継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》

リッキー

領地を視察します①

 闇市街が壊滅して、一週間が経った。
 あれから、俺は闇市街でなんとか生き延びることが出来た残党たちを探し出して、捕まえていた。

 生き延びた人の中には、ルーが殺さなかった違法奴隷も混ざっていたから、その人たちはもちろん助けてあげた。
 やっぱり、心に大きな傷を負っているみたいだから、今はゴッツの元奴隷たちと一緒に暮らして貰っている。

 リーナとベルだけは信頼されているみたいで、二人は毎日彼女たちと顔を合わせるようにしているみたいだ。
 二人から聞いたところ、まだ回復には時間がかかるらしい。
 まあ、俺は何もしてあげられないけど仕方ない。早く、少しでも良くなってくれることを願うことにしよう。

 そして、闇市街で生き残っていた人たちを調べてみたら……ほとんどが指名手配されているような犯罪者ばかりだった。
 闇商人だったり、暗殺者だったり、盗賊だったり……本当、あそこはこの世界の闇が凝縮されていた。
 このとんでもない人数の極悪犯罪者たちは、扱いに困ったので帝都に送った。
 城の牢屋にはとても入りきらないから、帝都の方で受け入れてくれて本当に助かったよ。
 今頃、おじさんたち特殊部隊に帝都で取り調べを受けているだろう。

 それと、ルーについてだが……特に何も言うことがない。
 一週間、自分の部屋で何もせずにゴロゴロしていただけだった。
 一日で会うとすれば、朝昼晩の飯の時間だけだった。
 まあ、何か問題を起こされても嫌だから、ずっとこのままでいてくれることを願おう。

 あ、そういえば、一つだけ言うことがあったな。
 ルーがシェリーに懐いてしまったんだ。
 部屋でゴロゴロしている以外の時間は、シェリーにくっついて行動しているみたい。
 まあ、シェリーもまんざらでもないみたいで、何だかんだ言って世話を焼いているから大丈夫だろう。
 そんな感じで、ルーの心配はそんなにしなくて済んだ。

 本当の問題は……これから、この街をどう変えていくかを考えないといけないことだろう。
 資金は有り余っているけど、これまで忙しすぎて何も考えていなかったからな……。
 まず、この街の規則を正すことは当然として……他に何ができるんだろうか?

「うん……」

「どうしたのですか?」
 俺が悩んでいると、隣で書類整理をしていたフレアさんが心配してくれた。

「これから、この街をどう変えていこうか考えているんだけど……何も思いつかないんだ。この街の何が悪いのかもわからないし……。フレアさんは、何かこの街の直さないといけないと思ったことはない?」
 フレアさん、凄く優秀みたいだし、何か良い案を出してくれそうだよね。
 俺と比べて行政に詳しいだろうし、俺が気づけないことをポンと教えてくれそう。 

「一つだけあります。この街、治安が悪すぎです」
 俺が質問すると、フレアさんが即答してくれた。
 やっぱり、フレアさんは何か考えがあるみたいだね。

 治安悪すぎか……
「まあ、確かに……闇市街とかあるしね……」

「それだけじゃないです。この街、人口に対して憲兵が少な過ぎます」
 憲兵? あ、前世の警察みたいな組織のことだったな。
 憲兵が少ないのか……。
 そういえば、この街に来て街を巡回している兵士らしき人はまだ見たことが無かったな。

「うん……それはどうにかしないといけないね」

「はい。早急にどうにかした方がいいと思われます」

「わかった。それにしても、どうして憲兵の数が少ないんだろう?」
 この街、金は有り余っているんだから、別に憲兵くらい金をケチる必要は無いだろ?

「調べてみたら……憲兵に使われるはずだった資金が前管理者に横領されていました。その為、新規で憲兵を雇うことが出来なかったんだと思われます」

「そんなことばかりだな……。はあ、ゴッツめ……」
 またかよ! あいつ……まだ城にいたら思いっきりぶん殴っていたぞ。

「はあ、それじゃあ、憲兵を募集しておいて。それと、憲兵の給料も今までより上げてあげて」
 たぶん、今まで大変な思いをしていただろうからね。
 待遇を良くしてあげないと可哀想だよ。

「はい、わかりました」

「うん、頼んだ。それじゃあ、俺は街を視察してこようかな」
 俺、ここの領主になってからまだちゃんと街を見て回ったことが無いからね。
 だから、とりあえずこの街を歩いて回って様子を知ることから始めることにしてみた。
 街の様子を知ったら、何か街の為にやりたいことが見つかるはず。

「え? お一人だけで、ですか?」

「そう。あ、もちろん変装はするよ?」
 流石に、正体がバレたら意味無いからね。
 いつもの、冒険者の格好をして外に出ようかな。
 俺の顔を知っている人は流石に少ないだろうし、あからさまに貴族の格好をしていなければ大丈夫だろう。

「そういうことじゃないのですが……わかりました。お気をつけて」

「うん。それじゃあ、行ってくる!」
 俺は、そう言って着替えを取りに寝室に向かった。

 すると……ちょうど部屋を出たと同時にシェリーが廊下の向こうから歩いて来た。
「あ、レオ。どうしたの?」
 自由に歩いているな……。まあ、もう安全だからいいんだけど。

「これから、街の視察をして来ようと思ってね。着替えたら、行ってくるよ」

「え? ズルい! 私も連れて行ってよ! ねえ、いいでしょ?」
 俺が外に出ることを聞いたシェリーは俺の手を掴み、可愛い顔をしてお願いしてきた。
 あ、そういえば、何気なく正直に答えちゃったけど、教えちゃったらこうなるよね……。
 どうしよう?

「え? 一緒に来るの? うん……大丈夫かな?」
 まあ、いいか。部屋の中でずっと閉じ込めておくのも可哀そうだし。
 変装すれば大丈夫でしょ。
 ここ最近、犯罪者たちを一斉に取り締まったから、流石に表だって悪さをしようとする人は流石にいないかな?

 そんなことを考えていると、今度はリーナとベルがシェリーの後ろからやって来た。
「二人とも、どうしたのですか?」

「あ、聞いて! レオが一人で街に視察に行こうとしているの」

「そうですか。レオくん、頑張って来てくださいね」
 俺が外に出ると聞いたリーナは、シェリーとは対照的に温かい笑顔で見送ってくれるらしい。
 なんか、ゴッツ屋敷から違法奴隷を助け出した時からリーナが凄く大人っぽく感じるんだよな……。

「レオ様、お気をつけて」
 もちろん、ベルはわがままを言うことはない。
 逆に、ベルにはもっと甘えて欲しいな~。

「え? いいの?」
 リーナとベルが思っていた反応と違かったので、シェリーは驚いていた。
 まあ、ちょっと前のリーナならシェリーと一緒に私も行きますっていいそうだもんな。

「仕事ですから、外に出るのは普通じゃないですか?」
 やっぱり、リーナは大人になったな。

「そ、そうだけど……一緒に行きたくないの?」

「ええ、大丈夫です。お留守番しています。レオくんの邪魔になってしまいますし……」
 うん……そこまで我慢されると、なんだか申し訳なくなってくるな。
 あ、いいことを思いついた。

「仕方ない……わかったよ。シェリーだけついて来るってことでいいのかな? 二人は、お留守番をお願いね。それじゃあ、シェリーはこれに着替えて。それと、いつもと違う髪型にしようか。それじゃあ、準備が終わったら俺の部屋に来てね」
 俺は、そんなことを言いながらシェリーに服を創造して渡した。
 シェリーが庶民の服を持っているはずが無いからね。
 変装用に新しい服を造ってあげた。

「え? あ、うん……。え? 連れて行ってくれるの!? この服は何!?」
 シェリーは、頭で処理するのが追いつかなかったのか、驚くまでに時間がかかった。

「うん、いいよ。これは、変装用の服。ほら、急いで着替えて来な」

「ま、待ってください! 連れて行って貰えるんですか?」
 服を広げて喜んでいるシェリーの隣で、俺の思わぬ許可に驚いて口を開けて黙っていたリーナがやっと喋った。

「うん。まあ、半分遊びみたいなものだしね。でも、シェリーがそのまま街に出たら目立つと思ったから、庶民の格好をしてもらうことにしたんだ」

「そ、そんな……」
 リーナは、見るからにがっかりしたような顔をした。
 ああ、そんな悲しい顔をしないで、連れって行ってあげるから。

「リーナたちはお留守番するんだよね? それじゃあ、私とレオで仲良く視察してくるわ」
 俺が可愛そうだから早く意地悪を終わらせてあげようとすると、シェリーがリーナに服を見せながらドヤっとした。
 まったく……リーナが泣きそうになっているじゃないか。

「まあまあ。ほら、リーナとベルも着替えて来なよ。貴族と思われないような格好でお願いね?」
 流石にこれ以上はいじめだから、二人にも服を創造して渡してあげた。
 リーナは一瞬、きょとんとした顔をしてから俺と服を交互に確認し、嬉しそうに笑った。

「あ、ありがとうございます! 急いで着替えて来ます! シェリー、行きますよ!」
 リーナは服を嬉しそうに抱きしめて、俺にお礼を言ったらすぐに行ってしまった。

「ま、待ちなさいよ!」

「え、えっと……。私も服を頂いてもいいのですか? 二人には、変装するのに必要だと思うのですが……」
 二人が行ってしまった後、ベルが申し訳なさそうにそんなことを言ってきた。

「ベルにだけ渡さないのもおかしいじゃん? それに、ベルがその服を着ているところ見たいな……。だから、気にしないで着て来てくれない? あ、それと、シェリーたちの着替えの手伝いお願いね」
 創造魔法で造ったからタダなんだし、気にしなくていいのにね。

「わ、わかりました。ありがとうございます」
 俺の言葉に顔を赤くして照れたベルは、お辞儀をすると急いでシェリーたちの後を追いかけて行った。
 うん、三人とも可愛いな。

 それから、俺はいつもの冒険者の格好をして自分の部屋で待っていた。
 まあ、女の子の準備に時間がかかるのはわかり切っていたことなので、特に何も思わず気長に待つ。

「遅くなって、ごめんなさい。シェリーの変装に時間がかかりました」

「わ、私のせい!? リーナだって、ずっと鏡の前から動かなかったじゃない!」

「遅くなってすみません。失礼します」
 お、やっと来た。
 外を眺めていた俺は、視線を騒がしく三人が入ってきたドアの方に向けた。

「うわ……三人とも可愛いじゃん」
 リーナは……俺が創造した大人しい色の服を着ていた。
 うん、庶民感が出ていて、街ですれ違ったら思わず振り返ってしまう可愛い子って感じだな。

 ベルも、俺の渡した服を着てくれたようだ。
 まあ、ベルは庶民だから普通に似合うな。
 逆に今度、ベルにドレスを着せてみるのもいいかも。
 本人は嫌がるだろうけど、見てみたいな~。

 問題のシェリーは、俺が創造したワンピースを着ていて、いつも二つ縛りにしている髪を下ろしていた。
 うん、これなら大丈夫かな。いつもの、ザ・お姫様という感じも好きだけど……この少し大人しい雰囲気のあるシェリーもいいな。

「うん、三人とも渡した服が似合っていて良かったよ」
 まあ、三人の服は、俺が帝都で見かけた可愛いと思った服を真似して創造したから、そこまで心配してなかったんだけどね。

「「「フフフ♪」」」
 三人は、見合わせて嬉しそうに笑った。

「ん? 何かおかしかった?」

「いえ、嬉しかっただけですよ。服のプレゼント、ありがとうございます」
 俺が気になって質問すると、リーナが答えてくれた。

「喜んでもらえてこちらこそ嬉しいよ。それじゃあ、行こうか」

「「「はい」」」

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