境目の物語
6人隊の大仕事その7
『潰れろ!』
昌の合図に合わせて、砂獣の豪腕が叩きつけられる。会場の4人はすかさず散開し、その鈍重な一撃を回避した。
しかしながら流石の巨大。実質的に直撃を受けたステージは、使い物にならないほどバキバキに割れてしまう。
ディルは少し俯く。それでも次の瞬間には、3人に指示を出していた。
「シャイナ、アビス、それにカーマイン! ここは私に任せて、皆はワームを食い止めてきなさい!!!」
「「「了解っ!」」」
3人の返事は僅かな遅れもなく、すぐに行動を開始する。ディル1人がこの怪物と対峙することに、何の戸惑いも感じていないようだ。
当然そのことには、少年も動揺を見せる。
『ちっ、俺をひとりで相手する気か?』
「なに、ひとりではないよ。それに……」
ディルは相変わらずの調子で返答しつつ、装束の襟を掴む。そのまま引っ張り、服を脱ぎ捨てた。
「……忍者? それがお前の本当の姿か?」
疑問の声をこぼす。ディルは商人装束の下に、シノビ装束を着込んでいた。
彼はさらにポケットから頭巾を取り出し、装備しながら返答に努める。
「境目ではシノビが正しい。私からすれば正装にすぎないが、あえて言うなれば……」
身だしなみを整え、ディルは言葉を引き伸ばす。そしてどっしりと構えて言い放つ。
「これはキミが関わってしまった者の姿だ」
ところ変わって6人隊。律動領域によって空間の律動を整えたジャズは、胸を張って言い放つ。
「さあレクチャーを始めよう! これがあんたらを成長させる、律動流の真髄だ!!!」
同時に獅子たちの動きが、より攻撃面に向く。体が刻む妙に心地よいリズムに合わせて、奴らが飛び掛かった。
「ゴルドは剛体で防御、ヘキサさんは受け流し。カイとランド少年は反撃でGOだ!」
簡易的な指示を送ったジャズは踏み込み、流れるように複数匹の足を切る。
決して致命傷にはならない。けれど引きつけることはできる。
『『ゴオオォォッ!!!』』
あえて手を加えなかった2匹が、咆哮と共に鋭利な両爪を伸ばす。リズムに乗ったその一撃は、いつも以上の力が乗っていた。だが、
「姿勢維持の補助をお願いします、剛体防衛!」
「このタイミングで……受け流し!」
剛体で身を固めたゴルドの槌に、獅子の両爪が食い止められる。ヘキサの丁寧な受け流しを決められた腕が、的を外れて地面を抉る。
いくら力が強くとも、先を読めるなら受け止めることも不可能ではない。そしてそれが成功したということは……!
「2人とも、今だ!」
ジャズの合図に合わせて2人が飛び上がった。
「フリーズソードッ!!!」
「パワーブレードっす!!!」
氷を纏った剣の連撃が、ゴルドに食い止められた獅子の血肉を凍てつかせる。
急降下と共に振り下ろされた大剣が、ヘキサに受け流された獅子の背中を叩き割る。
隙を生かした強襲は律動も相まって、平時を上回る力を発揮する。それを直撃してしまった獣は、もはや倒れない方がおかしいくらいだった。
「ナイスだ。その調子で次だ、次!」
2匹の絶命を確信し、ジャズは次の声かけに移る。
その直後、4匹の獅子が攻撃直後の2人に詰め寄った。
「ランド、大剣で防いで!」
「分かったっす!」
同じ手は二度と喰らわない。
強い意思と期待により生じる緊張感は、律動領域により自身を奮い立たせる力を引き出す。そしてより強い覚悟が、彼の身体を動かした。
「……閃いた! ブレードバッシュ!」
大剣を盾に爪の一撃を防いだランドは踏み込み、膝蹴りを繰り出す。そしてあろうことか、その刀身ごと獅子の腕を押し飛ばした。
重心を前足に偏らせていた獅子は、予想外の一撃に体勢を大きく崩す。だが他の2匹は、技の直後に生じた彼の隙を逃さない。
「ランド後ろっ!!!」
「大丈夫……今ならやれるっす!」
ところがランドは、カイの言葉に従わず、むしろさらなる攻勢に移った。
彼はブレードバッシュで生じた勢いのまま、一歩踏み出す。それはどこだ? 今まさに押しのけた獅子のふところだ。
背後から襲いかかる2匹は、体勢を整えるべく地を踏み締める獅子の前足に妨げられた。
「ここッ!!!」
つかの間の安全を確保したランドは、全力で水平に振るう。その一撃は獅子の後ろ足を捉え、見事に両足共を斬り飛ばした。
『ギアァァッ!!?』
身体を支える足を失った獅子は、なす術なく倒れ伏す。しかし2匹を妨げていたものも同時になくなった。
双方は二手に分かれて、ランドただ1人を狙う。彼は思わず、身をかがめてしまった。
だが彼はひとりぼっちではない。守ってくれる仲間がいる。
「ヘヴィスマッシュ!!!」
「トリブースト!!!」
その2人……ゴルドとヘキサの強撃が、死角から獅子を殴り飛ばした。そしてその隙も、突ける仲間がいる。
「氷結砕ッ!!!」
元々1匹から攻撃を受けていたカイは、魔法剣の氷を盾にして防御を任せ、同時に鋭利な氷塊を放った。
その死に物狂いな魔法にも、きちんとリズムの力が乗る。結果として放たれたそれは、驚異的な精度で、強撃に飛ばされた2匹を同時に貫いた。
「2人ともいい調子だ。リカバリーは任せな!」
褒めたたえながら、ジャズも混ざる。
彼は一気に距離を詰めて、カイに食らいつこうとする獅子を蹴り飛ばす。続けて追撃の連撃を放ち、再起不能レベルの傷を負わせた。
「ありがとうございます!」
「このくらいはお安い御用さ。それに……」
カイの感謝を受けても、ジャズの調子はさほど変わらない。代わりに言葉を引き伸ばし、ある一点を見て叫ぶ。
「敵は引きつけた。ぶちかませ、ノナさん!!!」
ジャズのよく通る声に、5人はビクッと反応する。その中でもヘキサはいち早く、彼の見る一点に目を向けた。
「姫さまっ!?」
驚きの声。ある屋上であるその一点には、確かにオレンジ色の髪が目立つ女性……ノナが立っている。
しかしいつもとは違う。彼女の手にはあろうことか、身の丈ほどあるハンドバリスタが握り込まれていた。
狙うのはジャズあらかじめが引きつけていた獅子たち。駆ける5匹の中心に狙いを合わせる。
「オッケー! テトラボルトッ!!!」
了解のサインと共に、彼女は躊躇なく引き金を引く。標的のリズム感を意識して放たれた筒状の弾丸は、戦に疎遠な姫のものとは思えないほど正確に群れの中心に向かった。
そしてそれが着弾した瞬間だ。彼女の仕込んだ特殊な弾丸は、激しい音と炸裂を発生させる。
決して広くはない、中規模な炸裂。それは群れの周囲のみを包み込み、獅子の肉体を破壊した。
第6部隊はもとより、12人で構成された変わり者集団。遠近両方、ましてや巨大な敵にも対応することもできる、優秀な部隊だった。
だがあの一件により、半数を超える死者を出した。少年を追った私の判断が、部隊を一気に衰退させてしまった。
ヒイラ、ダンデ、バルカン、イコライザ、ラグーン、ナップ、そしてウェイさん……
もちろん全員の死が苦しく、とても悲しい。最も近くにあり、人生の半分を共に過ごしていたのだから、その辛さはこの生涯に二度とないだろう。
でもあえて特にと挙げるなら、遠距離の専門全員と、ゴルドさん以外の防衛担当、そして命を繋ぐ役割を担ったヒイラ。彼ら彼女らの戦死が、戦力の衰退を助長させていたのだと思う。
だからこそいま全員の行動は、見違えるほど洗礼されているのがわかる。隊長であらる私とて、これほど嬉しいことはない。
「みなさん、この調子で切り抜けましょう!」
「「「はい!」」」
私は全員に呼びかけ、いま一度心を一つにする。そしてまだまだ現れる獅子の群れに、神経を集中させた。
だがその瞬間だ。
不意に空気が重たくなる。街の中心から放たれた不思議な波動に、全身が満たされた。
「ん?……っ!?」
違和感を感じる。
つい先ほどまで心の中で刻んでいた律動が、不意に妙なリズムを刻み始める。なんだか、気分が悪い。
その感覚に陥っているのは、私だけではなかった。特に律動領域を発生させたジャズ自身が、驚きに駆られていた。
「この力まさか……っ! あんたら、後ろだ!」
ジャズはハッとなり、我々に警告を出す。振り向くとそこには、荒れ狂う巨大なミミズの姿があった。
『キシャァァァァーーーッ!!!!!』
奴は凶暴化した本能に任せて、こちらに突っ込んで来た。
当然我々は防衛に徹する。だが何かがおかしい。
迫るデザートワームのリズムが読めない。リズムが読めないから、何をしてくるのかわからない。
「ヘキサさん早く避けろ! 今はリズムなんて忘れろ!!!」
「っ……!?」
ジャズの必死な叫びに、意識がはっきりとした。
そうだ、避けなければ。私は身体を動かそうとする。
だが、間に合わなかった。他のみなさんと違って、私の反応はあまりにも遅かった。
ドコォッッッ!!!!!
「ガハッ!?」
横なぎの体当たりが正面から襲う。
鈍重な打撃音が響き渡り、骨が軋む激痛に苛まれる。気づくと私の身体は、建物の壁面に叩きつけられていた。
「あぁっ、隊長!」
ランドの声が聞こえる。その意味を理解したのは、視界に獅子が飛び込んでからだった。しかし、
「身体が……動かない…………」
激痛に痺れて、逃げることができない。かろうじて砲剣は握ったままだが、シリンダが装填されていない以上、使えないのと同じだ。
「ここが……終わりなのですか?」
何もできないまま、食い殺されてしまう。それは彼らが食われるあの光景と重なり合い、どこまでも深い絶望感に包まれる。
獅子の牙は、私の胴体に狙いを合わせていた。そして無防備な私を慈悲なく
「うぉおおぉぉーーーー!!!!!」
死を覚悟したその瞬間、叫び声とともに何者かが飛び込む。その大柄な彼は、私と獅子の間に入り、
ガチィィッッッ!!!!!
身代わりとなって食いつかれた。
(ryトピック〜魔法剣について〜
魔法使いでしか効果を発揮できないので、登場機会は限られるが、この世界では一般的な武器の一つ。鍔から先の刀身を廃止し、代わりに魔法を刃とできる画期的な刀剣である。
エンチャントでも同様のことはできるが、双方には大きな違いがある。それは魔法を維持する能力の差だ。
通常エンチャントでは、付与する以外にも一定時間の持続を確保するための力が必要になる。しかしこの武器では一度刃として発生させた魔法は武器の機構により維持されるため、圧倒的にコストが軽くなるのだ。
それ故に人気は高いが、魔法が使えない者からすればただの柄。また魔法を封じられた際にもただの柄と化すので、普通の武器以上に使いどころを考える必要がある。
昌の合図に合わせて、砂獣の豪腕が叩きつけられる。会場の4人はすかさず散開し、その鈍重な一撃を回避した。
しかしながら流石の巨大。実質的に直撃を受けたステージは、使い物にならないほどバキバキに割れてしまう。
ディルは少し俯く。それでも次の瞬間には、3人に指示を出していた。
「シャイナ、アビス、それにカーマイン! ここは私に任せて、皆はワームを食い止めてきなさい!!!」
「「「了解っ!」」」
3人の返事は僅かな遅れもなく、すぐに行動を開始する。ディル1人がこの怪物と対峙することに、何の戸惑いも感じていないようだ。
当然そのことには、少年も動揺を見せる。
『ちっ、俺をひとりで相手する気か?』
「なに、ひとりではないよ。それに……」
ディルは相変わらずの調子で返答しつつ、装束の襟を掴む。そのまま引っ張り、服を脱ぎ捨てた。
「……忍者? それがお前の本当の姿か?」
疑問の声をこぼす。ディルは商人装束の下に、シノビ装束を着込んでいた。
彼はさらにポケットから頭巾を取り出し、装備しながら返答に努める。
「境目ではシノビが正しい。私からすれば正装にすぎないが、あえて言うなれば……」
身だしなみを整え、ディルは言葉を引き伸ばす。そしてどっしりと構えて言い放つ。
「これはキミが関わってしまった者の姿だ」
ところ変わって6人隊。律動領域によって空間の律動を整えたジャズは、胸を張って言い放つ。
「さあレクチャーを始めよう! これがあんたらを成長させる、律動流の真髄だ!!!」
同時に獅子たちの動きが、より攻撃面に向く。体が刻む妙に心地よいリズムに合わせて、奴らが飛び掛かった。
「ゴルドは剛体で防御、ヘキサさんは受け流し。カイとランド少年は反撃でGOだ!」
簡易的な指示を送ったジャズは踏み込み、流れるように複数匹の足を切る。
決して致命傷にはならない。けれど引きつけることはできる。
『『ゴオオォォッ!!!』』
あえて手を加えなかった2匹が、咆哮と共に鋭利な両爪を伸ばす。リズムに乗ったその一撃は、いつも以上の力が乗っていた。だが、
「姿勢維持の補助をお願いします、剛体防衛!」
「このタイミングで……受け流し!」
剛体で身を固めたゴルドの槌に、獅子の両爪が食い止められる。ヘキサの丁寧な受け流しを決められた腕が、的を外れて地面を抉る。
いくら力が強くとも、先を読めるなら受け止めることも不可能ではない。そしてそれが成功したということは……!
「2人とも、今だ!」
ジャズの合図に合わせて2人が飛び上がった。
「フリーズソードッ!!!」
「パワーブレードっす!!!」
氷を纏った剣の連撃が、ゴルドに食い止められた獅子の血肉を凍てつかせる。
急降下と共に振り下ろされた大剣が、ヘキサに受け流された獅子の背中を叩き割る。
隙を生かした強襲は律動も相まって、平時を上回る力を発揮する。それを直撃してしまった獣は、もはや倒れない方がおかしいくらいだった。
「ナイスだ。その調子で次だ、次!」
2匹の絶命を確信し、ジャズは次の声かけに移る。
その直後、4匹の獅子が攻撃直後の2人に詰め寄った。
「ランド、大剣で防いで!」
「分かったっす!」
同じ手は二度と喰らわない。
強い意思と期待により生じる緊張感は、律動領域により自身を奮い立たせる力を引き出す。そしてより強い覚悟が、彼の身体を動かした。
「……閃いた! ブレードバッシュ!」
大剣を盾に爪の一撃を防いだランドは踏み込み、膝蹴りを繰り出す。そしてあろうことか、その刀身ごと獅子の腕を押し飛ばした。
重心を前足に偏らせていた獅子は、予想外の一撃に体勢を大きく崩す。だが他の2匹は、技の直後に生じた彼の隙を逃さない。
「ランド後ろっ!!!」
「大丈夫……今ならやれるっす!」
ところがランドは、カイの言葉に従わず、むしろさらなる攻勢に移った。
彼はブレードバッシュで生じた勢いのまま、一歩踏み出す。それはどこだ? 今まさに押しのけた獅子のふところだ。
背後から襲いかかる2匹は、体勢を整えるべく地を踏み締める獅子の前足に妨げられた。
「ここッ!!!」
つかの間の安全を確保したランドは、全力で水平に振るう。その一撃は獅子の後ろ足を捉え、見事に両足共を斬り飛ばした。
『ギアァァッ!!?』
身体を支える足を失った獅子は、なす術なく倒れ伏す。しかし2匹を妨げていたものも同時になくなった。
双方は二手に分かれて、ランドただ1人を狙う。彼は思わず、身をかがめてしまった。
だが彼はひとりぼっちではない。守ってくれる仲間がいる。
「ヘヴィスマッシュ!!!」
「トリブースト!!!」
その2人……ゴルドとヘキサの強撃が、死角から獅子を殴り飛ばした。そしてその隙も、突ける仲間がいる。
「氷結砕ッ!!!」
元々1匹から攻撃を受けていたカイは、魔法剣の氷を盾にして防御を任せ、同時に鋭利な氷塊を放った。
その死に物狂いな魔法にも、きちんとリズムの力が乗る。結果として放たれたそれは、驚異的な精度で、強撃に飛ばされた2匹を同時に貫いた。
「2人ともいい調子だ。リカバリーは任せな!」
褒めたたえながら、ジャズも混ざる。
彼は一気に距離を詰めて、カイに食らいつこうとする獅子を蹴り飛ばす。続けて追撃の連撃を放ち、再起不能レベルの傷を負わせた。
「ありがとうございます!」
「このくらいはお安い御用さ。それに……」
カイの感謝を受けても、ジャズの調子はさほど変わらない。代わりに言葉を引き伸ばし、ある一点を見て叫ぶ。
「敵は引きつけた。ぶちかませ、ノナさん!!!」
ジャズのよく通る声に、5人はビクッと反応する。その中でもヘキサはいち早く、彼の見る一点に目を向けた。
「姫さまっ!?」
驚きの声。ある屋上であるその一点には、確かにオレンジ色の髪が目立つ女性……ノナが立っている。
しかしいつもとは違う。彼女の手にはあろうことか、身の丈ほどあるハンドバリスタが握り込まれていた。
狙うのはジャズあらかじめが引きつけていた獅子たち。駆ける5匹の中心に狙いを合わせる。
「オッケー! テトラボルトッ!!!」
了解のサインと共に、彼女は躊躇なく引き金を引く。標的のリズム感を意識して放たれた筒状の弾丸は、戦に疎遠な姫のものとは思えないほど正確に群れの中心に向かった。
そしてそれが着弾した瞬間だ。彼女の仕込んだ特殊な弾丸は、激しい音と炸裂を発生させる。
決して広くはない、中規模な炸裂。それは群れの周囲のみを包み込み、獅子の肉体を破壊した。
第6部隊はもとより、12人で構成された変わり者集団。遠近両方、ましてや巨大な敵にも対応することもできる、優秀な部隊だった。
だがあの一件により、半数を超える死者を出した。少年を追った私の判断が、部隊を一気に衰退させてしまった。
ヒイラ、ダンデ、バルカン、イコライザ、ラグーン、ナップ、そしてウェイさん……
もちろん全員の死が苦しく、とても悲しい。最も近くにあり、人生の半分を共に過ごしていたのだから、その辛さはこの生涯に二度とないだろう。
でもあえて特にと挙げるなら、遠距離の専門全員と、ゴルドさん以外の防衛担当、そして命を繋ぐ役割を担ったヒイラ。彼ら彼女らの戦死が、戦力の衰退を助長させていたのだと思う。
だからこそいま全員の行動は、見違えるほど洗礼されているのがわかる。隊長であらる私とて、これほど嬉しいことはない。
「みなさん、この調子で切り抜けましょう!」
「「「はい!」」」
私は全員に呼びかけ、いま一度心を一つにする。そしてまだまだ現れる獅子の群れに、神経を集中させた。
だがその瞬間だ。
不意に空気が重たくなる。街の中心から放たれた不思議な波動に、全身が満たされた。
「ん?……っ!?」
違和感を感じる。
つい先ほどまで心の中で刻んでいた律動が、不意に妙なリズムを刻み始める。なんだか、気分が悪い。
その感覚に陥っているのは、私だけではなかった。特に律動領域を発生させたジャズ自身が、驚きに駆られていた。
「この力まさか……っ! あんたら、後ろだ!」
ジャズはハッとなり、我々に警告を出す。振り向くとそこには、荒れ狂う巨大なミミズの姿があった。
『キシャァァァァーーーッ!!!!!』
奴は凶暴化した本能に任せて、こちらに突っ込んで来た。
当然我々は防衛に徹する。だが何かがおかしい。
迫るデザートワームのリズムが読めない。リズムが読めないから、何をしてくるのかわからない。
「ヘキサさん早く避けろ! 今はリズムなんて忘れろ!!!」
「っ……!?」
ジャズの必死な叫びに、意識がはっきりとした。
そうだ、避けなければ。私は身体を動かそうとする。
だが、間に合わなかった。他のみなさんと違って、私の反応はあまりにも遅かった。
ドコォッッッ!!!!!
「ガハッ!?」
横なぎの体当たりが正面から襲う。
鈍重な打撃音が響き渡り、骨が軋む激痛に苛まれる。気づくと私の身体は、建物の壁面に叩きつけられていた。
「あぁっ、隊長!」
ランドの声が聞こえる。その意味を理解したのは、視界に獅子が飛び込んでからだった。しかし、
「身体が……動かない…………」
激痛に痺れて、逃げることができない。かろうじて砲剣は握ったままだが、シリンダが装填されていない以上、使えないのと同じだ。
「ここが……終わりなのですか?」
何もできないまま、食い殺されてしまう。それは彼らが食われるあの光景と重なり合い、どこまでも深い絶望感に包まれる。
獅子の牙は、私の胴体に狙いを合わせていた。そして無防備な私を慈悲なく
「うぉおおぉぉーーーー!!!!!」
死を覚悟したその瞬間、叫び声とともに何者かが飛び込む。その大柄な彼は、私と獅子の間に入り、
ガチィィッッッ!!!!!
身代わりとなって食いつかれた。
(ryトピック〜魔法剣について〜
魔法使いでしか効果を発揮できないので、登場機会は限られるが、この世界では一般的な武器の一つ。鍔から先の刀身を廃止し、代わりに魔法を刃とできる画期的な刀剣である。
エンチャントでも同様のことはできるが、双方には大きな違いがある。それは魔法を維持する能力の差だ。
通常エンチャントでは、付与する以外にも一定時間の持続を確保するための力が必要になる。しかしこの武器では一度刃として発生させた魔法は武器の機構により維持されるため、圧倒的にコストが軽くなるのだ。
それ故に人気は高いが、魔法が使えない者からすればただの柄。また魔法を封じられた際にもただの柄と化すので、普通の武器以上に使いどころを考える必要がある。
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