境目の物語
鰐の尾を持つ竜
『次はお嬢さん、君の話をしようか』
能力について語り終えた我道さんは言いながら、次にリティへと焦点を移した。
俺は彼と同じように彼女の方を見る。ついさっきまで会話の輪に入っていなかったリティは、突然の指名に驚きの表情を浮かべた。
「わ、私!? でも我道さんって、私とは初対面なんじゃ……」
リティは特にこの事で困惑する。普通なら初対面の相手の話など始まるわけがない。
だが我道さんは笑い、リティの尻尾を指さしながら言う。
『ははは。どちらかと言えばその尻尾、鰐の尾を持つ竜についてだな』
一度ゴホンと咳込み、我道さんは少し視線を上げる。そこに可視可能な存在はいない。何もいないが、彼はそれと目を合わせて、はっきりと言い放った。
『そろそろラグに姿を見せてやったらどうだ? 麗しき鰐尾の緑竜、暴君よ』
「っ!?」
それを聞いた俺は、驚いて目を丸くした。リティはハッと思い出したような顔をしていたが、その尻尾は彼女のそれより過剰にピクンと跳ねた。
この時俺は1つ、大きな思い違いがあった。
暴君の支配力は、手を組むことによって対処。支配力を行使していない暴君は、リティに身体を預けて眠っているものだと思っていた。
しかしそれは違った。暴君は常に起きていた。リティの中からこちらの様子を見ていたのだ。
「暴君のそれって、共存って意味だったのか!?」
「うん、そういえば誰も言ってなかったね。……あっ、ちょっと待って」
驚く俺に対しすんなり答えを返すリティは、不意に目を瞑ってそれに意識を向ける。それからうんうんと数回頷く様子を見せると、パッと顔を上げて目を合わせた。
「ラグ、姿を見せても良いって!」
「本当か!?」
「うん! ちょっと離れててね」
その応答の直後、リティは後ろへ大きく飛び退く。スペース確保のためだ。
街道の中心、最も広く使える場所に位置取ると、リティは右手を持ち上げる。その手先はゆっくりと動き、喉元にある黒い鱗に触れた。
「行くよ鰐尾竜! 竜体!!!」
その宣言は高らかに。
「竜体」の言葉を叫んだその瞬間、嵐の如き黒い渦がリティの周囲を包み隠した。
その光景はまるであの時、巨大なトカゲに変化するグリッチの様。しかし規模も、雰囲気も、威圧感も、何もがあの時とは違う。
「くっ、これが竜体!?」
俺はその暴風に飛ばされそうになるのを堪えながら、驚きの言葉を紡ぐ。
そんな俺とは対照的に、我道さんは何も言わず直立する。いつものように笑みを浮かべて、渦の中心を見据えていた。
そして嵐の終わりが訪れる。
『ゴォォォッッッ!!!!!』
中心から響き渡る、風の音すら掻き消す咆哮。まるで渦の壁を打ち払うかのように、豪腕で風を払い除ける。
そしてそれはなんの恥じらいもなく、堂々とその姿を現した。
「こ、これがリティの竜……!」
10メートルを超える背丈、皮膜を持つ巨大な翼、背中から尾先にかけて生えるタテガミ、体の大きさに見合った鰐の尾、二足で巨体を支える強靭な獣脚。
上半身、特に腕には筋肉の形がハッキリと浮き上がり、指先には凶悪さを醸す鉤爪が伸びる。首は少し長く、後頭部からは背面に向かって伸びる2本の黒い角。鋭い形をした頭部に備わる金色の瞳は、鋭い眼差しで俺を捉えていた。
びっくりするほどの威圧感。俺の観察眼では、その力を曖昧な数値としてすら表せない。
力の本質が肉体ではないため測れない闘鶏様とは違う、純粋に測量できないほどの力。圧倒されて、俺は思わず息を呑む。
『くくく、どうだ小僧。これが神話に紡がれし覇者、神々をも滅ぼせし暴君の姿だ』
不敵に笑うその声すらも圧を感じさせるほど。まるでリティとは正反対の存在だ。
……でも、
「か、かっこいい……!」
俺が心の底から思った印象は、ただその一言にまとまっていた。
一言の直後、この空間には一瞬の静けさが訪れていた。竜は面食らったような表情を浮かべ、我道さんは吹き出しそうなほどのにやけ顔になっていた。
『かっこいい……その言葉はあの日以来か。吾輩は暴君ゆえに恐怖心しか与えぬはずだが、どうやら貴様も他とは違うようだ』
平生を取り戻して口を開いた竜は、感慨深そうに言う。
確かに恐怖感はある。でも暴君はリティと共存する者なのだから、そういう意識がその感情を取り払ってくれていた。
竜は何か納得したようで、意図的に発していたのだろう威圧感を僅かに緩める。それから腰を下ろして胡座をかき、腕を組んでから話し始める。
『余談はここまでだ。小僧、貴様にはまず感謝しなければならない』
「え、ええっ!? 俺に、感謝!?」
出だしから予測不可能な変化球。俺は困惑せざるを得ない。
驚くことの連続でそろそろ頭痛がしてきた俺を前に、竜は特に反応することなく言葉を続ける。
『先日対峙したあの魔人。本来ならあの者は、吾輩が力でねじ伏せるべき存在だった。
しかしあれが操る四叉戟は、竜人から我ら竜の力を封じ込める。その強さは暴君である吾輩ですら、迅撃一つで視界が眩むほどだ』
「ん? もしかしてあの時魔人に喰らわせたあの一撃って、あんたの技なのか?」
『くくく、その通りよ。だが恥ずかしきことに、迅撃のような軽い一撃で葬り去ることは叶わん。
貴様という存在が現れなければ、吾輩のリティすらもあの竜人たちと同じ末路を辿っていただろう。そのことについて礼を言う』
堂々とした態度は変えないが、竜は頭を下げて礼を言った。こんな威厳ある存在に礼を言われると、むしろ俺の方が恥ずかしくなってしまう。
でも、リティを救えて嬉しかったその気持ちは、俺だって変わらない。
「感謝したいのは俺も同じだ。あんたが……鰐尾竜がいなければ、魔人とまともに戦うことすらできなかった」
そうだ。
この竜がいなければ、あの威圧で魔人が動揺してなければ、俺はただリティを戟から解放するだけで終わっていた。今こうして生きていられるのは、鰐尾竜がいてくれたからなのだ。
「意識を失うことを承知の上で賭けに協力してくれて、本当にありがとうございます!!!」
だからこそ感謝を込めて、俺はおじきしながら礼を返した。
『くくく……』
その時、鰐尾竜は鼻で笑った。
『ガッハッハ!!!』
今度は右手で額を押さえて、大声で笑う。今までの不敵な笑いと違い、心からの大笑いだった。
『暴君である吾輩に感謝だと? くくく、どうして今になって、若かりしあの頃を彷彿とさせる者どもと出会うのだろうなぁ』
竜は懐かしむような表情を浮かべて呟く。だが俺が「あの頃?」と問おうとすると、彼はすぐに茶化した。
『ふん、貴様らには関係ない。ともかく吾輩は小僧、貴様に満足している』
「ま、満足……?」
『そうだ。リティとこうして共にする者が、貴様のような命知らずの馬鹿者だということがな』
話を切り替えて言う竜は、俺をそう評した。意味合いは全く理解できないが、たぶん貶しているわけではない……はず。
俺の推測に対する答えはすぐに与えられる。
『そんな貴様ならきっと、リティを受け入れることができる。リティに宿る竜たる吾輩からも、どうかリティに華のある生を歩ませてやってほしい』
「そんなの言われるまでもない。リティはもう俺たちの仲間なんだから、不幸になんてさせてたまるか!」
鰐尾竜による、リティへの望み。俺はいつも以上に強気で応えた。それが俺の、仲間としての本心だ。
それを聞いた竜は、再び不敵な笑いを上げる。俺の目には、少し頬を緩める緑竜の姿が映っていた。
『くくく、そう来なくては面白くない。
貴様とリティの旅に、吾輩は介入しない。たとえ尾闘であったとしても、その尻尾はリティのものに他ならんと思え。
だがもし吾輩が出る幕があるとすれば、それはリティが命の危機にさらされた時、あるいは逆鱗に触れられた時だ。そうならないよう、心しておくといい』
最後にそう言うと、再び黒い渦が現れる。それはリティが竜に変化する時と同じように、鰐尾竜の全身を覆い隠した。
そして10秒も経つことなく、渦はチリのように消えていく。
中心から現れたリティは、自由落下ではなく飛び降りる。着地したのは、俺の目の前だった。
「もう、鰐尾竜ったら。聞いてて恥ずかしくなる事まで言っちゃうんだから……」
頬を赤らめながら、リティはボソッと呟く。
「でもまあ……そう言う事だから、これからもよろしくね」
「ああ、俺からもよろしく頼む」
こうして俺たちは、リティの宿す鰐尾竜とも合わせて絆を深めた。互いの持つ不安は、また一つ解消された。
気づくと夜闇は大地から光を奪い、砂漠は少しずつ冷えていく。
これ以上外にいるのは危険だ。俺はリティと手を繋いでテントに入る。
そして用意してあった毛布に潜り込み、俺たちは眠りについたのだった。
一方こちらは黒い人たち。
『ははっ、私が話し始めたというのに、見事にスルーされてしまったな。前回のあれはさすがに効いたらしい』
『まあいいじゃねえか。あんなおっかない竜ですら認めてしまう美女と美少年のカップル……あ〜尊さがたまんねー』
少し呆れた様子でいる我道さん。彼を宥めるコックの番亂は、ハンカチで感動の涙を拭っていた。
そこに鍛治師のヤンがやってくる。
『おいお前ら、夜の砂漠にしては妙に暑くないか?』
『ん、そうか?』
『ははっ、私たちは熱の影響を受けないからな。だがヤン師範が言うならそうなのだろう』
彼らの話はどういうわけか、冷え込みつつある現状とは真逆の話をし始めた。
それからコソコソと周りに漏れない声量で話し合い、何かの方針を決める。
『ではタイムリミットは明日の昼。それまでの到着を目指そうか』
『ああ、了解したぜ』
『そうか、なら俺はもうテントに入る。見張りは任せた』
最後だけ声を絞らず、彼ら合致の意志を交わす。そうしてこの1日は、終わりを告げたのだった。
(ryトピック〜【暴君】についてその2〜
現在ではリティ・ヴァルムに宿る、通称鰐尾竜。本来なら即座に支配してしまうはずの彼女を、何故か認めて協力関係を結んでいる。
また彼女と行動を共にするラグレス・モニターズの事も、同様に認めているようだ。
その原因は不明。初期ごろの神話にその鍵が隠されているらしいのだが、現在ではほとんどすべての竜がその頃の記憶を覚えていない、ないしは誕生していなかったようである。
能力について語り終えた我道さんは言いながら、次にリティへと焦点を移した。
俺は彼と同じように彼女の方を見る。ついさっきまで会話の輪に入っていなかったリティは、突然の指名に驚きの表情を浮かべた。
「わ、私!? でも我道さんって、私とは初対面なんじゃ……」
リティは特にこの事で困惑する。普通なら初対面の相手の話など始まるわけがない。
だが我道さんは笑い、リティの尻尾を指さしながら言う。
『ははは。どちらかと言えばその尻尾、鰐の尾を持つ竜についてだな』
一度ゴホンと咳込み、我道さんは少し視線を上げる。そこに可視可能な存在はいない。何もいないが、彼はそれと目を合わせて、はっきりと言い放った。
『そろそろラグに姿を見せてやったらどうだ? 麗しき鰐尾の緑竜、暴君よ』
「っ!?」
それを聞いた俺は、驚いて目を丸くした。リティはハッと思い出したような顔をしていたが、その尻尾は彼女のそれより過剰にピクンと跳ねた。
この時俺は1つ、大きな思い違いがあった。
暴君の支配力は、手を組むことによって対処。支配力を行使していない暴君は、リティに身体を預けて眠っているものだと思っていた。
しかしそれは違った。暴君は常に起きていた。リティの中からこちらの様子を見ていたのだ。
「暴君のそれって、共存って意味だったのか!?」
「うん、そういえば誰も言ってなかったね。……あっ、ちょっと待って」
驚く俺に対しすんなり答えを返すリティは、不意に目を瞑ってそれに意識を向ける。それからうんうんと数回頷く様子を見せると、パッと顔を上げて目を合わせた。
「ラグ、姿を見せても良いって!」
「本当か!?」
「うん! ちょっと離れててね」
その応答の直後、リティは後ろへ大きく飛び退く。スペース確保のためだ。
街道の中心、最も広く使える場所に位置取ると、リティは右手を持ち上げる。その手先はゆっくりと動き、喉元にある黒い鱗に触れた。
「行くよ鰐尾竜! 竜体!!!」
その宣言は高らかに。
「竜体」の言葉を叫んだその瞬間、嵐の如き黒い渦がリティの周囲を包み隠した。
その光景はまるであの時、巨大なトカゲに変化するグリッチの様。しかし規模も、雰囲気も、威圧感も、何もがあの時とは違う。
「くっ、これが竜体!?」
俺はその暴風に飛ばされそうになるのを堪えながら、驚きの言葉を紡ぐ。
そんな俺とは対照的に、我道さんは何も言わず直立する。いつものように笑みを浮かべて、渦の中心を見据えていた。
そして嵐の終わりが訪れる。
『ゴォォォッッッ!!!!!』
中心から響き渡る、風の音すら掻き消す咆哮。まるで渦の壁を打ち払うかのように、豪腕で風を払い除ける。
そしてそれはなんの恥じらいもなく、堂々とその姿を現した。
「こ、これがリティの竜……!」
10メートルを超える背丈、皮膜を持つ巨大な翼、背中から尾先にかけて生えるタテガミ、体の大きさに見合った鰐の尾、二足で巨体を支える強靭な獣脚。
上半身、特に腕には筋肉の形がハッキリと浮き上がり、指先には凶悪さを醸す鉤爪が伸びる。首は少し長く、後頭部からは背面に向かって伸びる2本の黒い角。鋭い形をした頭部に備わる金色の瞳は、鋭い眼差しで俺を捉えていた。
びっくりするほどの威圧感。俺の観察眼では、その力を曖昧な数値としてすら表せない。
力の本質が肉体ではないため測れない闘鶏様とは違う、純粋に測量できないほどの力。圧倒されて、俺は思わず息を呑む。
『くくく、どうだ小僧。これが神話に紡がれし覇者、神々をも滅ぼせし暴君の姿だ』
不敵に笑うその声すらも圧を感じさせるほど。まるでリティとは正反対の存在だ。
……でも、
「か、かっこいい……!」
俺が心の底から思った印象は、ただその一言にまとまっていた。
一言の直後、この空間には一瞬の静けさが訪れていた。竜は面食らったような表情を浮かべ、我道さんは吹き出しそうなほどのにやけ顔になっていた。
『かっこいい……その言葉はあの日以来か。吾輩は暴君ゆえに恐怖心しか与えぬはずだが、どうやら貴様も他とは違うようだ』
平生を取り戻して口を開いた竜は、感慨深そうに言う。
確かに恐怖感はある。でも暴君はリティと共存する者なのだから、そういう意識がその感情を取り払ってくれていた。
竜は何か納得したようで、意図的に発していたのだろう威圧感を僅かに緩める。それから腰を下ろして胡座をかき、腕を組んでから話し始める。
『余談はここまでだ。小僧、貴様にはまず感謝しなければならない』
「え、ええっ!? 俺に、感謝!?」
出だしから予測不可能な変化球。俺は困惑せざるを得ない。
驚くことの連続でそろそろ頭痛がしてきた俺を前に、竜は特に反応することなく言葉を続ける。
『先日対峙したあの魔人。本来ならあの者は、吾輩が力でねじ伏せるべき存在だった。
しかしあれが操る四叉戟は、竜人から我ら竜の力を封じ込める。その強さは暴君である吾輩ですら、迅撃一つで視界が眩むほどだ』
「ん? もしかしてあの時魔人に喰らわせたあの一撃って、あんたの技なのか?」
『くくく、その通りよ。だが恥ずかしきことに、迅撃のような軽い一撃で葬り去ることは叶わん。
貴様という存在が現れなければ、吾輩のリティすらもあの竜人たちと同じ末路を辿っていただろう。そのことについて礼を言う』
堂々とした態度は変えないが、竜は頭を下げて礼を言った。こんな威厳ある存在に礼を言われると、むしろ俺の方が恥ずかしくなってしまう。
でも、リティを救えて嬉しかったその気持ちは、俺だって変わらない。
「感謝したいのは俺も同じだ。あんたが……鰐尾竜がいなければ、魔人とまともに戦うことすらできなかった」
そうだ。
この竜がいなければ、あの威圧で魔人が動揺してなければ、俺はただリティを戟から解放するだけで終わっていた。今こうして生きていられるのは、鰐尾竜がいてくれたからなのだ。
「意識を失うことを承知の上で賭けに協力してくれて、本当にありがとうございます!!!」
だからこそ感謝を込めて、俺はおじきしながら礼を返した。
『くくく……』
その時、鰐尾竜は鼻で笑った。
『ガッハッハ!!!』
今度は右手で額を押さえて、大声で笑う。今までの不敵な笑いと違い、心からの大笑いだった。
『暴君である吾輩に感謝だと? くくく、どうして今になって、若かりしあの頃を彷彿とさせる者どもと出会うのだろうなぁ』
竜は懐かしむような表情を浮かべて呟く。だが俺が「あの頃?」と問おうとすると、彼はすぐに茶化した。
『ふん、貴様らには関係ない。ともかく吾輩は小僧、貴様に満足している』
「ま、満足……?」
『そうだ。リティとこうして共にする者が、貴様のような命知らずの馬鹿者だということがな』
話を切り替えて言う竜は、俺をそう評した。意味合いは全く理解できないが、たぶん貶しているわけではない……はず。
俺の推測に対する答えはすぐに与えられる。
『そんな貴様ならきっと、リティを受け入れることができる。リティに宿る竜たる吾輩からも、どうかリティに華のある生を歩ませてやってほしい』
「そんなの言われるまでもない。リティはもう俺たちの仲間なんだから、不幸になんてさせてたまるか!」
鰐尾竜による、リティへの望み。俺はいつも以上に強気で応えた。それが俺の、仲間としての本心だ。
それを聞いた竜は、再び不敵な笑いを上げる。俺の目には、少し頬を緩める緑竜の姿が映っていた。
『くくく、そう来なくては面白くない。
貴様とリティの旅に、吾輩は介入しない。たとえ尾闘であったとしても、その尻尾はリティのものに他ならんと思え。
だがもし吾輩が出る幕があるとすれば、それはリティが命の危機にさらされた時、あるいは逆鱗に触れられた時だ。そうならないよう、心しておくといい』
最後にそう言うと、再び黒い渦が現れる。それはリティが竜に変化する時と同じように、鰐尾竜の全身を覆い隠した。
そして10秒も経つことなく、渦はチリのように消えていく。
中心から現れたリティは、自由落下ではなく飛び降りる。着地したのは、俺の目の前だった。
「もう、鰐尾竜ったら。聞いてて恥ずかしくなる事まで言っちゃうんだから……」
頬を赤らめながら、リティはボソッと呟く。
「でもまあ……そう言う事だから、これからもよろしくね」
「ああ、俺からもよろしく頼む」
こうして俺たちは、リティの宿す鰐尾竜とも合わせて絆を深めた。互いの持つ不安は、また一つ解消された。
気づくと夜闇は大地から光を奪い、砂漠は少しずつ冷えていく。
これ以上外にいるのは危険だ。俺はリティと手を繋いでテントに入る。
そして用意してあった毛布に潜り込み、俺たちは眠りについたのだった。
一方こちらは黒い人たち。
『ははっ、私が話し始めたというのに、見事にスルーされてしまったな。前回のあれはさすがに効いたらしい』
『まあいいじゃねえか。あんなおっかない竜ですら認めてしまう美女と美少年のカップル……あ〜尊さがたまんねー』
少し呆れた様子でいる我道さん。彼を宥めるコックの番亂は、ハンカチで感動の涙を拭っていた。
そこに鍛治師のヤンがやってくる。
『おいお前ら、夜の砂漠にしては妙に暑くないか?』
『ん、そうか?』
『ははっ、私たちは熱の影響を受けないからな。だがヤン師範が言うならそうなのだろう』
彼らの話はどういうわけか、冷え込みつつある現状とは真逆の話をし始めた。
それからコソコソと周りに漏れない声量で話し合い、何かの方針を決める。
『ではタイムリミットは明日の昼。それまでの到着を目指そうか』
『ああ、了解したぜ』
『そうか、なら俺はもうテントに入る。見張りは任せた』
最後だけ声を絞らず、彼ら合致の意志を交わす。そうしてこの1日は、終わりを告げたのだった。
(ryトピック〜【暴君】についてその2〜
現在ではリティ・ヴァルムに宿る、通称鰐尾竜。本来なら即座に支配してしまうはずの彼女を、何故か認めて協力関係を結んでいる。
また彼女と行動を共にするラグレス・モニターズの事も、同様に認めているようだ。
その原因は不明。初期ごろの神話にその鍵が隠されているらしいのだが、現在ではほとんどすべての竜がその頃の記憶を覚えていない、ないしは誕生していなかったようである。
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