境目の物語

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6人隊の大仕事その6

 街中に警報が鳴り響き、会場は混乱で満ち溢れる。外からは門番の防衛陣をかい潜った50あまりの獅子が、内には規格外の体格を持った砂獣が、それぞれ彼らを挟み込んだ。
 だが冷静さを保つ力を持つ者も、会場には多くいる。日々命を危険に晒しながらも商売魂を燃やす、本物の商人たちだ。

「地下だ! 地下を目指せ!」

 1人の叫びに全員の視線が、意識が集中する。その指示に呼応して、他の者たちからも声が上がる。

「そうか、あそこなら入口さえ固めれば守りに入れる!」
「奴らの取り柄である数を封じれば、僕らでもどうにかできるかもしれない!」
「まだ生き延びる望みはある!!!」
「「「……っ!!!」」」

 上がる声は連鎖的に、絶望に差す希望の光を強める。すがる希望を得た彼らから、勇気が湧き上がった。

「なら俺が殿しんがりを引き受ける!」
「戦う自信のある者は続け!」
「重要なのは皆の避難だ! 無理して死ぬことだけは絶対にやめろよ!」

 勇敢な者たちは殿として、参加者たちの前に出る。合わせて街をよく知る商人たちは誘導役を買い、避難する彼らの指揮を取った。

 死中に立たされているとは思えないほど、理にかなった的確な判断。ほんの数分もかけず、彼らはまとまり一丸となる。
 そして大々的な合図を待つことなく、複数列に並んだ彼らは行動を開始した。



 だがそうなったとしても、状況の不利に変わりはない。

 背負うものは、無辜むこで無力な人々の命。対して向かう獣たちは疾走し、四方八方から飛びかかる。
 それを食い止めなければならないのは、ただ戦えるの者たち。守りが専門でない彼らが、護身用の武具のみで守るには、あまりにも分が悪すぎた。

『ゴオォォッ!!!』
「なっ、しまった!?」

 疾走するその足を止めることすら難しいというのに、獅子の1匹が守りを飛び越える。その勢いに任せて襲われるのは当然、避難することしかできない者たちだ。

 しかし、

「させません! テトラブーストッ!!!」

 透き通った声と、遠方からの爆発音。その中心から白髪の青年、ヘキサが推進力を乗せて割り込む。

「はあっ!」

 彼は勢いを砲剣に乗せて、獅子の横腹に叩きつける。直撃を許した獅子は、骨の砕ける音とともに弾き飛ばされた。

「た、助かった……」
「いえ、まだです!」

 直近で襲われかけた人々は腰を抜かすが、着地したヘキサは忠告と共に反転する。今度は守りを押し退けて、2匹が襲いかかる。

「(シリンダを交換する余裕はありませんが……)片方をお願いします、ランド!」
「はいっす!」

 合図を出して踏み込む。ヘキサが右に集中したことで浮いた左サイドには、橙色の髪と抱えた大剣が特徴の少年、ランドが入った。
 2人は息を合わせて接近し、それぞれ武器を構える。そして食らいつかんとする獅子に向けて放つ。

「セルフブーストッ!!!」
「ブレードアッパーッ!!!」

 踏み込みの効いた砲剣の薙ぎ払い。全力を込めた大剣の斬り上げ。
 真正面からの強撃で、獅子の身体は大きくのけぞる。だが四足の獣は、そう簡単に崩れない。

『『ガアァァッ!!!』』

 双方ともが四足で踏みとどまり、瞬時に飛びついた。

「くぅっ」
「うあぁっ!?」

 ヘキサは咄嗟に砲剣を構えて、どうにか攻撃をいなす。だがランドは間に合わず、獅子の前足に押さえつけられてしまう。

「ランド!?」
「ひっ!?」

 獅子の牙が、ランドの胴体に狙いを定める。ヘキサは崩されていながらも強引に踏み込むが、救助するには間合いが開きすぎている。

「(私では間に合わない!?)」

 判断力に状況を告げられ、ヘキサの表情が険しさに歪む。
 だがその瞬間、

氷結砕メガフリーズッ!」

 突如飛来した氷塊が、側面から獅子を貫いた。

 拘束が解かれたランドは急いで体勢を立て直し、飛来した方向を向く。
 そこにいたのは、魔法を放つため左手を突き出した姿勢でいる、黒髪の青年。ランドの先輩でもあるカイだ。

「カイ先輩!」
「話は後です! 2人ともしゃがんでください!!!」

 ランドは感謝を伝えようとするが、カイはそれを遮って指示を出す。その時背後から、2人の掛け声が聞こえてきた。

「みんな退いてーっ!!!」
「連携で蹴散らしますからっ!!!」

 対照的な体格が目立つ、アルとゴルドの登場。前を走るゴルドが地を蹴って飛び上がり、後ろを追うアルがその両足を掴む。

「トルネードグラビティ!」
「剛体の発動!」

 2人が一体となって技を叫ぶ。その瞬間、ゴルドがハンマーを頭上で掲げた姿で固まり、2人の体がまるでブーメランのように回転を始めた。

「これはお二人の連携技っ!」
「そうさ! これがボクたちの、ゴルドブーメランッ!!!」

 アルが技名を叫んだその瞬間、2人はブーメランと化した。
 くの字型ではないがそれは弧を描きながら、拮抗する獅子5匹に飛び込む。そしてそれらすべてを豪快に弾き飛ばした。





「相変わらずすごいっす!」
「さすがは剛体と重力転換の合わせ技。ウェイさんを唸らせただけあって、壮観ですね」

 ランドもヘキサも、しばらくぶりの大技に見惚れる。そのタイミングでカイが駆け寄ってきた。
 続けて軌道に乗って戻ってきたブーメラン……もといアルとゴルドは、彼らの真横の地面に突き刺さる。双方は能力を解除すると、カイ同様に寄った。

「皆さん気をつけて下さい。あの獅子とかいう怪異、体格はフェンリルそっくりでも、耐久性が段違いです!」

 カイが指差しながら言う。その先にはアルとゴルドが弾き飛ばした獅子たちがいたが、

「あ、あいつらまだ動いてるっす……」

 ランドが震えた声で告げる。
 テトラブーストに直撃した個体と氷結砕に貫かれた個体は、再起不能な状態で倒れ伏す。だがゴルドブーメランを受けた獅子たちは、まだ動けるだけの体力を残していた。

 それだけではない。ゴルドの肩によじ登ったアルが、周りを差して言う。

「まずいよ! 今の連携でボクたちにヘイトが集まってるよ!」

 まだ中心にまで到達していない個体。護身用のサーベルでどうにか時間を稼ぐ商人に、苛立ちを覚えた個体。
 境遇はどうであれ10匹近い獅子たちが、彼らに面を向けていた。

「数には数を……ですか」

 ヘキサの頬を汗が伝う。
 地に足をつけた4人は、背中合わせで臨戦体勢を取る。砲剣を、大剣を、氷の魔法剣を、巨大な槌を、それぞれが構えた。


 そんな時にも、彼はやってくるのだ。

「いいねえ5人とも。ジャズ・エトランゼ、あんたらに加勢する!」
「「「ジャズ!?」」」
「「ジャズさん!?」」

 避難者がつくる列の先頭あたりから突如、ジャズが飛び出した。
 右手には大型のククリ、左手には小さなボウガン。ラフな見た目どおりの身のこなしで、彼は5人の前に立つ。

「あんたらが引き付けてくれたおかげで、先頭の守りが浮いた。あそこはハヤテマルの兄ちゃんが抑えてるから、避難はどうにかなりそうだ」
「ですがたったの6人であの数を相手するのは!」

 楽観的に話を進めるジャズに、ヘキサは現状を悲観した言葉を吐く。それでも彼は、「チッチッ」と言いながら人差し指を左右に振った。

「確かにあんたらは、身体能力フィジカル的に物足りない。真正面から立ち向かっても、勝ち目は薄いだろうよ。けどな!」

 言い切ると同時に、ジャズは小さくジャンプする。そして着地と共に、

律動領域リズムリージョン!!!」

 地を踏みしめ、武器を振り、能力を発動した。


 その直後、周囲の空間に変化が訪れる。
 胸の奥で鳴る鼓動が、一定のリズムを刻む。誰それ問わず全員の行動が、リズムに合わさる。心なしか、気合が湧き上がるようだ。

「これがあなたの……」
「そうさ。俺の能力【律動領域】は、生き物が本来持つ戦いのリズムを思い出させる。
 なんだか気分が高揚するだろう。それに……ほら、見てみるといい」

 リズムに乗って体を揺らしながら、ジャズは獅子たちを指差す。

 きっと彼らも、体が刻むリズムで気づいただろう。どの獅子も例外なく、リズムに合わせて四肢を動かしている。

「もう察しはついただろう。リズムに合わせて動けば、君たちでも相手できる!」

 ジャズも昂ぶる気持ちにならって、ククリをしっかり構えた。そして宣言する。

「リズムに乗って、さあレクチャーを始めよう! これがあんたらを成長させる流派、【律動流】の真髄だ!!!」




(ryトピック〜ゴルドブーメランについて〜

 ゴルドの能力、【剛体】。自身を不壊の物質として固め、一切の外傷を防ぐ。(ただしダメージは受ける)
 アルの能力、【重力転換】。自身(と任意にもう1人)の重力を打ち消し、望んだ方向に重力同等の力を発生させる。

 別に恋人でもなんでもない2人が、連携により巨大なブーメランと化す。それが大技、【ゴルドブーメラン】である。

 力のほぼすべてをアルが制御するため、精度はかなり低い。また味方を巻き込む危険性も高い。
 それでも方向だけは御する彼女の気合いと技の破壊力は、戦術指導を担ったウェイ訓練官ですら目を見張るものだった。


 ちなみに命名はアル技師。鉄塊さえあれば再現可能だが、ゴルドを使った方が安定するとの事。(慣れのおかげであることは、言うまでもない)

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