とある鋭き針の物語

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決勝戦前の情報整理

「…?
ああ、シャープレインか。完敗だよ…まさか翼を武器に使うなんてな。」

「私にもこの翼にこんな使い方があるとは思わなかったよ。気づかせてくれてありがとう、師匠。」

「何、気にするな。これもお前が邪神を倒すための手助けなんだから。俺らにゃそれぐらいしか出来ねえからな。それと、治療ありがとな。

 あ、お前ら。今の能力使用は判定外ってことにしとくから気にしなくてもいいぞ。」

彼は微笑んでいた。ついでにさっきの能力発動についてはなかったことにしてくれた。ありがたい。
ちなみに先ほどの針は〔治癒の針〕。傷を癒す針であるのだが、疲れを癒す効果は持ち合わせていない。
彼の表情からは疲れがにじみ出ていたので、とりあえず宿の方に運ぶ事にした。



宿の方では女将さんが待ってくれていた。どうやら準決勝戦で負けてしまったらしい。私は師匠を女将さんに預けると、そそくさと控え室に戻った。体を治すのもそうだが、色々と考えたい事もあったからである。



私は部屋に戻ると、〔治療針〕を体に刺した。ちなみにこれは、じっくり体を癒すものである。なぜこれを選んだかというと、〔治癒の針〕はMP消費が多すぎてこの後引きずる事になる上に、急激に体を治そうとすると、余計に疲労を溜めてしまうからだ。先が控えている私にとってそれはよろしくない。

私は体を癒しながら、先ほどの続きを考え始めた。




 翼の性質についてだが、さっき試した通り異常な程の鋭さを持っている。十分に鍛えられている師匠の、肉体をも貫いたのだから間違いない。また、翼の針同様の再生能力も持っていて、激しく痛みを感じることもなかった。
 このことから、これは『翼の形をした針』ということで納得して良いだろう。今後、これを活用すれば更に幅広い戦略を立てられるだろう。
今になって気づいたことだが、これは私の翼だ。飛べはしないが動かすことならできる。わざわざ遠心力を乗せなくても、翼単独で攻撃に用いれるように、翼の筋肉をつけておくことも大切かもしれないね。

 そういえば翼の針についてだが、他の針と違って元の形に戻すことができない。壊れてもすぐに再生するうえに、再生する程硬度が増している。この時、私のMPが減ったり、疲れが溜まったりする様子もない。どう考えても私とは別の判定になっているようなのだ。
なのに、この針は必ずここに戻ってくる。見えない糸で結ばれているかのように。
ここからは完全に憶測でしかないが、この針はまだ制御できていないのだと思う。そして、何か重要な能力を持っているのだとも思う。
ただ、まだ何かきっかけが足りないのだと思うから、それが見つかるまでは考えるのを後回しにしておいた方がいいのかもしれない。




「シャープレイン様、お呼び出しです。」

私が思考の世界に浸っていると、スタッフからの呼び出しがかかる。


「…!!え!?
ああ。わかった、今から行くわ。」


完全に不意を突かれたため、返答に戸惑いが紛れ込んでしまったが、スタッフはあまり気にしていないらしい。私は淀んでいる気分をリセットすると、ステージに向かっていった。



ステージに上がったはいいが、やはり相手は黒い人だった。


『あんたが今回最期の相手か。少しはやりがいがありそうで何よりだ。よろしく頼む。』

「こちらこそよろしくお願いするわ。私はシャ…」

『シャープレインだろ、知ってるよ。俺は色原シキバラ 那宵ナヨイだ。あんたには期待してるんだ。ちゃんと俺を楽しませてくれよ。』

「言われなくても。」


こっちだって負けるわけにはいかない。たとえ相手がどんなに強くたって。
私は強い決意をし、闘いに臨んだ。


『それでは決勝戦、
〔那宵〕対〔シャープレイン〕を始めます。
3...
2...
1...
スタート!!!』

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