とある鋭き針の物語

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準決勝戦 その2




...私は先ほどの試みで、他にも気づくところがあった。
まず、師匠の拳でようやくひびが入るほどの硬度を持った土台に、翼が突き刺さった事だ。ふつうに考えて、飛ぶための構造である翼が、あれを貫くなんておかしい。
次に、折れるまでにかかる時間が異常に長かった事だ。普通なら一瞬で折れるだろう。まるで骨の中心部に、骨以上に強度の高い骨組みでも差し込まれているかのようだった。
そういえば私の飛膜の針には『壊れても即座に再生する』という性質を持っていた。だいぶ前に試したことだから忘れていたが、さっきの現象はまさにこれであった。

そこで私は、こんな仮説を出してみた。
あの事件で、『飛膜だけでなく、骨の方』まで針になっているのではないか、と。

これについて調べる必要がある。悪いけど、師匠の体で試させてもらう!




 その勢いを乗せた翼は、躱そうとする彼の脚部に深々と突き刺さった。


「ぐぅあっ、な、何だと!?」

こんな不意打ち、予測できる人などそういないものだろう。彼にも予測する事はできず、歪んだ表情からは動揺を察することができる。


「く、こんなもの…。」

 一瞬遅れはしたものの、彼は対処を始める。翼から足を引き抜き、翼の骨をへし折った後すぐに、距離を取っていく。
仮説の通り、翼はすぐに元通りになる。また、先程は気づけなかったが、骨が折れた時にあまり痛みを感じていなかった。神経までやられているのだろうか…。
色々気になる点はあるが、いまはこの闘いを終わらせる事に集中しよう。

私は思考の世界を抜け出し、ライトの方をみる。辛うじて立ってはいたが、片足(……左だね)にはぽっかり穴が開いており、もはや動ける状態ではない。引導を渡してあげよう。


「終わらせるよ、師匠。抵抗はよしてね。」

「ハハッ、何言ってやがる。俺はまだ…終わっちゃいねえよ!」

私は駆け出し、彼に接近する。まだ諦めるつもりはないようだから、油断はしない。
私が十分に接近したところで彼は全力で拳を突き出す。が、先ほどのような鋭さは影もない。
私はその一撃を躱し、突き出した方とは反対の腕を掴む。そのまま力を乗せて、場外めがけて投げ飛ばした。やはり彼に余力はなく、そのまま観客の中へと放り込まれた。
観客が受け止めてくれるかと期待していたのだが、みんな避けてしまった。…無駄に傷つけちゃったわね。



『…ええと…。勝者〔シャープレイン〕!!!』

スタッフはあまりの呆気なさに戸惑っていたものの、試合終了のコールをする。それと同時に、観客による熱い歓声が鳴り響く。


『すごかったぜ、チビっ子!!』

『嘘だろ、あのライトさんが負けるなんて…』

『あのサキュバス、一体何者だ?』

観客からは、様々な感情が乗った声が交わされている。そんなこと言われても、私にだってわからないのだから。

「…はっ、師匠を治療しないと…。」

私はまずすべきことを思い出し、すぐにライトの方へ駆け寄った。たどり着くなり、手を床につける。


「あとで直しとくから、借りるね。」

私は小声でそう呟いたあと、精神を床の一点に流し込む。十数秒した後、それは針の形を成す。私はすぐにそれを拾い上げ、彼の胸部に刺した。
刺した瞬間は観客から怒りの感情を感じたが、それもすぐに消え失せていた。なぜなら、彼の傷が次第に消えていき、1分経つ頃には元通りになっていたからだ。
私は針を元あった場に戻すと特能を発動する。たちまち針は元の床の姿に戻る。



現在理解している特能の仕様

針は刺した部位が体の中心部に近いほど、良い効果を発揮しやすい。大体の生物は胸部が中心部に近いので、とりあえずそこに刺している。

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