境目の物語

(ry

駆け巡る地下街の午前

 翌日

 平時の日出に対応して、照明の光が地下街を照らす。目覚めたラグとリティ(と後を追いかける我道さん)は、早速ギルドに駆けつけた。
 建物内に貼り出された依頼は、地上とは全く違う姿をしている。だがしかし、その数はどちらも大差なかった。地下には地下の忙しさがあったのだ。

「ねえラグ、これどう?」
「素材の配達? 面白い、やろう!」

 地下に店舗がないため流れてきた配達依頼。
 店の代わりに屋台で構えた店主に、依頼の物を届けて回る。同時に商人の商売風景を楽しんできた。

「リティ、水路の清掃活動だ」
「行きましょ!」

 街の隅々まで行き届かせたが故に、どうしても手が足りない水路の清掃。
 支給された道具を持って指定の区画に向かい、しつこい汚れと漂着物を取り除く。かつてギルドで培った掃除テクを振るうラグには、リティも我道さんも驚いて手をたたいた。

「次はゴミ処理の手伝い!」

 指定の場所でゴミ処理業者と合流して、宴で余計に溜まったゴミを搬送。

「その次はペットの捜索……ペットの!?」

 依頼人の一家と協力して、消えた飼い猫を探す。

 多岐にわたる依頼を受けて、彼らは地下街を縦横無尽に歩き回った。
 時に少数でこなし、時に先着の冒険者との協力や競争に発展する。2人の力が光る場面があれば、逆に足手まといになることもあった。
 けれども2人は常に全力で、ありのままの姿で依頼に臨む。その活力は依頼人や他の冒険者たちにも伝播し、人々の心に2人の意気を刻み込むこととなったのである。



 気がつくとその日も正午。
 ここは地下街の中央部、ステージ広がる地上に対し、地下には巨大な噴水が飛沫を上げる広場があった。3人はその一角でベンチに腰掛けて、バスケットの中身を手に取ったのである。
 今日の昼ごはんは、番亂特製のサンドウィッチだ。はみ出そうなほどの具材を挟んだパンは香ばしさを漂わせており、口いっぱいに頬張るラグとリティはとろけるような思いだった。

「いやー頑張った。結構稼いだんじゃないのか?」
「ええ、大体【3,000.c】は入ったわ」
「3,000.cか〜……え、あのサソリ1匹強だけ?」

 清々しい表情を浮かべて精算するも、ラグはコンバットスコーピオンの報酬額と見比べてしまい、顔を固まらせた。リティにはすでに経験があったのか、ラグを見て苦笑いするにとどまっていた。

 そう、これが現実だ。
 冒険者の主な収入源は、危険な戦い探索など戦力を要する依頼と、そこで手にした素材の売買だ。他の依頼は何でも屋としての側面が呼び寄せたものに過ぎない。
 すでに専門職が存在する以上、冒険者が励むそれらは言わばただのお手伝い。本格的な報酬など望めるはずもないのである。

『ははは、悲しい現実だな。(まあ私的にはチリも積もれば山となるだが)やはり短期間で一気に稼ぐなら討伐依頼だろう』
「でもさ我道さん、サソリみたいなデカいやつは、地下にはないんだよ」
『ああそれはお前たちが、地下の冒険に手を出していないからだ』
「「地下の冒険っ!?」」

 ラグとリティ、2人が同時に目を見開く。そして見合わせた。どちらも次に浮かべるのは、疑問符である。

「え、いやでもそんなの、あったか?」
『ああもちろん、張り出されてはいないとも。だが思い出してみてほしい、私たち冒険者には階級があるという事を』

 我道さんは手をポンとたたいて、次にリティを指差した。

『そうだお嬢さん。君のギルドカードを、ラグに見せてやってくれないか?』
「あっ! そういう事ね。わかったわ」

 ラグはいまだピンと来ていないが、リティは我道さんの意図をすぐに汲み取った。
 すぐに服のポケットからカードを取り出し、ラグに手渡す。彼女のギルドカードは山里での名残りで、表紙には赤基調のロゴがプリントされていた。

 ラグはいつものように、ギルドカードを裏返す。当然そこにはリティのプロフィールが掲示されていた。
 しかし今回重要なのは、そこでは無い。
 我道さんは何も言うことなくギルドカードをひっくり返させて、右上を指差した。

 透き通った紫色の、綺麗な鉱石である。蛍石……あるいはフローライトと呼ばれるそれは、ギルドカードの右上に埋め込まれていた。

 ここでラグ、ようやく気付く。同時にウエストポーチから自らのギルドカードを取り出し、埋め込まれた白い鉱石……そう、タルクと見比べた。

「そっか、思い出した。ギルドカードに埋め込まれたこの鉱石が、階級を表してるんだった」
「うんうん。私は【フローライト級】で、4つ目の階級よ。でもいろんな依頼をこなしてるラグがその事忘れてるって、ちょっと意外ね」
『はははっ。昇級試験の話が上がる前に、私が旅立たせてしまったからな。ギルド所属の冒険者だった期間があれだけでは、忘れているのも無理はない』

 ラグは思い出し、リティは不思議さに微笑み、我道さんはざっくり説明しながら笑い声を上げる。
 その後ベンチから立ち上がり、我道さんは2人を先導した。

『では早速ギルドへ、今日で駆け出しのタルクも卒業だ』





 そこからはあっという間だった。
 彼らはギルドに入るなり受付の従業員へ。我道さんが「試験免除」の話を切り出しながらラグのギルドカードを渡すと、500.cの検定料ですぐに審議の流れとなり個室へと運ばれていく。

 ラグがリティと共にソファに座っていると、10分経たずして先ほどの従業員が入ってきた。
 彼はラグのギルドカードを乗せた台を抱えている。丁寧に扱われたカードそのものも、心なしか輝いて見えた。

「審査の結果、ラグレスさんには3つ目の階級【カルサイト級】が認められました。どうぞお受け取りください」

 彼は向かいのソファに座るなり、新たに淡い緑色の鉱石……方解石が埋め込まれたギルドカードを差し出した。
 リティはとても嬉しそうだったが、ラグはかなり困惑していた。初の昇級だというのに、その達成感がまるで足りていなかったのだ。

「本当にいいのか? 普通なら試験とかを受けなきゃいけないんだろ」

 しかし従業員の彼は笑って、こう返した。

「心配はいりませんよ。【タルク級】や【ジプサム級】は、言うなれば新米さん方用のチュートリアル。冒険者として活動を続けてさえいれば、それこそただのお手伝いさんであっても、半年以内には自然と抜け出せるものです」

 それに、と彼は続けながら、サイドポーチから階級を示す鉱石のサンプルを取り出した。緑の石、並びに紫の石を指しながら、話を進める。

「試験免除で獲得できる限界点、4つ目の階級【フローライト級】には、経歴の短さから惜しくも届きませんでしたから。ここはむしろ、悔しがるところなのですよ」
「そ、そうなのか」

 少し強引ではあったが、ラグはこの結果を受け入れることにした。
 まっさらな表面の右上に緑輝くカードを、丁寧に持ち上げた。一度胸に押し当てて、昇級の実感に頬を緩ませて、それからしまうのである。

「審査にあたりラグレスさんのスキルを拝見させて頂きました。刀剣3種と流派5つの修了に並び、習得困難な炎耐性をLv.2で所持されているなど、素質だけでも【サニディン級】に並びますよ」

 次の試験は1週間後なので、よければお2人で挑戦しに来て下さいね。
 従業員の彼は2人に伝えると、頭を下げて部屋を後にした。入れ替わりで入ってくる我道さんは、高らかに笑っていた。

『ははは、1週間後は無理な話だ。私たちにはギルドを建てるという、大事なプロジェクトがあるのだからな』

 サッと、我道さんは依頼書を取り出す。ラグとリティが覗き込むそれは、施設の奪還依頼だった。

『場所は第二層、浅層エリアの一角。資材庫が猫の群勢に奪われたという事で、その掃討と奪還が目標だ。報酬額【3,600.c】の冒険になるが、異論はあるか?』
「いやまったく、それで十分だ!」
「ええ、やりましょう!」

 2人の堂々とした返事には、内心わかっていてもホッとする我道さんだ。さらに、

「その依頼、私も同行させて頂きたい」
「「あっ、ハヤテマルさん!」」

 狙ったようなタイミングで、ハヤテマルが顔を出した。当然その提案には3人とも、オーケーサインを返す。
 4人はパーティを組んで、地下の依頼に取り掛かるのだった。




(ryトピック〜リティのギルドカード〜

【名前】リティ・ヴァルム

種族:【亜人間族-竜人種ヴァルム】Lv.13

能力:【千載一遇-追影】Lv.3
種族能力:【宿り竜-暴君】Lv.MAX
流派:【尾闘流びとうりゅう】Lv.7


フィジカルランク:Lv.93

耐久力:【C+】
精神力:【C-】
筋力 :【B-】
機動力:【C+】
持久力:【C+】
思考力:【C】



 所持金は省略。身長およそ170cmで、少年ラグ(144cm)と並ぶとお姉さんと言った感じだが、実はギリギリ同い年の少女。
 フローライト級冒険者であり、霊術師としての成長を大きく期待されている。魔法も炎属性ファイア吸引プルのみ使えるが、力を注いでいないため中級魔法までが限界である。

 種族能力【宿り竜(暴君)】は竜人の性質として、彼女が暴君を内に宿すことを示す証。種族特有の夜間弱体を軽減し、暴君のスキルや能力を尻尾限定で使用可能となる。
 なおレベルは暴君の意思に依存しており、彼が認めたならそれはLv.MAXである(意訳:レベルによる差異はない)。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品