうちに食べてしまいなさい」

「あ、そうだった。いただきます!」
 お姉さんに言われて、俺はパスタを一口食べてみた。

「うん、美味しい」
 この領地の中心部で店をやっているだけはあるな。

「美味しいですね」
「美味しいわね」
「美味しいです」
 三人も、美味しそうにパスタを食べていた。

「それにしても、いい情報を貰えたわね」

「うん、今の話を聞いて、これから何をやるかは決めたよ」

「何をやるんですか?」

「それは、帰ってから話すよ。とりあえず、今はこの料理を楽しもうよ」
 お姉さんに言われた通り、冷める前に食べてしまわないとね。

 それからすぐに、俺たちは食べ終わってしまった。
「ふう、美味しかった。それじゃあ、帰るか」

「え? もうですか?」
 俺の言葉に、リーナが驚いた顔をした。
 それはそうだろう。城を出て、少し歩いてお昼ご飯を食べただけなんだからね。

「うん。四人で街を観光するのは、もう少し治安が良くなってからだな」

「そんなにですか?」

「そんなにだよ。三人とも、気づいてる? 途中から僕たちのことをずっと追って来ている人たちを?」
 そう言って、俺は少し離れた所に座っている男三人組に目を向けた。

「はい。さっきからずっと同じ人から視線を感じます」
 どうやら、ベルは気がついていたみたいだ。
 獣人は、そういうのに敏感なのかな?

「え? そうだったの?」
 やっぱり、シェリーとリーナは気がついていなかったみたいだ。

「たぶん、三人のことを誘拐しようとか考えているんだと思うよ。そんなわけで、これ以上騒ぎを起こしたら目立ってしまいそうだから、帰ろうか」
 あの三人組をどうにかするのは簡単だけど、これからまだまだチンピラがナンパしてきたりしそうだもんな……。
 まさか、ここまで治安が悪いとは。やっぱり、フレアさんが言っていたことは正しかったってことだな。

「そんな……」

、子供だけで歩くのは危ない街だけど、これから治安が良くなってからまた四人で遊ぼうよ。ね?」
 これから良くしていくから、それまで我慢して?

「わかったわ……」

「うん、よしよし」
 俺は手を伸ばしてシェリーの頭を撫でてあげた。

「あ、私も!」

「はいよ。よしよし」
 リーナの頭も反対の手で撫でてあげた。
 二人とも、嬉しそうに笑っていて可愛らしいな。

「それじゃあ、帰ろうか。これから忙しいぞ~」
 やることは見つかったから、後はとにかく頑張るだけだ!


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