とある鋭き針の物語

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偏•乱•数!!

俺はとりあえず作戦を練り直し始める。すると…


「……。

…!? これは…。」

恩方の力が伝わってくる。今まで幾度となくかけてもらった、あの温かいような冷たいような波動だ。
その力により俺の鼓動が安定し、集中力が高まっていく。


「ありがとうございます、鼓動竜の恩方。

…。」

俺は高まった集中力を存分に発揮して、この状況を打開する策を練る。こうしている間にも時空竜は、針縫との攻防を繰り広げている。




『どうした、その程度か竜也!』

「今の儂は竜也タツヤじゃ。」

儂は奴の煽りに無駄な返答をしつつ、針縫の攻撃を躱す。
しっかし同じ体でも、動かす奴が違うだけで全く別物になるもんじゃ。
本来針縫は隙を誘うようなテクニックスタイルを取るものじゃが、奴が動かすだけで、力任せな脳筋スタイルに早変わり。おまけに奴は針の使い方を知らないようで、純粋な肉体のみで殴ったり蹴ったりしてくるわけじゃ。翼での追撃が無い分、今の針縫のスタイルからは普段の恐ろしさが感じられん。

ただ問題なのは、一撃一撃が強すぎるという点じゃ。当たらなければいいだけなのじゃが、たまに躱し損ねた時の被害は普段の比では無い。

そういえばあれだけの力を出して、体の方は大丈夫なのじゃろうか?
儂がまさにそう考えた時じゃ。


「ぐっ、げぼっ、ごほっ、ごぼっ。」

突然針縫が吐血したのじゃ。それと同時に、胸元に刺さっていた針も抜け落ちた。
あ、そういえば言ってなかったが、傀儡で操られた対象は術者が動かしているのだが、こういった意志とは関係ない行動まで操ったりはできない。


「な!?大丈夫か?針縫!」

よく見ると、右足と両腕の筋肉繊維がボロボロになり、だらだらと血を滴らせている。
このまま続ければ、間違いなく針縫の体が先に参ってしまう。かといって、奴に手を緩めさせることは不可能じゃ。


「…生命竜、針縫を守ってくれ。

正気なの?私が離れれば、この体は再生能力を失うのよ。そのな状態であれを喰らえば、主の体は粉々に砕け散ってしまうわ。

それを知っての事じゃ。針縫無くして奴を倒すことなど不可能じゃ。

…分かったわ。死なないでね。」

儂は生命竜を説得した。彼女は主の体から離れると、その薄っぺらい体で針縫の攻撃を避けつつ接近し、彼女の表面に貼り付いた。


「さて、ここからが頑張りどきじゃな。」

儂がそう覚悟すると、タイミングよく主が帰ってきた。


「よし、策を思いついたぜ。あとは俺に任せろ。

うむ、任せたぞ。くれぐれもあの拳に当たらぬように。」


やけに時空竜が警戒していることに違和感を感じたが、すぐにそれを察した。


「さあ、作戦開始だ。」

俺はその一声と同時に動き出す。もちろん針縫は攻撃を仕掛けてくる、力任せに。


「そんなんじゃ俺には当たらないぜ。」

俺は攻撃を躱しつつ、足を引っ掛けて針縫を転倒させる。さらに地を蹴って針縫に接近し、腰にかけているサブポーチを奪い取った。


『ん?そんなものをとってどうする気だ?』

「単純な運試しをするだけだよ!」

俺は距離を取りつつポーチ内のから針山を取り出した。正直俺には全て同じに見えるのだが、全て何らかの効果を持たせた針らしい。


「今回ぐらいは頼むぜ、俺の偏乱数!!」

俺は乱数に身を委ね、針を引き抜いた。


「…よし、最高の乱数だ!!」

その針からは、何重にも巻かれた印を感じ取れる。この重み…間違いない、軸の針だ!


俺は針を構えた。立ち上がった針縫はこちらに狙いを合わせる。


『あそこまでして、取る行動はそれか。ならこちらも全速力でお前の体を貫かせよう。』

そして、針縫が今まで見たことのないほどの速度で接近してきた。躱すのは…無理だな。
俺は針を持つ手とは逆の手で、奥の手を使えるように構えた。


『終わりだ、竜也ぁぁ!』

針縫の手が構えた手の前に迫る。
…よし、このタイミングだ!!


「いくぜ!霊術技ー玉鋼虫!!」

俺が霊術技を発動すると、構えた手の前にギラギラと光を反射する虫が現れる。こいつは普通の玉虫と違い、圧倒的な耐久能力を誇っている。
その耐久力でほんの一瞬、針縫の攻撃を受け止めた。


『何!?』

「今だ!そりゃ!!」

俺は針縫の胸元に針を突き刺した。服の上から突き刺したその針は仕込んだ通りの力を発揮する。
彼女の瞳には明るさが戻り、死んだような表情が消え失せた。
俺はホッとした。それ故に、警戒心も弱まってしまっていた。

信じられなかった。意識を取り戻す直前の状態にあった針縫が、あろうことか反射的に攻撃の手を強めたのだ。しかも、力任せではなく、技量特化の一撃を。
そんな一撃、避けられるはずもなく、俺は体を心臓ごと貫かれた。



…私は…何をしてたのだろう?…とにかく状況を把握しないと。
私は周りに神経を傾けた。


「…えっ?」

私の腕が…竜也の胴体を…貫いている?
何かの冗談?それともこれは夢?
とにかく私は現実から目を背きたかった。が、彼の言葉が私を現実に引き戻す。

「針を…つけ忘れてたぞ…。」

彼はそれだけ言うと、その場に倒れ伏した。彼のその目は虚ろを向き、息すらしていない。


「竜也ぁぁー!!」

私はその場に泣き崩れてしまう。それほどに彼の事を思っていたのだろうか…。
私は完全に、戦意を喪失してしまった。



魔王の耐久力について

皮膚だけでも鋼の如き硬さを誇っており、内側ですら〔即死針〕が通用しないほどの耐久性を持つ。
こんな体の動かし方を基準に、無理矢理に針縫を動かしていたので、針縫の体が耐えきれなくなっても何ら不思議ではない。

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