継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》

リッキー

危険な違法奴隷②

「で、僕にお勧めの奴隷って何? さっきの奴隷よりも凄いの?」
 応接室に戻ってきた俺は、クラークにそんな質問をしてみた。

「凄いってレベルではありませんよ。先程の奴隷たちでは足元にも及びません」

「そんなに凄いんだ。どんな奴隷なの?」

「それは……」

「クラーク様!」
 クラークが奴隷について説明を始めようとした瞬間、ここの従業員と思われる男が勢いよく入って来た。
 見るからに焦っていた。

「なんだ? 静かにしないか。お客様がいるんだぞ」

「す、すみません。で、ですが、緊急事態なので」

「緊急事態!? 何があったんだ?」

「あ、あいつが逃げました」
 あいつ? もしかして、俺に押し付けようとしていた奴隷のことか?

「はあ? どういうことだ? 眠らせておいたんだろ?」
 あ、やっぱりそうなんだ。

「そ、そうなんですが……。ここに運ぶために拘束具を外した瞬間に……」

「で、あいつは今、何をしているんだ?」

「闇市街で暴れています」
 こわ! 怪獣かよ。

「そ、そうか……」
 クラークは顔面蒼白になり、黙ってしまった。
 どうやら、逃げられたらよっぽど危ない奴隷だったみたいだ。
 そんな奴隷を俺に売るなよな。

「何かあったの?」
 これ以上、この世の終わりみたいな顔を見ていても仕方ないので、俺も話に加わることにした。

「はい。えっと……地下で奴隷が暴れているようで……今、部下が取り押さえているそうです」

「そうなんだ……。でも、今の話を聞く限り、苦戦しているんだよね?」

「は、はい。で、でも、大丈夫です。今、部下が総出で取り押さえていますので」
 まあ、嘘だろうな。
 さっきのやり取りを見ている限り、拘束していないとどうにもできないような奴隷なんだろうから。

「それならいいけど。で、僕に紹介したい奴隷はまだ?」
 クラークが正直に話してくれないので、少し意地悪を言うことにした。

「そ、それが……」
 俺の質問に、クラークは言葉を詰まらせてしまった。

「どうしたの? そういえば、さっきここに連れて来ようとしたら暴れだしたって言っていたね。もしかして、そんなに危ない奴隷を僕に売りつけようと考えていたの? 僕は子供だから大丈夫だろうって?」
 早く白状して欲しい俺は、どんどん問い詰めていく。

「そ、そんなことは……」

「じゃあ、どうして奴隷を連れて来ないの?」

「す、すみません」

 クラークは俺に謝ると、部下とこそこそと話し始めた。
『おい! さっさと地下から他の奴隷を連れて来い!』

『む、無理ですよ! 地下の従業員が全員殺されてしまったんですよ? そんな場所には怖くて行けません』

『なに? 奴隷契約で従業員に危害は加えられないだろ?』

『店を壊して、その下敷きにしていました』

『はあ? それじゃあ、他の奴隷も死んでしまったのか?』

『いえ、そちらは殺されていません』

『そ、そうか……。今は闇市街で暴れているんだったよな?』

『はい。壊して回っています』

「へえ。それは大変だね」

「「え?」」
 話すことに夢中になっていた二人は、俺が近くにいたことに気がついていなかったようだ。

「詳しく教えてよ。場合によっては助けてあげてもいいから」

「は、はい……」

『言っていいと思うか?』

『いいと思いますよ。元々、会長になって貰うつもりでしたから』

『そ、そうだな』

「実はですね……。この地下には闇市街と呼ばれる街があるのですよ」

「うん」

「そこでは、地上では売ってはいけないような物が高額で売られているんです」

「そうなんだ」

「その街で現在、一人の奴隷が大暴れしています」

「それなら、主であるあなたが止めに行けばいいんじゃないの? 奴隷契約をしているんでしょ?」
 命令して終わりじゃん。

「そ、それが……奴隷契約で殺すことが出来ないはずの従業員を殺すことが出来てしまったのです」

「だから、怖くて行けないと」

「そ、そうです……」
 クラークは何も言い返せず、素直に認めた。
 自分で連れて来た奴隷なんだから、自分でどうにかしろよな。

「はあ……仕方ない。僕がどうにかしてあげるよ」
 ほっといたら絶対、地上に出て来ちゃうからね。
 そうなったら、もっと面倒なことになりそうだし。

「ほ、本当ですか!?」

「ただし、闇市街はもう終わりにしてもらうけどね。違法な物は、今後一切売らないと約束して」

「そ、それは……」

「それを認めないなら、助けないよ? このままだと、主であるお前を殺しに来るんじゃないの?」
 騙されて奴隷にされただろうから、クラークのことをそうとう恨んでいるだろう。

「し、しかし……」
 はあ、早くしろよ。
 答えは一つしかないじゃん。

「どうするの? 死にたいの? 死にたくないの?」

「わ、わかりました。約束するので、助けてください!」

「よし、わかった。とりあえず、あんたは牢屋の中ね」

「え?」
 俺は、クラークを捕まえて城の牢屋に転移した。

「やあ、ゴッツ」

「お、お前は! あれ? クラーク!」
 俺が急に転移して来て驚いたゴッツは、クラークを見て更に驚いていた。

「お前のおかげで、闇市街はどうにか出来そうだ。そのお礼に元部下を連れて来てあげたよ」

「ど、どういうことだ? お、お前、もしかして話したのか?」
 俺の言葉に、クラークはゴッツに詰め寄った。

「そういうことだから、二人で仲良くしてて」
 まあ、お互い殺さなければ、存分に喧嘩していても構わないんだけど。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
 ゴッツの叫び声が聞こえたが、無視して俺の部屋に転移した。

「ただいまー」
 俺が帰って来ると、シェリーたちが目の前にいた。
 三人とも、凄く心配した顔をしていた。

「どうしても行かないとダメなの?」

「うん、どうにかしないと」
 地上に上がって来たら強制的に戦わないといけなくなってしまうんだから、それならいくら壊れても構わない闇市街で戦った方がいいだろう。

「絶対に死なないでくださいね?」
 リーナが泣きそうな顔をしていた。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ゴーレムも連れて行くし、魔剣と聖剣も使うから」
 それに、俺が苦戦するような相手なら、奴隷なんかにならないと思うぞ。

「だといいのですが」

「大丈夫だって。地下なら、俺も全力で戦えるから」

「レオ様、女性だからって遠慮したら絶対にダメですよ」
 あ、女奴隷って言っていたな。確かに、女性に攻撃するのって躊躇ってしまうかも……。
 けど、殺し合いで躊躇したら死んでしまうから、その時は覚悟を決めないとな。

「わかったよ。どんな相手でも全力で戦うよ」

「お願いします」

「うん。それじゃあ、行ってくるよ。もし、地上に出て来てしまった時は全力で逃げてね」

「レオを置いて逃げるなんて出来ないわ」
 シェリーは、そう言ってしがみついてきた。

「いや、絶対に逃げて。俺が全力で戦えないから」

「わ、わかったわ……」

「ありがとう」
 俺はシェリーを抱きしめてあげた。

「二人もちゃんと逃げるんだよ?」
 そう言って、二人のことも順番に抱きしめた。

「はい……わかりました」

「はい。お気をつけて……」
 二人は今にも泣きそうだけど、必死にこらえながら返事をしてくれた。

 そこまで悲しまなくても……。
 俺、死ぬわけじゃないんだよ?

 そんな文句を心の中で言いながら、リュックを持ってゴッツの地下牢に転移した。
 闇市街に転移しなかったのは、いきなり目の前に敵がいた時に何も出来ないからだ。

「さて、何がいるのかな? アンナ、どんな人が暴れているのかわかる?」

(わかります。現在、闇市街で暴れているのは、魔族の女性です)

「魔族?」
 あの魔王と同じ種族の?

(はい)

「あいつ……よく魔族を奴隷にできたな……。それで、どれぐらい強いの?」
 魔族って、普通に強いよね?

(レベルはレオ様より弱いのですが、持っている能力がわからないので何とも言えません)

「そうか……。直接、見に行くしかないね。まずは、ゴーレムと戦わせて、どんな能力なのか見てから戦うことにしようかな」

(はい。それがいいと思います)

「わかった。それじゃあ、闇市街に入るか。エレナも出しておかないと」
 エレナをリュックから取り出した。

(今日こそ、出番なのよね?)
 エレナは、また機嫌が悪かった。
 この前も特に戦うことは無かったからね。

「たぶん出番はあると思う。話し合いで落ち着いてくれればいいんだけど」

(そうなんだ。話し合いで終わらないことを願っているわ)

「願わないでくれよ。あれ? この前来た時よりも暗い?」
 エレナと会話しながら闇市街に出ると、この前よりも真っ暗な闇市街が広がっていた。

(街灯が壊されてしまったことで、街全体が暗くなっているみたいです)
 そういうことか。

「なるほど……。それじゃあ、ゴーレムを出動させるか」

「よし、行ってこい!」
 ゴーレムを大量に出して、魔族の女がいる方向に向けて行進させた。
 俺は、スカイシューズで空中を歩きながら、遠いところから魔族の女を観察することにした。

「くそ! 来るな!」
 一人の男がそう言いながら、必死に何かから逃げていた。
 男の後方を見てみると、首輪を着けた俺と同じくらいの歳に見える少女が笑いながら歩いていた。

「ふふふ、逃がさないわ」
 女はそう言って、右手を男がいる方向に向けて振り下ろした。

 すると……
「ぐあ!」
 男は何かに抉られているかのように、体が上から消えていった。

「ふふふ、私を騙したことを一生後悔させてあげるわ。あ、死んでしまったら後悔なんて出来ないわね。ふふふ……」

「なんか……思っていたよりもヤバい奴だった……」
 人を殺しながら笑っているとか、怖すぎだろう。

(怖がってるんじゃないわよ! あなた、魔王には平気で挑んでいたじゃない)

「そうだけど……。まあ、いいや。ゴーレム出動!」
 そう言って、ゴーレムの集団で彼女を囲ませた。

「あら、少し強そうなのが来たわね。それじゃあ、ちょっと本気を出しちゃおうかな。えい!」
 そう言って、彼女は手を横一直線に手を振った。
 すると、ゴーレム達の胴体が綺麗に抉られていた。

「う、うそだろ……。あのレッドドラゴンの鱗を使った鎧が一瞬で……」
 なんなんだ? あの魔法は……。

「あら、思っていたよりも弱かったわね。それじゃ、地上に出る方法を探さないと」

 ルー Lv.31

 年齢:11
 種族:魔族
 職業:破壊士
 状態:記憶喪失

 体力:6000/6000
 魔力:****/****

 力:2000
 速さ:2400
 運:10
 属性:無、破壊
 スキル
 魔力強奪 破壊魔法Lv.2
 無属性魔法Lv.5 魔力操作Lv.MAX
 魔力感知Lv.4 格闘術Lv.7

 称号
 異世界の記憶を持つ者
 ドラゴンキラー

「つ、強いのか?」

(強いと思われます。もしかすると、レオ様でも苦戦してしまいそうな相手です)
 俺が呟くと、アンナが助言してくれた。

「そうなの? 見た感じ、魔力と魔力操作以外はそうでもないと思うんだけど?」
 魔力操作のレベルがマックスなのは凄いと思うけど……。

(いえ、魔法の威力は魔力の量と魔力操作のレベルで決まりますので、あの魔族の女性は凄く強いと思われます)

「確かに、言われてみればそうだったな……。それより、この魔力の表示って凄く多いってことなの?」
 見ることが出来ないんだけど?

(はい。多いです。レオ様と比べても桁違いに多いと思われます)
 俺よりも? 魔力だけは自信があったんだけど、上には上がいたか。
 流石、魔族だな。

「マジか……。魔力切れは、お互いにありえないと……」

(はい。そうだと思います)

「しかも、称号にドラゴンキラーとか、怖い言葉が書かれているんだけど?」
 俺、ドラゴンを倒してもそんな称号は貰えなかったよ?

(それは、ドラゴン二体以上を相手に勝ったことがある人につく称号ですね)
 ドラゴンを二体?

「う、嘘でしょ? あいつ、ドラゴン二体以上を相手にして勝ったことがあるの?」

(彼女の能力なら、簡単だと思いますよ。先程、ゴーレムたちがどうなったのか、見ましたよね?)
 そうか、あの能力なら出来るか……。

「それにしても、破壊魔法ってどんな魔法なの?」

(どんな物も、破壊または分解してしまう魔法ですね。創造魔法以上に魔力が必要な魔法ですので、普通の人は使うことはできません)
 でも、あの魔族の女の子は、俺よりも魔力がたくさんあると……。

「厄介な魔法だな。レベル2だと、どんなことが出来るの?」

(見える範囲の物は破壊出来ます。それと、レベル2だと手のモーションが必要です)
 手のモーション……あの手を振っていたのがそうだな。

「なるほど……。じゃあ、まだ勝てる可能性があるかもしれないな」

(はい)

「それと、魔力強奪って何?」
 そんなスキル、聞いたことがないんだけど?

(それは、殺した相手から魔力を奪うことが出来るスキルです。奪った魔力は蓄えることが出来るので、魔力の表示がああなってしまったのではないかと思われます)
 何それ、怖い能力だな……。

「そうなんだ……。俺も人のことは言えないけど、随分とチートだな。流石、俺と同じ異世界の記憶を持つ者だな」
 やっぱり、俺以外にもいるんだな。

(状態が記憶喪失なので、覚えているのかはわかりませんけどね)

「あ、そういえば、記憶喪失だったな。どのくらいの記憶がないの?」
 もしかすると、記憶が戻ればどうにかなるかもしれない?

(それは、本人に話を聞いてみないとわかりません)

「そ、そうなんだ……。どっちにしても、話しかけないといけないのか……。平和に終わるといいな……」
 そんなことを願いながら、俺は魔族の少女の所に向った。

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