雨の日

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雨の日

ある日のこと。高校一年生の武田道夫は、いつものように電車に乗り、学校へ向かっていた。駅に着き、電車から降りると道夫はふと空を見上げた。「雨だ」道夫はボソッとつぶやいた。
この地域では雨が降ることはほとんどない。道夫は珍しい雨に心を奪われた。
周囲の人々の目は気にすることなく、幼稚園児のようにはしゃいでいた。
なぜなら、この地域の人々も道夫と同様、
珍しい雨に心を奪われていたからだ。
道夫は、日頃の疲れが全てふっとんだように思えた。「いつまでも降り続け」心の底からそう思った。しかし、薄暗い空はしだいに明るくなっていった。道夫はため息をつくと、腕時計に目をかたむけた。
もう9時を過ぎていた。道夫はどうしてよいのかわからなくなり、地面に倒れこんだ。
「このまま家に帰ろうか」道夫は悩んだ。 
なぜなら、学校へ理由もなく遅刻、欠席すると先生から体育館裏へと呼びだされ
次の日はあざだらけになる程竹刀で叩かられるという決まりがあったからだ。
もし、嘘をついたら一体どうなるのか…。
道夫はすぐにある決断をした。
携帯電話をとりだし、高校へ電話した。「もしもし、武田です。今日は本当に久しぶりの雨で、電車がとまってしまいました。ようやく雨もやんだので今から電車に乗り、学校へ向かいます。」道夫は小さくガッツポーズをした。これは完璧な嘘だと思ったのだろう。すると、高校の先生から「それは大変でしたね。ゆっくりでいいので気をつけて来てください。」そう言われると電話をきり、道夫は満面の笑みを浮かべた。そして、走って学校へ向かった。駅から学校へは5分ほどでついた。
すぐに職員室へ行き、担任の先生へもう一度事情を説明した。すると、先生のはふと
何かに気づいたような顔をした。
そして道夫へ問いかけた。「武田、お前の自宅は学校から20kmほどあるよな。」
武田は「はい。片道1時間ほどかかります。」と力強く答えた。先生は、眉間にしわをよせ低い声で「お前が学校へ電話をかけてきたのは5分ほど前だったな。」
道夫は「はい!そうです。そのあとは走って学校まで来ました。」
道夫ははっとした。先生は道夫に体育館裏に来るようにと良いそのまま職員室から退出した。道夫は震えがとまらなかった。
この時代は先生が生徒にしつけのためなら
なんでもしていいという決まりがあった。
道夫はおそるおそる体育館裏へと行った。
すると、また雨が降り出した。今度の雨は何かが違う。すさまじい勢いで降っている。道夫はこの雨を気にすることはできなかった。目の前にいる男の鋭い目つきに
まるで、蛇ににらまれたカエルのようになっていた。道夫は何も抵抗することなく
その場に倒れこんだ。
あれから3日がたった。
まだ雨は降り続いていた。
いつものように学校のチャイムがなる。
いつものように1日が終わる。
いつものように1日が始まる。
いつものように雨はやみ、晴れの日が続く。
ただ、あの男の姿はなかった。

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