境目の物語
枠外のイデア
印の地点を目指すラグは、さらに数回のエンカウントを経てなお安定した足並みで進んでいった。
実はいちど不意打ちを受けて死にかけたりもしたが、それ以降は完全に慣れたようだった。巨大な敵には内側から壊せと、そう教えられたようでもあった。
そして現在、俺はようやく地点に辿り着く。
『君ー、こっちだよ!』
先に調査に出たというレッカが、おにぎり片手に俺を呼んでいた。ほどよい石に座って休憩しているようだが、何か収穫はあったのだろうか?
未だ彼に対する警戒心が抜けない。命を狙われたのだから当然だが、こうして味方になっていても、後ろから刺されそうで怖い。
なので成果の方に意識を向けつつ、警戒心マックスで駆け寄った。
『ほら、君にもあげるよ』
お裾分けと言わんばかりにおにぎりを手渡される。受け取った俺は、毒でも入ってるのではないかと、匂いを嗅いだ。
何の変哲もない、ホクホクご飯の匂い。怪しそうな感じはしない。そもそもこれ、彼の食べてる他のおにぎりと同じところから出されたものだし……
怪しむ気持ちは忘れない。でも一口だけ、口に運んでみる。
「……あ、おいしい」
ギルドでも食べることがあった、塩が効いたおにぎりの味。後味まで全てが、単なるおにぎりの味だった。
『まあ君も腰掛けなよ。立ち食いするほど、切羽詰まってはないだろ』
「ああ、そうだな」
彼に誘導されて、俺は隣に腰掛けた。
「俺のほうは特に何もなかったけど、あんたはどうだった?」
俺はにぎりを食いながらも手短に、聞くべきとこだけを聞く。すると彼は向こうの地面、明らかに穿たれた跡が残っている場所を指しながら言う。
『あれが昨日の破壊行動が行われた場所だ。そこでこいつが採れた』
説明しながらコートのポケットに手を入れて、岩石の破片を取り出す。しかしそれがどう……あ、
「そういうことか。」
凝視して、ようやく気づく。彼の握るそれには、あの勇者の左手のように、不思議な力が漂っていた。
それは魔法の力。勇者の魔法に直撃したためか、適性のない俺でもそれがわかるようになっていた。
『君もわかるんだね。そう、これには魔力が残留している。しかも昨日のフォークと同じものがね』
「フォーク? あの四叉戟のことか?」
『そうそう……って知らないの!?』
レッカに驚いたような顔をされる。でも知らないのだから仕方がないだろう。あんな形の武器、使ってるやつなんて見たことがない。
『武器じゃないからね……
ま、そんなことはどうだっていいんだ。重要なのは、あれが魔法であるってことだ。この先にも同じ痕跡を探せば、きっと件の相手に当たるはずだ』
レッカは空気を切り替えるように、はっきりした声で言った。だが聞いた俺は、少し複雑な感情を抱く。
明確な痕跡が分かったことはありがたい。でもそれは同時に、相手が魔法を使う者であることを表している。
魔法を使う様子は、今までも幾らか見てきた。トッキーの強化魔法に、あの勇者の力任せな雷魔法やヴァルフの無尽蔵に溢れる炎魔法、ミーティアでの高度な水魔法もあれば、砂獣の頭部を貫いたカイの氷魔法もある。
だがそれと闘って勝利したことは一度もないのはおろか、そもそもまともに闘ったことすらない。どう避ければいいか、どう勝機を掴むべきか、その光景がまったく思い浮かばない。
それを踏まえて、今回の相手はフォークとやら。もはやどう攻めて来るのか、俺には予想すらつかない。
その上勇者と同じ主人公補正があるとすれば、さらに勝ち筋が見えてこない。
『そんなに怯えてどうした?』
ふと、彼の手が俺の両肩を掴む。そして否定の言葉を紡ぐより先に、揉みほぐし始めた。
『力を抜けって、らしくないぞ。たかが魔法に怖気付く君じゃないだろ』
「そのたかが、にミンチにされたことがあるんだよ!」
『あ、そういえば勇者くんに消し飛ばされてたね』
「何で知ってんだよ!?」
『そりゃあ、皐ちゃんと見てたからね。』
「そ、そうなのか。(いつの間に………)」
魔王城でのやり取りが、今になって思い返される。あの時は勇者に必死だったが、その時点で見ていたのか、と。
あまりいい思い出ではないが、少し気は紛れてくれたようだ。肩の力が緩むのを感じた。
『まあ心配はするな。俺も魔法を相手にするのは得意じゃない。でも立ち向かわなきゃ、竜人族は救えないよ』
「まあ……そうだよな。」
当然のことを言われているようだが、確かに勇気づけられる。レッカの側にいると、不思議と勇気が湧いて来るようだった。
『だからいつも通り立ち向かえばいい。さあ、痕跡を探しに出発だ!』
レッカは立ち上がり、右腕を天に突き上げて鬨を上げた。だから俺も同じように、右腕を突き上げようとした。
だがちょうどそんな時、ペンダントの羽根が青白く輝き出した。
「うおっ、何だこれ!?」
ただ輝くだけでなく、切り離したトカゲの尻尾のように暴れ回る。俺はどうにか抑え込むが、ここから先どうすべきかがわからない。
『精神共鳴具だよ、それ』
「メンタルツ………ってあれか!」
レッカに言われてようやく気づく。森でロストしたため最近は触れることができなかったが、要するに炎石と同じタイプのやつだ。
そうと分かればと、俺はさっそく力を込める。すると思った通りに挙動が落ち着いていき、代わりに光の奔流が解き放たれた。
それが目の前に流れ込むと、徐々に生物の形をなしていく。最後に出来上がったのは、レッカが使っていたような、淡い光を放つニワトリだ。
《お主ら、揃っておるな!》
「うおっ!?」
いきなりニワトリが喋りだす。その闘鶏様とまったく同じ声に驚かされたが、動じるような状況ではないらしい。彼の声は、焦りを含んでいた。
《つい先ほど、目覚めたリリムから話を聞かせてもらった。件の相手の特徴が分かったのじゃ。》
「『っ!!?』」
俺たち2人は同じような驚き顔をした。その情報は、欠かすわけにはいかない。
2人ともが、前のめるようにして聞く。
《ヤツは全身血のような色をした魔神じゃ。戟を使う様子からして、ポセイドンなのかも知れんと言っておったわい。》
『ポセイドンって神話の海神じゃないか。ここ火山だぜ、あり得るのか!?』
《自分の目で見て確かめぬ限りは、儂にも分からん》
「???」
盛り上がってるみたいだけど、途中からまったく分からない。竜人族の文明か何かか?
《いやそんな話はどうだっていいのじゃ。絶対に伝えねばならんことがある!》
闘鶏様が一喝入れて本題に入る。
《奴の戟は特別じゃ!当たってはならん。あれに直撃すれば、なに》
ザシュッ!!!!!
「っ!?」
『なにっ!?』
あまりにもいきなりだった。光のニワトリが、貫かれた。一番重要なところで、地面から飛び出したフォークに突き刺された。
俺たちは反射的に飛び退き、同様に剣を引き抜いた。そして全神経を研ぎ澄ませる。
『上かッ!……っておい!』
先にレッカが声を上げ、直後さらに飛び退く。何かと思って上を見ると、
「え、ちょっと待て!」
落下してくる巨大な影を捉え、俺もギリギリで飛び退いた。
ドシンッッ!!!
それが尻から着地すると同時に、地響きが起こる。似たような例でスロウスのがあったが、今のこれはその規模を遥かに超えていた。
『追っ手が来たかと思うて見れば、中々の上玉がおるやないか』
それは上体を起こしながら、ブヨブヨとした唇を開いて言う。そしてその眼が俺たち2人を捉えた。
俺たちの対峙している相手は、でっぷりと太った赤き魔人だった。
(ryトピック〜精神共鳴具について〜
適性でマジックとメンタルの型に分けられる中、ほとんどの魔法や閃風斬などの特技は、同じ精神力をトリガーに発現する。この原理を道具に活かしたのが、精神共鳴具である。
発案者はひとりの転生者。彼によるとこれには適性による差別なく、精神力を込めた時点で効果を発揮する。ただし暴発もあり得る。注意されたし。
暴発に関しては、危険な物のみ発動コストを割増にする事で対処した。が、それでも根本は解決されていない。
実はいちど不意打ちを受けて死にかけたりもしたが、それ以降は完全に慣れたようだった。巨大な敵には内側から壊せと、そう教えられたようでもあった。
そして現在、俺はようやく地点に辿り着く。
『君ー、こっちだよ!』
先に調査に出たというレッカが、おにぎり片手に俺を呼んでいた。ほどよい石に座って休憩しているようだが、何か収穫はあったのだろうか?
未だ彼に対する警戒心が抜けない。命を狙われたのだから当然だが、こうして味方になっていても、後ろから刺されそうで怖い。
なので成果の方に意識を向けつつ、警戒心マックスで駆け寄った。
『ほら、君にもあげるよ』
お裾分けと言わんばかりにおにぎりを手渡される。受け取った俺は、毒でも入ってるのではないかと、匂いを嗅いだ。
何の変哲もない、ホクホクご飯の匂い。怪しそうな感じはしない。そもそもこれ、彼の食べてる他のおにぎりと同じところから出されたものだし……
怪しむ気持ちは忘れない。でも一口だけ、口に運んでみる。
「……あ、おいしい」
ギルドでも食べることがあった、塩が効いたおにぎりの味。後味まで全てが、単なるおにぎりの味だった。
『まあ君も腰掛けなよ。立ち食いするほど、切羽詰まってはないだろ』
「ああ、そうだな」
彼に誘導されて、俺は隣に腰掛けた。
「俺のほうは特に何もなかったけど、あんたはどうだった?」
俺はにぎりを食いながらも手短に、聞くべきとこだけを聞く。すると彼は向こうの地面、明らかに穿たれた跡が残っている場所を指しながら言う。
『あれが昨日の破壊行動が行われた場所だ。そこでこいつが採れた』
説明しながらコートのポケットに手を入れて、岩石の破片を取り出す。しかしそれがどう……あ、
「そういうことか。」
凝視して、ようやく気づく。彼の握るそれには、あの勇者の左手のように、不思議な力が漂っていた。
それは魔法の力。勇者の魔法に直撃したためか、適性のない俺でもそれがわかるようになっていた。
『君もわかるんだね。そう、これには魔力が残留している。しかも昨日のフォークと同じものがね』
「フォーク? あの四叉戟のことか?」
『そうそう……って知らないの!?』
レッカに驚いたような顔をされる。でも知らないのだから仕方がないだろう。あんな形の武器、使ってるやつなんて見たことがない。
『武器じゃないからね……
ま、そんなことはどうだっていいんだ。重要なのは、あれが魔法であるってことだ。この先にも同じ痕跡を探せば、きっと件の相手に当たるはずだ』
レッカは空気を切り替えるように、はっきりした声で言った。だが聞いた俺は、少し複雑な感情を抱く。
明確な痕跡が分かったことはありがたい。でもそれは同時に、相手が魔法を使う者であることを表している。
魔法を使う様子は、今までも幾らか見てきた。トッキーの強化魔法に、あの勇者の力任せな雷魔法やヴァルフの無尽蔵に溢れる炎魔法、ミーティアでの高度な水魔法もあれば、砂獣の頭部を貫いたカイの氷魔法もある。
だがそれと闘って勝利したことは一度もないのはおろか、そもそもまともに闘ったことすらない。どう避ければいいか、どう勝機を掴むべきか、その光景がまったく思い浮かばない。
それを踏まえて、今回の相手はフォークとやら。もはやどう攻めて来るのか、俺には予想すらつかない。
その上勇者と同じ主人公補正があるとすれば、さらに勝ち筋が見えてこない。
『そんなに怯えてどうした?』
ふと、彼の手が俺の両肩を掴む。そして否定の言葉を紡ぐより先に、揉みほぐし始めた。
『力を抜けって、らしくないぞ。たかが魔法に怖気付く君じゃないだろ』
「そのたかが、にミンチにされたことがあるんだよ!」
『あ、そういえば勇者くんに消し飛ばされてたね』
「何で知ってんだよ!?」
『そりゃあ、皐ちゃんと見てたからね。』
「そ、そうなのか。(いつの間に………)」
魔王城でのやり取りが、今になって思い返される。あの時は勇者に必死だったが、その時点で見ていたのか、と。
あまりいい思い出ではないが、少し気は紛れてくれたようだ。肩の力が緩むのを感じた。
『まあ心配はするな。俺も魔法を相手にするのは得意じゃない。でも立ち向かわなきゃ、竜人族は救えないよ』
「まあ……そうだよな。」
当然のことを言われているようだが、確かに勇気づけられる。レッカの側にいると、不思議と勇気が湧いて来るようだった。
『だからいつも通り立ち向かえばいい。さあ、痕跡を探しに出発だ!』
レッカは立ち上がり、右腕を天に突き上げて鬨を上げた。だから俺も同じように、右腕を突き上げようとした。
だがちょうどそんな時、ペンダントの羽根が青白く輝き出した。
「うおっ、何だこれ!?」
ただ輝くだけでなく、切り離したトカゲの尻尾のように暴れ回る。俺はどうにか抑え込むが、ここから先どうすべきかがわからない。
『精神共鳴具だよ、それ』
「メンタルツ………ってあれか!」
レッカに言われてようやく気づく。森でロストしたため最近は触れることができなかったが、要するに炎石と同じタイプのやつだ。
そうと分かればと、俺はさっそく力を込める。すると思った通りに挙動が落ち着いていき、代わりに光の奔流が解き放たれた。
それが目の前に流れ込むと、徐々に生物の形をなしていく。最後に出来上がったのは、レッカが使っていたような、淡い光を放つニワトリだ。
《お主ら、揃っておるな!》
「うおっ!?」
いきなりニワトリが喋りだす。その闘鶏様とまったく同じ声に驚かされたが、動じるような状況ではないらしい。彼の声は、焦りを含んでいた。
《つい先ほど、目覚めたリリムから話を聞かせてもらった。件の相手の特徴が分かったのじゃ。》
「『っ!!?』」
俺たち2人は同じような驚き顔をした。その情報は、欠かすわけにはいかない。
2人ともが、前のめるようにして聞く。
《ヤツは全身血のような色をした魔神じゃ。戟を使う様子からして、ポセイドンなのかも知れんと言っておったわい。》
『ポセイドンって神話の海神じゃないか。ここ火山だぜ、あり得るのか!?』
《自分の目で見て確かめぬ限りは、儂にも分からん》
「???」
盛り上がってるみたいだけど、途中からまったく分からない。竜人族の文明か何かか?
《いやそんな話はどうだっていいのじゃ。絶対に伝えねばならんことがある!》
闘鶏様が一喝入れて本題に入る。
《奴の戟は特別じゃ!当たってはならん。あれに直撃すれば、なに》
ザシュッ!!!!!
「っ!?」
『なにっ!?』
あまりにもいきなりだった。光のニワトリが、貫かれた。一番重要なところで、地面から飛び出したフォークに突き刺された。
俺たちは反射的に飛び退き、同様に剣を引き抜いた。そして全神経を研ぎ澄ませる。
『上かッ!……っておい!』
先にレッカが声を上げ、直後さらに飛び退く。何かと思って上を見ると、
「え、ちょっと待て!」
落下してくる巨大な影を捉え、俺もギリギリで飛び退いた。
ドシンッッ!!!
それが尻から着地すると同時に、地響きが起こる。似たような例でスロウスのがあったが、今のこれはその規模を遥かに超えていた。
『追っ手が来たかと思うて見れば、中々の上玉がおるやないか』
それは上体を起こしながら、ブヨブヨとした唇を開いて言う。そしてその眼が俺たち2人を捉えた。
俺たちの対峙している相手は、でっぷりと太った赤き魔人だった。
(ryトピック〜精神共鳴具について〜
適性でマジックとメンタルの型に分けられる中、ほとんどの魔法や閃風斬などの特技は、同じ精神力をトリガーに発現する。この原理を道具に活かしたのが、精神共鳴具である。
発案者はひとりの転生者。彼によるとこれには適性による差別なく、精神力を込めた時点で効果を発揮する。ただし暴発もあり得る。注意されたし。
暴発に関しては、危険な物のみ発動コストを割増にする事で対処した。が、それでも根本は解決されていない。
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