継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》
モニタリング
夕飯も食べ終わり、シェリーとリーナとベルは風呂に入りに行った。
俺は、流石に一緒に入るわけにもいかないので、自分の部屋で待っていることにした。
「暇だな……。あ、この間に情報集めをするか」
とりあえず、この城に潜んでいるかもしれない敵を見つけないと。
てことで、ネズミモニターを出した。
「とりあえず、俺に必要そうな情報を見せて」
すると、《四時間前》と表示され、映像が始まった。
場所はどこかわからないけど、二人のメイドが話している映像だ。
『ねえ、聞いて。さっき、噂のレオンス様を見て来たの』
どうやら、一人のメイドがもう一人のメイドに俺を見て来た自慢をしているようだ。
『え? ズルい! どうだった? 噂通りカッコいい?』
『ええ、噂通りの顔だったわよ』
俺、どんな噂されているの?
なんか、照れるな……。
『いいな~。まあ、ここで働いていればいつかは会えるか』
『そうだと思うわ。それにしても、レオンス様の隣にいた女の子たちは凄かったわ』
『え? レオンス様、まだ十歳くらいだったよね? もう、女の子を連れ歩いているの?』
『ええ、皇女様と聖女様のお孫さんらしいわ。私の女の勘が、あの方は将来立派な女好きになると言っているわ』
「それ、全然立派じゃないから! てか、俺にこれを見せてどうしろと?」
思わずモニターに文句を言ってしまった。
俺の女好きをどうにかしろと? 無理だぞ? 自覚がないんだから。
そんな文句を言っている俺のことは気にせず、モニターはそんな俺を気にせず映像を流し続けた。
『え、そうなの? この領地を管理する人って女好きじゃないとなれないのかしら? 前の領主もそうだったらしいし……ゴッツさんもよね?』
ゴッツさん?
『馬鹿! あいつとレオンス様を一緒にしてはダメだわ!』
『そ、そうね。この話は終わりにしましょうか』
こうして、映像は終わった。
「ゴッツって誰だ? 話の流れからすると、この領地を管理している人みたいだけど……。よっぽどメイドたちに嫌われているんだな」
話しに出て来ただけで嫌がられるとか、どんだけ嫌われているんだよ。
「まあ、これから会うだろうし、どんな人かは調べておかないとな。それじゃあ、次の映像をお願い」
今度は、《三時間前》と出てから映像が始まった。
『それで、新しい領主とやらはどんな奴なんだ?』
映像に出てきたのは、随分と太っていて、偉そうに椅子に踏ん反り返っている男だった。
その男の前には、なんとエドワンさんが立っていた。
『えっと……とても、十一歳に思えないくらいしっかりした人でした。料理人の人手が足りていないことを伝えると、すぐに凄腕の料理人を連れて来てくださいましたし。ただ、当然ですがまだ私たちのことは信用していないみたいです。警備も、ご自身が連れて来た騎士たちに任せてしまっていますし』
エドワンさんは、淡々と俺についての報告を目の前の偉そうな男にしていた。
この二人、どういう関係なんだ?
『そうか……。フォースター家の異端児って名前は伊達ではないと……。くそ……面倒だな。もっと無能な奴なら楽だったのに』
無能じゃなくてすみませんね。
それにしても……フォースター家の異端児か……。
『そうですか? 私は、この領地をより良くしてくれると思いますよ』
ん? エドワンさんはどっちの味方なんだ?
『そりゃあ、お前らにとっては嬉しいだろうけど……。まあ、わかった。もう行っていい』
そこで、映像は終わっていた。
「はあ? こいつ誰? 凄い悪役感が漂っているんだけど? しかも、エドワンさんがどっち側かわかりづらいし……」
仕方ないから、エドワンのことは警戒しておかないといけないな。
「まあ、この人も後で調べないとな。それじゃあ、次の映像をお願い」
今度は、《一時間前》と表示された。
そして、映し出された場所は……ちょっとどこかわからなかった。
『どうぞ、こちらへ』
そう言って、ペコペコ頭を下げていたのは、さっきの映像で偉そうにしていた男だった。
そして、その男に連れられて、もう一人の男が入って来た。
『ああ。それじゃあ、話を聞こうか』
もう一人は……貴族か?
高そうな装飾を身に着けていて、そんな感じがした。
『は、はい。えっと……新しく来た領主は、十一歳の見た目に合わないくらい頭がいいみたいです』
『そんなことは知っている。貴族の間じゃあ、有名だぞ? 上級生のテストをお試しで受けさせたら、余裕で全教科満点を取った。中には、満点以上の点数を貰っていてもおかしくないような成績を出したらしいからな』
おお、俺って貴族にとってそんな評価されているんだ。
無能とか言われていた頃が懐かしくなってくるな。
『そ、そうだったんですか……。そ、それと、彼は凄く警戒心が強いみたいです。城にいる使用人のことも全く信用していません。警備も、自分の領地から精鋭を連れて来たそうです』
エドワンさんは、精鋭とは言ってなかったぞ?
報告をするのに、話を盛ったらダメだろ。
『そうか。そうなると、奴に武力を使うのは、やめておいた方がいいな。俺には、フォースター家の精鋭たちを突破することが出来る様な殺し屋を知らないからな』
『忍び屋なら? あそこのリーダーなら出来ますよね?』
え? またアレンと戦わないといけないの?
やめてくれよ……。
『いや、もう忍び屋に頼ることは出来ない。パーティーの時の借りも、戦力確保に使ってしまったからな。それに、奴を殺す依頼を忍び屋に依頼するには、この領地一つ分の金が必要だとさ』
そんなに金が取られるのか……。
まあ、もしそんな金を払って依頼した時には、その金を無駄金にしてやるけどな。
『そ、そんなにですか……。でも、フィリベール家なら……』
フィリベール? なるほど、またあそこか……。
今度こそは、何か証拠を掴みたいな。
『今はそんな金は無いとよ。この前の姫様暗殺計画に馬鹿みたいに金を使って金が大量に減ってしまったのと、フェルマー商会が潰れて収入源が減ってしまったからな』
あら、意外にもう自滅寸前だった?
自業自得だな。
『そうだったんですか……。確か、どちらも奴が関わっていたような……』
それを俺のせいにされても困るな。
特に、フェルマー商会は勝手に潰れたわけだし。
『そうだ。だから、当主様はどうにかしてでも奴を殺したいそうだ』
とんでもない逆恨みだな。
『でも……どうやって? 頭が良くて、強くて、人気もある奴をどうやって殺すんですか?』
そんなに褒めるなって。恥ずかしいだろ。
『それは……少し考えさせてくれ。すぐには無理だ』
だから、諦めろって。そっちの方が楽だぞ?
『わかりました。それで、私はどの様に?』
『奴の弱点を探れ。どんな完璧人間でも、されたら困ることはあるはずだ』
そりゃあ、あるけど……。その対策は、これ以上にないくらいにやったよ?
『わ、わかりました』
『それじゃあ、任せたぞ。それと、くれぐれも裏切る様なことはするなよ? ゴッツ?』
あ、こいつがゴッツか。
今までのやり取りを見ただけで、メイドたちに嫌われているのも納得してしまうな。
『も、もちろんですよ』
『お前を殺すことなんか、簡単なんだからな? そこら辺をよく考えて行動するんだぞ?』
てか、部下を疑っている時点でもう成功しそうにないな。
『は、はい!』
「なるほどね……。この男たちの情報をレッドゴーレムに送ることは出来る?」
俺が質問すると《YES》と表示された。
「それじゃあ、送って」
モニターに指示をしたと同時に、俺はレッドゴーレムに向けて念話を飛ばした。
(この城にいる全てのレッドゴーレムに命令する。今送った男を見つけ次第拘束して、牢屋に入れておけ。それと、見つけたらすぐに報告すること)
「よし、これで敵が一人か二人は減るな。よし、次に行こうか。まだ映像ある?」
《YES》と表示された後、《二十分前》と表示された。
そして、流れて始めた映像はモヤモヤと視界がぼやけていた。
『あ~~。お風呂、気持ちいい』
場所は、お風呂のようだ。
そして、入っているのはシェリーとリーナとベルだった。
『そうですね。やっぱり、レオくんが改造しただけありますよ』
『そうね。これ、レオの家にもあるのよね? ベルは毎日入っているの?』
どうやら、三人で仲良く浸かっているようだ。
これは……消さないといけないやつだよな……。
でも、モニターが出してきたわけだし……仕方ないよね?
うん、たぶん俺に必要な情報があるんだよ。
『ま、まさか。私はメイドですのでお風呂を使わせて貰うなんてことは、滅多にありませんよ』
『滅多に? てことは、入ったことはあるの?』
『はい。月に一度、使用人たちが自由に入っていい日が決められていまして、全員は無理なので順番で入っています』
『そうなんだ……。レオもケチね。毎日でも使わせてあげればいいのに』
はい、ケチで申し訳ございません。
『いえ、レオ様はいつでも使っていいと言っています。ただ、流石にそれは申し訳ないので、一カ月に一回ということになりました』
『そうだったんですね。はあ~~それにしても、これから二カ月間は毎日このお風呂に入ることが出来ると思うと嬉しいですね』
『そうね。これから二カ月間ここにいるのか~~。何も無いといいけど』
『そうですね。私たちは、どうすればいいのでしょうね? 正直、私たちがいることで、レオくんは領主の仕事に集中できませんし……。たぶん、今もレオくんは一人で私たちを守るために何かしてくれていると思いますよ』
本当にごめんなさい。お風呂を覗いています。
『そうね……どうすればいいのかしら?』
『そんなの、簡単ですよ』
二人が悩んでいると、ベルがそう言い切った。
『『え?』』
『シェリー様とリーナ様のお二人が疲れたレオ様を癒してあげることが一番です。レオ様は、甘えん坊です。常にお傍に誰かがいないと寂しくて仕方ない人ですよ? それに、お二人がいなくてもレオ様がこれから大変なことには変わりないんですよね? なら、これから二カ月間頑張っているレオ様に甘えて貰うのが、私たちの役目なのではないのでしょうか?』
『そ、そうね……』
『さ、流石です……』
二人は、ベルの言葉に圧倒されてしまったようだ。
『なんか……今の言葉を聞いて、ベルに負けた気がしたわ。私より、レオを知っているんだもん』
『そうですね。レオくんを見ている時間が違い過ぎます』
『それも違うと思います。レオ様は、本当にお二人のことが好きだから、お二人には自分の弱みを隠しているんだと思いますよ。お二人の前では、カッコいい自分でいたいんですよ』
そ、そんなつもりはないんだけどな……。
カッコつけてるのか……俺?
『そ、そうなのね……なんか、ベルに嫉妬していた自分が馬鹿らしくなってきたわ』
『本当ですね』
『そ、そんな! 気にしないでください』
『うんうん。本当、私が馬鹿だったわ。本当、これまでごめんなさい』
そう言って、シェリーはベルに頭を下げた。
『あ、頭を上げてください。私の方こそ、誤解を招いてしまって申し訳ございませんでした』
ベルも、慌ててペコペコと頭を下げた。
『そんなことないわ。私が勝手に勘違いして怒っていただけだもん。それに、ベルの言葉を聞いて、レオがベルを好きな理由もわかった気がしたし』
『そうですね。そういえば、どういう経緯でベルはレオくんの専属メイドになったのですか?』
『えっと……フォースター家で新規のメイドを募集していると聞いて応募したら、レオ様が獣人好きなのを予想していたメイド長に即決で採用してもらえました』
『レオが獣人好き?』
また、誤解されてしまいそうな言葉を……。
ちょっと、耳や尻尾が気になるだけで、別に獣人族の女の子が皆好きってわけじゃないんだからね?
『ええ、何でも勇者様の頃からフォースター家は獣人の女の人が好きみたいなんです。特に、勇者様に性格がそっくりなレオ様なら絶対好きだと予想していたそうです』
『そ、そうだったのね……この耳とか、尻尾がいいのかしら?』
そう言って、シェリーはベルの尻尾と耳を触り始めた。
『可愛いですもんね。確かに、ずっと傍にいて欲しくなってしまいますね』
リーナも、シェリーと一緒にベルのことを触り始めた。
『ちょ! 二人とも! くすぐったいです!』
うん、この辺で消しておこう。
そう思って、モニターに手を伸ばすと……肩を思いっきり掴まれた。
振り返ると……お風呂上がりの三人が立っていた。
あ、そういえば……これ、録画だったんだっけ……。
「レオ様、私たちを心配してくれるのは嬉しいのですが……覗きはダメですよ?」
ベルは、これ以上にないくらいの笑顔を見せてくれているが……目は全く笑っていなかった。
「は、はい……」
それから、ベルの説教が始まった。
後ろで見ていた二人が少しずつ離れて行くぐらい、ベルの説教は怖かった。
俺は、流石に一緒に入るわけにもいかないので、自分の部屋で待っていることにした。
「暇だな……。あ、この間に情報集めをするか」
とりあえず、この城に潜んでいるかもしれない敵を見つけないと。
てことで、ネズミモニターを出した。
「とりあえず、俺に必要そうな情報を見せて」
すると、《四時間前》と表示され、映像が始まった。
場所はどこかわからないけど、二人のメイドが話している映像だ。
『ねえ、聞いて。さっき、噂のレオンス様を見て来たの』
どうやら、一人のメイドがもう一人のメイドに俺を見て来た自慢をしているようだ。
『え? ズルい! どうだった? 噂通りカッコいい?』
『ええ、噂通りの顔だったわよ』
俺、どんな噂されているの?
なんか、照れるな……。
『いいな~。まあ、ここで働いていればいつかは会えるか』
『そうだと思うわ。それにしても、レオンス様の隣にいた女の子たちは凄かったわ』
『え? レオンス様、まだ十歳くらいだったよね? もう、女の子を連れ歩いているの?』
『ええ、皇女様と聖女様のお孫さんらしいわ。私の女の勘が、あの方は将来立派な女好きになると言っているわ』
「それ、全然立派じゃないから! てか、俺にこれを見せてどうしろと?」
思わずモニターに文句を言ってしまった。
俺の女好きをどうにかしろと? 無理だぞ? 自覚がないんだから。
そんな文句を言っている俺のことは気にせず、モニターはそんな俺を気にせず映像を流し続けた。
『え、そうなの? この領地を管理する人って女好きじゃないとなれないのかしら? 前の領主もそうだったらしいし……ゴッツさんもよね?』
ゴッツさん?
『馬鹿! あいつとレオンス様を一緒にしてはダメだわ!』
『そ、そうね。この話は終わりにしましょうか』
こうして、映像は終わった。
「ゴッツって誰だ? 話の流れからすると、この領地を管理している人みたいだけど……。よっぽどメイドたちに嫌われているんだな」
話しに出て来ただけで嫌がられるとか、どんだけ嫌われているんだよ。
「まあ、これから会うだろうし、どんな人かは調べておかないとな。それじゃあ、次の映像をお願い」
今度は、《三時間前》と出てから映像が始まった。
『それで、新しい領主とやらはどんな奴なんだ?』
映像に出てきたのは、随分と太っていて、偉そうに椅子に踏ん反り返っている男だった。
その男の前には、なんとエドワンさんが立っていた。
『えっと……とても、十一歳に思えないくらいしっかりした人でした。料理人の人手が足りていないことを伝えると、すぐに凄腕の料理人を連れて来てくださいましたし。ただ、当然ですがまだ私たちのことは信用していないみたいです。警備も、ご自身が連れて来た騎士たちに任せてしまっていますし』
エドワンさんは、淡々と俺についての報告を目の前の偉そうな男にしていた。
この二人、どういう関係なんだ?
『そうか……。フォースター家の異端児って名前は伊達ではないと……。くそ……面倒だな。もっと無能な奴なら楽だったのに』
無能じゃなくてすみませんね。
それにしても……フォースター家の異端児か……。
『そうですか? 私は、この領地をより良くしてくれると思いますよ』
ん? エドワンさんはどっちの味方なんだ?
『そりゃあ、お前らにとっては嬉しいだろうけど……。まあ、わかった。もう行っていい』
そこで、映像は終わっていた。
「はあ? こいつ誰? 凄い悪役感が漂っているんだけど? しかも、エドワンさんがどっち側かわかりづらいし……」
仕方ないから、エドワンのことは警戒しておかないといけないな。
「まあ、この人も後で調べないとな。それじゃあ、次の映像をお願い」
今度は、《一時間前》と表示された。
そして、映し出された場所は……ちょっとどこかわからなかった。
『どうぞ、こちらへ』
そう言って、ペコペコ頭を下げていたのは、さっきの映像で偉そうにしていた男だった。
そして、その男に連れられて、もう一人の男が入って来た。
『ああ。それじゃあ、話を聞こうか』
もう一人は……貴族か?
高そうな装飾を身に着けていて、そんな感じがした。
『は、はい。えっと……新しく来た領主は、十一歳の見た目に合わないくらい頭がいいみたいです』
『そんなことは知っている。貴族の間じゃあ、有名だぞ? 上級生のテストをお試しで受けさせたら、余裕で全教科満点を取った。中には、満点以上の点数を貰っていてもおかしくないような成績を出したらしいからな』
おお、俺って貴族にとってそんな評価されているんだ。
無能とか言われていた頃が懐かしくなってくるな。
『そ、そうだったんですか……。そ、それと、彼は凄く警戒心が強いみたいです。城にいる使用人のことも全く信用していません。警備も、自分の領地から精鋭を連れて来たそうです』
エドワンさんは、精鋭とは言ってなかったぞ?
報告をするのに、話を盛ったらダメだろ。
『そうか。そうなると、奴に武力を使うのは、やめておいた方がいいな。俺には、フォースター家の精鋭たちを突破することが出来る様な殺し屋を知らないからな』
『忍び屋なら? あそこのリーダーなら出来ますよね?』
え? またアレンと戦わないといけないの?
やめてくれよ……。
『いや、もう忍び屋に頼ることは出来ない。パーティーの時の借りも、戦力確保に使ってしまったからな。それに、奴を殺す依頼を忍び屋に依頼するには、この領地一つ分の金が必要だとさ』
そんなに金が取られるのか……。
まあ、もしそんな金を払って依頼した時には、その金を無駄金にしてやるけどな。
『そ、そんなにですか……。でも、フィリベール家なら……』
フィリベール? なるほど、またあそこか……。
今度こそは、何か証拠を掴みたいな。
『今はそんな金は無いとよ。この前の姫様暗殺計画に馬鹿みたいに金を使って金が大量に減ってしまったのと、フェルマー商会が潰れて収入源が減ってしまったからな』
あら、意外にもう自滅寸前だった?
自業自得だな。
『そうだったんですか……。確か、どちらも奴が関わっていたような……』
それを俺のせいにされても困るな。
特に、フェルマー商会は勝手に潰れたわけだし。
『そうだ。だから、当主様はどうにかしてでも奴を殺したいそうだ』
とんでもない逆恨みだな。
『でも……どうやって? 頭が良くて、強くて、人気もある奴をどうやって殺すんですか?』
そんなに褒めるなって。恥ずかしいだろ。
『それは……少し考えさせてくれ。すぐには無理だ』
だから、諦めろって。そっちの方が楽だぞ?
『わかりました。それで、私はどの様に?』
『奴の弱点を探れ。どんな完璧人間でも、されたら困ることはあるはずだ』
そりゃあ、あるけど……。その対策は、これ以上にないくらいにやったよ?
『わ、わかりました』
『それじゃあ、任せたぞ。それと、くれぐれも裏切る様なことはするなよ? ゴッツ?』
あ、こいつがゴッツか。
今までのやり取りを見ただけで、メイドたちに嫌われているのも納得してしまうな。
『も、もちろんですよ』
『お前を殺すことなんか、簡単なんだからな? そこら辺をよく考えて行動するんだぞ?』
てか、部下を疑っている時点でもう成功しそうにないな。
『は、はい!』
「なるほどね……。この男たちの情報をレッドゴーレムに送ることは出来る?」
俺が質問すると《YES》と表示された。
「それじゃあ、送って」
モニターに指示をしたと同時に、俺はレッドゴーレムに向けて念話を飛ばした。
(この城にいる全てのレッドゴーレムに命令する。今送った男を見つけ次第拘束して、牢屋に入れておけ。それと、見つけたらすぐに報告すること)
「よし、これで敵が一人か二人は減るな。よし、次に行こうか。まだ映像ある?」
《YES》と表示された後、《二十分前》と表示された。
そして、流れて始めた映像はモヤモヤと視界がぼやけていた。
『あ~~。お風呂、気持ちいい』
場所は、お風呂のようだ。
そして、入っているのはシェリーとリーナとベルだった。
『そうですね。やっぱり、レオくんが改造しただけありますよ』
『そうね。これ、レオの家にもあるのよね? ベルは毎日入っているの?』
どうやら、三人で仲良く浸かっているようだ。
これは……消さないといけないやつだよな……。
でも、モニターが出してきたわけだし……仕方ないよね?
うん、たぶん俺に必要な情報があるんだよ。
『ま、まさか。私はメイドですのでお風呂を使わせて貰うなんてことは、滅多にありませんよ』
『滅多に? てことは、入ったことはあるの?』
『はい。月に一度、使用人たちが自由に入っていい日が決められていまして、全員は無理なので順番で入っています』
『そうなんだ……。レオもケチね。毎日でも使わせてあげればいいのに』
はい、ケチで申し訳ございません。
『いえ、レオ様はいつでも使っていいと言っています。ただ、流石にそれは申し訳ないので、一カ月に一回ということになりました』
『そうだったんですね。はあ~~それにしても、これから二カ月間は毎日このお風呂に入ることが出来ると思うと嬉しいですね』
『そうね。これから二カ月間ここにいるのか~~。何も無いといいけど』
『そうですね。私たちは、どうすればいいのでしょうね? 正直、私たちがいることで、レオくんは領主の仕事に集中できませんし……。たぶん、今もレオくんは一人で私たちを守るために何かしてくれていると思いますよ』
本当にごめんなさい。お風呂を覗いています。
『そうね……どうすればいいのかしら?』
『そんなの、簡単ですよ』
二人が悩んでいると、ベルがそう言い切った。
『『え?』』
『シェリー様とリーナ様のお二人が疲れたレオ様を癒してあげることが一番です。レオ様は、甘えん坊です。常にお傍に誰かがいないと寂しくて仕方ない人ですよ? それに、お二人がいなくてもレオ様がこれから大変なことには変わりないんですよね? なら、これから二カ月間頑張っているレオ様に甘えて貰うのが、私たちの役目なのではないのでしょうか?』
『そ、そうね……』
『さ、流石です……』
二人は、ベルの言葉に圧倒されてしまったようだ。
『なんか……今の言葉を聞いて、ベルに負けた気がしたわ。私より、レオを知っているんだもん』
『そうですね。レオくんを見ている時間が違い過ぎます』
『それも違うと思います。レオ様は、本当にお二人のことが好きだから、お二人には自分の弱みを隠しているんだと思いますよ。お二人の前では、カッコいい自分でいたいんですよ』
そ、そんなつもりはないんだけどな……。
カッコつけてるのか……俺?
『そ、そうなのね……なんか、ベルに嫉妬していた自分が馬鹿らしくなってきたわ』
『本当ですね』
『そ、そんな! 気にしないでください』
『うんうん。本当、私が馬鹿だったわ。本当、これまでごめんなさい』
そう言って、シェリーはベルに頭を下げた。
『あ、頭を上げてください。私の方こそ、誤解を招いてしまって申し訳ございませんでした』
ベルも、慌ててペコペコと頭を下げた。
『そんなことないわ。私が勝手に勘違いして怒っていただけだもん。それに、ベルの言葉を聞いて、レオがベルを好きな理由もわかった気がしたし』
『そうですね。そういえば、どういう経緯でベルはレオくんの専属メイドになったのですか?』
『えっと……フォースター家で新規のメイドを募集していると聞いて応募したら、レオ様が獣人好きなのを予想していたメイド長に即決で採用してもらえました』
『レオが獣人好き?』
また、誤解されてしまいそうな言葉を……。
ちょっと、耳や尻尾が気になるだけで、別に獣人族の女の子が皆好きってわけじゃないんだからね?
『ええ、何でも勇者様の頃からフォースター家は獣人の女の人が好きみたいなんです。特に、勇者様に性格がそっくりなレオ様なら絶対好きだと予想していたそうです』
『そ、そうだったのね……この耳とか、尻尾がいいのかしら?』
そう言って、シェリーはベルの尻尾と耳を触り始めた。
『可愛いですもんね。確かに、ずっと傍にいて欲しくなってしまいますね』
リーナも、シェリーと一緒にベルのことを触り始めた。
『ちょ! 二人とも! くすぐったいです!』
うん、この辺で消しておこう。
そう思って、モニターに手を伸ばすと……肩を思いっきり掴まれた。
振り返ると……お風呂上がりの三人が立っていた。
あ、そういえば……これ、録画だったんだっけ……。
「レオ様、私たちを心配してくれるのは嬉しいのですが……覗きはダメですよ?」
ベルは、これ以上にないくらいの笑顔を見せてくれているが……目は全く笑っていなかった。
「は、はい……」
それから、ベルの説教が始まった。
後ろで見ていた二人が少しずつ離れて行くぐらい、ベルの説教は怖かった。
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