継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》
あいつの対策
「本当に、ゴーレムを造ったら安心かな?」
ゴーレムを造ろうとリュックに手を突っ込んだ俺は、ふとそんな疑問が浮かんだ。
「先程のネズミたちと合わせれば、十分安心じゃないですか? ここまで厳重な警備をしている貴族はいないと思いますよ」
「私もそう思います」
ベルの意見にリーナが賛同する形で、二人が俺の疑問に答えてくれた。
二人が言っていることは正しいと思うんだけど……。
「うん……どうしてだろう? こう、モヤモヤとなんか不安感が拭えないんだよね」
「どうしてでしょうか?」
「このくらいの防犯はこの家でもやっているんだよ。ただ……」
「ただ?」
ただ……突破されたことが……。突破?
「あ、そうか。あいつだ。アレンだ」
「ア、アレン……」
アレンの言葉にシェリーが反応した。
「ごめん。嫌な記憶を思い出させちゃったね」
「うんうん。話を続けて」
「わかった。ありがとう」
「アレンって、忍び屋のリーダーですよね?」
「そう。隠密というヤバいスキルを持っているせいで、絶対に見つけることが出来ないんだ」
おじさんもそうだけど、隠密ってずるいよな。
まあ、俺も人のこと言えないけど。
「そんなに凄いんですか?」
「ああ、どのくらいヤバいかというと、俺がいつも頼っているこのアンナでも見つけることが絶対に出来ないんだ。実際、俺は何度もあいつに不意を突かれているし、逃げられてしまっているからね」
何度も悔しい思いをさせられているからな。
ちゃんと対策しないとな。
「そ、そんな人からどうやって身を守るのよ……」
「そうだな……」
どうすればいいのだろうか?
見つけられないことには、戦うこともできないし……。
見つけることは出来ないし……。
「えっと……結界というものはどうでしょうか?」
俺が悩んでいると、リーナが面白い提案をしてきた。
「結界か……」
確かに、守りには最適かも。
「前におばあちゃんに教えて貰ったのですが、エルフの里には結界魔法を使える人がいて、その人が常に里を守っているらしいです」
「へ~。それは凄そうね。流石リーナ。レオ的にはどうなの?」
「うん、いいと思うよ。とりあえず、造ってみるよ」
材料は何がいいかな……。
やっぱり、ミスリル? どうなんだろう?
そんなことを思いながら、リュックを漁っているといいものを見つけた。
「神樹の枝が良さそうだな。エルフの里にもありそうだし」
「あ、私の杖を造るのに使ったやつね」
「そう。これなら、良い物が出来そうでしょ? てことで、これで造ってみるよ」
俺は、今持っている魔石の中で一番魔力が入っている魔石を取り出して、神樹の枝と一緒に創造魔法をかけた。
そして……出来た物は綺麗な模様が彫られた球が出来上がった。
「うわ~綺麗な模様ね。これをどうやって使うの?」
「ちょっと待ってて」
さあ、鑑定するぞ。
<神魔の結界玉>
魔力を注ぐと、魔力を注いだ分だけ強力な結界を展開することができる
この結界は、外からのあらゆる干渉を拒絶することができる
結界の広さは、使用者の魔力操作によって調節可能
結界を展開中、この球は光りを発します
創造者:レオンス・フォースター
結界玉ね……。
魔力で結界を展開できるのか。
「とりあえず、使ってみるか」
俺は、何気なく魔力を注いでみた。
すると……みるみるうちに黒い何かが俺達の周りを覆っていき、閉じ込められてしまった。
幸い、結界玉が光っているから真っ暗にはならなかったけど。
もしかして、この為の光り?
「な、なんですか? 怖いです」
ベルが俺に身を寄せながら聞いてきた。
「えっと……たぶん、魔力を注ぎ過ぎたみたい。結界が光まで遮っているんだと思う」
何も考えないでやったせいで、加減をミスってしまったようだ。
「ど、どうにかしなさいよ!」
シェリーも怖かったのか、俺にくっつきながら急かしてきた。
「わかったよ。えっと……どうすればいいんだ? とりあえず、中の魔力を抜いてみるか」
結界玉に手を当てて魔力を少しずつ抜き取ってみると、少しずつ結界から光が入ってきた。
そして、魔力を完全に抜き取ると結界は無くなった。
「あ~。怖かったですね。あの結界、夜とか元々暗い時間に使えば怖くないかもしれないですね」
そこまで怖がっていなかったリーナは、結界玉を眺めながら冷静に分析していた。
「そうですね。ちょっと怖かったですが、あれほどの結界なら安心だと思います」
「うん、俺もそう思うよ。それじゃあ、ゴーレムを造ったら城に向かうか」
それから、ゴーレム造りをさっさと終わらせ、料理人の二人も合流して、城に転移した。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
城に転移すると、エドワンさんが待機していてくれた。
「ありがとう。それじゃあ、この二人があっちから連れてきた料理人だから、厨房に案内してあげて」
「わかりました。お二方、ついて来てください」
「「はい」」
相変わらず、息がピッタリな二人はエドワンさんに連れられて部屋から出て行った。
「よし、それじゃあ、まずはネズミたちを大放出しますか」
エドワンさんが帰って来るまでにやっておかないとな。
「ま、待って、それをやる前にさっきの結界を張るやつを貸して!」
俺がリュックに手を突っ込むと、シェリーとリーナが焦り出した。
「う、うん。はい、これ」
二人の勢いに流されて、思わずリュックから結界玉を取り出してしまった。
「ありがとうございます。シェリー私にくっついてください」
「う、うん」
二人は、ギリギリまでくっつくと真っ黒い結界を展開して、急いで閉じこもってしまった。
「そこまでしなくてもね……。ベルは平気なんだね」
「流石に本物のネズミを触るのは嫌ですよ? ただ、造り物なら平気です」
「なるほど。それじゃあ、大放出! はら、散らばれ~!」
そう言って、俺はネズミをリュックの中から大放出した。
ネズミは、あっという間にどこかに行ってしまった。
「うわ~。これは、お二人が見ていたら、泣いていたかもしれませんね」
「ああ、凄かった」
ネズミがうじゃうじゃと凄かったな。
今のが自分に向かってきたとしたら、軽いトラウマになってしまいそうだ。
「それじゃあ、終わったし二人を呼ぶか。って、結界の中にいる人にどうやって合図を送るんだ?」
結界は音も遮断するだろうし、呼んでもわかるはずがないよね?
「念話を送ってみたらどうですか?」
「あ、いいね。やってみる」
(二人とも、終ったから出て来て)
(本当に終わりました? まだ、一匹だけ残っているとかないですよね?)
お、繋がった。念話って便利だな。
(大丈夫。全部どっかに行ったよ)
(それじゃあ)
結界が消えていき、二人が出てきた。
「やっと出てきた。それじゃあ、映像を確認しようか」
今度は、ネズミモニターをリュックから取り出した。
「何を見せてくれるかな~」
すると、モニターに何かが映し出された。
『こちらが、この城の厨房です』
『『おお、広い』』
「これ、料理人の二人とエドワンさんだよね?」
うん、場所はこの城の厨房だな。
「みたいだね。これで、ネズミの移動スピードが凄いってことがわかったな」
今さっき放出したはずなのに、もう厨房の映像を届けてくれるんだからね。
「あ、二人が城の料理人と何か話していますよ」
ベルの言葉に、皆の視線がモニターに戻る。
頼むから、喧嘩とかしないでくれよ?
『あなた方がフォースター家の料理人ですか?』
元々雇わられていた料理人たちが二人に質問していた。
それに、ジムさんが答えた。
『はい、そうです』
ジムさんは、少し顔が強張っていた。
ここで仲が悪くなったらこれから大変。
そんなことを思っていたのだろう……けど、その心配は杞憂に終わった。
『『『『おお~!』』』』
意外なことに、城の料理人たちは大きな歓声をあげた。
『握手してください』
『お、俺も!』
『俺も!』
更に、握手まで求め始めた。
「え? どうしてあんなに喜んでいるの?」
「えっと……前に聞いたんだけど、フォースター家で働くってことは、使用人にとって凄い憧れなんだって」
確か、そんな話を誰かが言っていた気がする。
「はい。勇者様の家で働けるということは、私の様な一般人にとって大変名誉なことなんですよ」
ベルがそう言うなら、そうなんだろう。
「なるほどね……だから、レオの家の料理はあんなに美味しいんだ」
「まあ、たくさんの応募の中から選ばれた人たちだからね」
サムさんが一日で選んだ人たちだけど。
そんなことを思いながら、またモニターに視線を向けると……料理人たちの握手会は終わっていた。
『あの……お二人に、料理長と副料理長をお願いしたいのですが……いいですか?』
マジ? いいの?
『え? いいんですか?』
『だって、私たちは後からここに来たんですよ?』
流石に、遠慮しちゃうよな。
『いえ、お二人に指示を出せる様な料理人はここにはいませんので』
この料理人、かっこいいな。
後で、給料を上げておこうっと。
『わかりました……それじゃあ、料理長はエマがやる』
え? そうなの?
『え? あなたがやりなさいよ。男でしょ?』
『男も女も料理には関係ないだろ? 俺は、エマが料理長の方が絶対にいいと思う。俺は、サポート役で十分さ』
ジム……かっこいいな。
ジムの給料も上げておくよ。
『わ、わかったわ。それじゃあ、これからここの料理長をやらせて貰いますエマです。よろしくお願いします』
こうして、この世界では珍しい女料理長が誕生した。
「おお、そうなったか」
うん、いいね。
これからの二人に注目だな。
「これは、今日の夕飯が楽しみね」
「ああ、楽しみだ。それじゃあ、夕飯までにやっておかないといけないことをやってしまうか」
それから、風呂の改造をし、大量のレッドゴーレムを城に配備した。
そして、その日の夕飯は凄く美味しかった。
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