境目の物語
伝授と不思議な魔法
「せいッ!」
「はッ!」
ラグとハヤテマルが得物を打ち合わせる。
特技を使わなければ、金属音以外の派手な音もない。風使いの剣士が織りなす、ストイックな剣戟である。
純粋な力では劣るハヤテマルだが、器量とフットワークで引けを取らない。お互いに白熱した打ち合いだ。
とはいえ、別に彼らは仲違いしたわけではない。理由を説明するために、少し時を戻すとしよう。
次の日も、ラグはリティと共に依頼をこなして回っていた。
冒険者らしく危険な依頼も多く受けるが、2人は安定した連携で乗り越える。腰を落ち着けて休息をとる頃には、返済残額も2,000.cを切っていた。
もちろんそこで調子に乗った……というわけではないのだが、ふと風変わりな依頼が目に入った。
依頼内容-【急募! 新魔法のテストプレイ】
推奨-【戦える冒険者、Lv.問わず】
目的地-【交易街地下〜第二層〜】
報酬額-【協力者ひとりにつき1,000.c】
依頼主-【冒険者ホグド】
正確には、たまたま同行していたランドとカイが寄越したものだ。
2人はホグドという名を覚えていた。大競売の目玉商品の競り合いで100万の額を提示していた、3人パーティのリーダーである。
もちろんラグたちには断る理由もない。むしろリティやハヤテマルなどは、新魔法というキーワードに興味津々だ。
というわけで早速受注した、5(+1)のパーティ。ところが現地で待ち受けていたホグドら3人は、ラグとハヤテマルの2人のみを指名して言った。
「風属性が得意そうな君たちに、この魔法を試してもらいたいんだ。やり方は任せるから、接近戦をお願い」
それこそが事の発端。2人はホグドと共にいた魔法使いの女性……メアリの魔法を身に宿して、模擬戦を楽しんでいたのである。
何度も刃を交わす2人だが、勝敗だけが目的ではない。
「我が風の剣技、それすなわち疾風。今この時は守りを捨て、本能のまま、疾く得物を振え!」
「こうか。せいっ! せいッ!!!」
ハヤテマルの指導に従い、ラグの刃が速さを増す。疾風の連撃だ。
これに応えるハヤテマルは風帯を束ねて、刀そのものの形で捌く。洗練された動きだった。
しかしこれを伝播と呼びべきか、洗練されていくラグの動きである。
早く返し、速く振り、そして疾く繰り出される連撃は、徐々に余分な要素を削り落としていく。巧みに捌く中、ある一点で、ハヤテマルが確信を持った。
「ラグ殿、今こそ。荒ぶる裂風を圧縮させた、閃風の刃を!」
「わかった、いくぞ!」
合図を受けて、踏み込む。疾風の剣捌きは全身に伝わり、次にはラグの内を閃きが貫いた。
「(来たッ!)閃裂斬ッ!!!」
掛け声と共に、鋭き風が飛ぶ。何度か口にしてきた風の剣技。
しかし今のそれは違う。勘違いにより皮を被った裂風ではない。本物の、閃裂の風だ。
「……っ!!!」
飛んだ風はハヤテマルの腕を掠め、かと思った最中、破裂。鋭利な風に圧縮された嵐が、彼の腕に食らいついたのである。
それは完全なる成功であった。
ところがハヤテマルの腕には切り傷一つ付いていない。代わりに空間の揺らぎが盾となり、音もなく砕け散った。
メアリによって施された不可視の魔法が、彼の腕を守ったのだ。
「はい、2人ともお疲れ様!」
「テストプレイに協力していただき、感謝します」
ホグドとメアリは終わりを告げながら頭を下げるが、ハヤテマルは少々拍子抜けしていた。
「どうなさいました?」
「い、いえ。しかし恐ろしい完成度であるな。風の刃であれば私の風帯が吸収するのだが、それすら発動させぬとは」
ハヤテマル自身は、ラグの閃裂斬を防ぐ術を用意していた。だが彼が視線で指す風帯は、確かに一本に束ねられたままだった。
つまるところ、威力を削ぎ落とされた閃裂は、風帯が危険視するレベルを外れていたのだ。
「私は風のみの専攻ゆえに他は知らぬが、土属性の魔法であろうか?」
「そう、風属性に有利な土属性。でも実はちょっと違くて、土属性から【性質】を抽出した魔法なんだ」
「「「抽出っ!?!?」」」
ホグドはさらっと説明したが、カイ・ハヤテマル・リティの三人は度肝を抜かした。
ハヤテマルは未知の概念に呆然とし、リティはまだ見ぬ魔法の可能性に目を輝かせた。そしてカイは、疑問を投げかける。
「魔法ってそんなこともできるの!?」
「そもそもホグドさん、あなたからは魔法の力が感じられません。なのになぜメアリさんではなくあなたが、そこまで語れるのですか!?」
ホグドは鼻を伸ばした様子でいて、メアリは呆れた表情でため息を吐く。三人のもう1人、小柄で中性的な人物は補足すべきか戸惑っていた。
そこへ口を挟むのは、我道さんだ。
『そろそろ明かすべきでは? 冒険者ホグド……いやこう言うべきか。ダイヤモンド級冒険者、大魔導士ホグドさん』
「「「えっ!?」」」
今度はラグとランドも合わさり、仲間たち全員で声をあげた。
それも当然だ、ダイヤモンド級は栄誉ある最上級の証だ。しかし大魔導士という単語は、カイの言葉と食い違う。この意表を突いた特徴を持つ青年を前にして、驚かないのは無理であった。
「まったく、種明かしが過ぎるよ我道さん。あまりの温度差に、みんなが熱を出しかねないだろ?」
『おっと、それは私も同じだ。君は双翼大陸の魔術学会を代表する、冷酷な古老だっただろう。それがなぜ今、魔法適性の抜け落ちた武闘家になっている?』
「ははは……実は世界樹の第7層で色々あってね。あんたなら知ってるだろう。でももし聞いてくれるなら、とりあえず休息地の酒場に行かない?」
そこから先は2人の世界だ。早々と引き上げて、ギルドの酒場に腰を落ち着ける。
ラグたち5名は同じ席で話を聞きつつ、今日の稼ぎを終えるのだった。
ーーークエストリザルトーーー
○返済?残額-【5,100.c】→【900.c】
自己評価-【50点】
閃裂斬も正しく習得完了!
気分転換のおかげでキーワードも3つ練れたし、残額もあとちょっとで、どっちもいい調子だ。
にしてもあのホグドって人、不思議な人だった。魔法に詳しくて、新しい魔法を探究してたり……なのに今は魔法に適性がない。推定レベルも80、俺の目で見ても驚くことはなかった。
どうやら世界樹(俺が砂漠に来たばかりの頃に見た、超巨大なサボテン)の内部で「強みを代償に、欲するものを得る」効果を受けたのが原因らしい。と、ここ書いてはみたものの、意味はちょっとよくわからない。本人は「迷宮の不具合で効果が消えてくれない」とも言っていた。
そんなことよりも、ホグド達からは新しい依頼を受けた。試したい新魔法がもう一つあるようだ。
今度はリティの手も借りるって言ってたし、楽しみだ。
(ryトピック〜ホグドたち〜
元気はつらつな者、青年武闘家のホグド。リーダーを咎める者、美少女魔法使いのメアリ。3つの名を持つ者、性別不詳の補佐人ニュート(ヨゾラ/アカツキ)。
経歴も実力も何かおかしいが、全員がダイヤモンド級の冒険者である。
色原 我道は以前の彼らを知っているようだが……
「はッ!」
ラグとハヤテマルが得物を打ち合わせる。
特技を使わなければ、金属音以外の派手な音もない。風使いの剣士が織りなす、ストイックな剣戟である。
純粋な力では劣るハヤテマルだが、器量とフットワークで引けを取らない。お互いに白熱した打ち合いだ。
とはいえ、別に彼らは仲違いしたわけではない。理由を説明するために、少し時を戻すとしよう。
次の日も、ラグはリティと共に依頼をこなして回っていた。
冒険者らしく危険な依頼も多く受けるが、2人は安定した連携で乗り越える。腰を落ち着けて休息をとる頃には、返済残額も2,000.cを切っていた。
もちろんそこで調子に乗った……というわけではないのだが、ふと風変わりな依頼が目に入った。
依頼内容-【急募! 新魔法のテストプレイ】
推奨-【戦える冒険者、Lv.問わず】
目的地-【交易街地下〜第二層〜】
報酬額-【協力者ひとりにつき1,000.c】
依頼主-【冒険者ホグド】
正確には、たまたま同行していたランドとカイが寄越したものだ。
2人はホグドという名を覚えていた。大競売の目玉商品の競り合いで100万の額を提示していた、3人パーティのリーダーである。
もちろんラグたちには断る理由もない。むしろリティやハヤテマルなどは、新魔法というキーワードに興味津々だ。
というわけで早速受注した、5(+1)のパーティ。ところが現地で待ち受けていたホグドら3人は、ラグとハヤテマルの2人のみを指名して言った。
「風属性が得意そうな君たちに、この魔法を試してもらいたいんだ。やり方は任せるから、接近戦をお願い」
それこそが事の発端。2人はホグドと共にいた魔法使いの女性……メアリの魔法を身に宿して、模擬戦を楽しんでいたのである。
何度も刃を交わす2人だが、勝敗だけが目的ではない。
「我が風の剣技、それすなわち疾風。今この時は守りを捨て、本能のまま、疾く得物を振え!」
「こうか。せいっ! せいッ!!!」
ハヤテマルの指導に従い、ラグの刃が速さを増す。疾風の連撃だ。
これに応えるハヤテマルは風帯を束ねて、刀そのものの形で捌く。洗練された動きだった。
しかしこれを伝播と呼びべきか、洗練されていくラグの動きである。
早く返し、速く振り、そして疾く繰り出される連撃は、徐々に余分な要素を削り落としていく。巧みに捌く中、ある一点で、ハヤテマルが確信を持った。
「ラグ殿、今こそ。荒ぶる裂風を圧縮させた、閃風の刃を!」
「わかった、いくぞ!」
合図を受けて、踏み込む。疾風の剣捌きは全身に伝わり、次にはラグの内を閃きが貫いた。
「(来たッ!)閃裂斬ッ!!!」
掛け声と共に、鋭き風が飛ぶ。何度か口にしてきた風の剣技。
しかし今のそれは違う。勘違いにより皮を被った裂風ではない。本物の、閃裂の風だ。
「……っ!!!」
飛んだ風はハヤテマルの腕を掠め、かと思った最中、破裂。鋭利な風に圧縮された嵐が、彼の腕に食らいついたのである。
それは完全なる成功であった。
ところがハヤテマルの腕には切り傷一つ付いていない。代わりに空間の揺らぎが盾となり、音もなく砕け散った。
メアリによって施された不可視の魔法が、彼の腕を守ったのだ。
「はい、2人ともお疲れ様!」
「テストプレイに協力していただき、感謝します」
ホグドとメアリは終わりを告げながら頭を下げるが、ハヤテマルは少々拍子抜けしていた。
「どうなさいました?」
「い、いえ。しかし恐ろしい完成度であるな。風の刃であれば私の風帯が吸収するのだが、それすら発動させぬとは」
ハヤテマル自身は、ラグの閃裂斬を防ぐ術を用意していた。だが彼が視線で指す風帯は、確かに一本に束ねられたままだった。
つまるところ、威力を削ぎ落とされた閃裂は、風帯が危険視するレベルを外れていたのだ。
「私は風のみの専攻ゆえに他は知らぬが、土属性の魔法であろうか?」
「そう、風属性に有利な土属性。でも実はちょっと違くて、土属性から【性質】を抽出した魔法なんだ」
「「「抽出っ!?!?」」」
ホグドはさらっと説明したが、カイ・ハヤテマル・リティの三人は度肝を抜かした。
ハヤテマルは未知の概念に呆然とし、リティはまだ見ぬ魔法の可能性に目を輝かせた。そしてカイは、疑問を投げかける。
「魔法ってそんなこともできるの!?」
「そもそもホグドさん、あなたからは魔法の力が感じられません。なのになぜメアリさんではなくあなたが、そこまで語れるのですか!?」
ホグドは鼻を伸ばした様子でいて、メアリは呆れた表情でため息を吐く。三人のもう1人、小柄で中性的な人物は補足すべきか戸惑っていた。
そこへ口を挟むのは、我道さんだ。
『そろそろ明かすべきでは? 冒険者ホグド……いやこう言うべきか。ダイヤモンド級冒険者、大魔導士ホグドさん』
「「「えっ!?」」」
今度はラグとランドも合わさり、仲間たち全員で声をあげた。
それも当然だ、ダイヤモンド級は栄誉ある最上級の証だ。しかし大魔導士という単語は、カイの言葉と食い違う。この意表を突いた特徴を持つ青年を前にして、驚かないのは無理であった。
「まったく、種明かしが過ぎるよ我道さん。あまりの温度差に、みんなが熱を出しかねないだろ?」
『おっと、それは私も同じだ。君は双翼大陸の魔術学会を代表する、冷酷な古老だっただろう。それがなぜ今、魔法適性の抜け落ちた武闘家になっている?』
「ははは……実は世界樹の第7層で色々あってね。あんたなら知ってるだろう。でももし聞いてくれるなら、とりあえず休息地の酒場に行かない?」
そこから先は2人の世界だ。早々と引き上げて、ギルドの酒場に腰を落ち着ける。
ラグたち5名は同じ席で話を聞きつつ、今日の稼ぎを終えるのだった。
ーーークエストリザルトーーー
○返済?残額-【5,100.c】→【900.c】
自己評価-【50点】
閃裂斬も正しく習得完了!
気分転換のおかげでキーワードも3つ練れたし、残額もあとちょっとで、どっちもいい調子だ。
にしてもあのホグドって人、不思議な人だった。魔法に詳しくて、新しい魔法を探究してたり……なのに今は魔法に適性がない。推定レベルも80、俺の目で見ても驚くことはなかった。
どうやら世界樹(俺が砂漠に来たばかりの頃に見た、超巨大なサボテン)の内部で「強みを代償に、欲するものを得る」効果を受けたのが原因らしい。と、ここ書いてはみたものの、意味はちょっとよくわからない。本人は「迷宮の不具合で効果が消えてくれない」とも言っていた。
そんなことよりも、ホグド達からは新しい依頼を受けた。試したい新魔法がもう一つあるようだ。
今度はリティの手も借りるって言ってたし、楽しみだ。
(ryトピック〜ホグドたち〜
元気はつらつな者、青年武闘家のホグド。リーダーを咎める者、美少女魔法使いのメアリ。3つの名を持つ者、性別不詳の補佐人ニュート(ヨゾラ/アカツキ)。
経歴も実力も何かおかしいが、全員がダイヤモンド級の冒険者である。
色原 我道は以前の彼らを知っているようだが……
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