とある鋭き針の物語

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忌々しき呪い

奴は最後の足掻きとして呪いを振り撒いた。
それはごく短距離ではあったものの、今の私達に躱せるものではなかった。
私と竜也は、その黒い霧のようなものに包まれた。霧自体はすぐに晴れたのだが、それと同時に私達の身体にも変化が起きた。


「えっ何!?突然体が痺れて…」

「そいつは麻痺の呪いだ!
くっ、やはり軸の針をも貫通してきたか。」

竜也も呪いにかかり、半分痺れながらも説明を入れる。そう言えば軸の針を刺しているのに無力化できていない。
彼の顔をよく見ると、見覚えのない黒いアザが次第に広がっていくのに気づく。


「とにかく…〔抗呪の針〕で侵蝕を食い止め…お

………」


彼はそれだけ言うと、倒れ伏して動かなくなった。 


「竜也!?返事をして!!」

私は彼に呼びかけるが、一切の返答はない。

それと同時に、鼓動の安定さが失われた。恐ろしいほどの恐怖感に包まれ、動けなくなってしまいそうだ。でも、何もしなければどっちも死ぬだけだ。
とにかく私はポーチの中中から針山を取り出し、その中から抗呪の針を引き抜いた。
そして、すぐに軸の針と入れ替えるように抗呪の針を突き刺した。



…が、


「ぐぅっ…呪いが止まらない!?」

ほんの少し侵蝕が遅くなっただけで、根本的な解決にはならなかった。



「なら…もっと強い抗呪の針を作るだけ!。」

私は強い決意を抱き、万能針を取り出した。そして、それに抗呪の印を紡いでいく。




「麻痺の呪い?随分と弱そうな名前じゃな。」

『ああそうだろう。だが、この世に存在する〔名前と釣り合わない呪い〕の一つだ。』

「一体どんな効果なんじゃ?」

『〔対象を次第に痺れさせる〕ただそれだけだ。』

「ん?効果はいつまで続くんじゃ?」

『そんなものはない。解けるのも術者のみだ。』

「ヒェッ。なんと恐ろしい。」

『まぁ竜のあんたに言うのもなんだが、こいつには気をつけろよ。でなきゃすぐに死ぬぞ。』






「こんな時になぜ師匠の言葉を思い出したのじゃろうか。だが、修魔の言う通りじゃったな。」

儂はそのな事を思いつつ、痺れゆく体に身を預け、目を閉じたのじゃった。




私は、先ほどのものの何倍と印を紡いでみた辺りで疲れがピークに達した為、そこで仕上げることにした。見た感じは先ほどのものと変わらないが、ただならぬ力を持っていることはなんとなくわかる。
ともかく私は、その針を自身に突き刺した。


「お願い、ちゃんと効いて!」




私は強く祈った。すると、体を蝕む黒いアザが消え………たりはしなかったが、その侵蝕はほぼ完全に止めることができた。


「良かった〜。




…はっ!竜也は?」


印を紡ぐことに精神を使い過ぎて完全に忘れていた。
すぐに私は竜也を見る。先ほど同様にピクリとも動かないが、生命竜がいる限り死なない彼ならば、まだ間に合うかもしれない。
私は最後の力を振り絞って針を作り始める。


が、


「嘘……MP切…れ…」

抗呪の印を5巻きもしないうちに、MPが底をついてしまった。仕方なく仕上げたその針を竜也に突き刺したが、全く効果が見られない。


完全に希望を断たれ、さらにMPまで底をついてしまった私に、どっと疲れが押し寄せた。もはや私はそれに抗い切れず、その場に倒れ伏してしまう。もうなにも動かせない。

「竜…也……ごぇ…。

……」


意識が消える直前に私の目に写っていたのは、黒いアザに身を包まれた竜也の姿だった…



呪いについて

生命力や特定の物質などを触媒として発動させることのできる魔術方式。代償を用意するのが面倒であるが為に廃れやすい。
バフやデバフを中心としており〔耐性の概念そのものがない〕ため、呪いそのものを避けない限り確実に影響を受けてしまう。
また、術者本人にしか解くことのできない呪いも少なからず存在している。

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