境目の物語
突入!魔王城
あのあと俺は、お城の前までは行ったのだが、追い返されてしまった。と言ってもその原因は俺が人間だからではなく、単純に業務時間だったために門が閉まっていただけだ。
それと、張り紙には「御用の方は日が落ちてから」と、何とも丁寧な説明が添えられていた。
なので俺は都市を散策したり、全く増えない小遣いを潤すべく、お金を稼ぐ術を尋ねてみたりして時間をつぶしていた。ちなみにそっちの方で、素材の換金によって稼ぐ方法を知ることができた。なので今後は素材もちゃんと回収しようと心に決めておいた。
話を戻して夜になった今現在、俺は早速お城の手前まで行ってみた。すると先ほどまで閉まっていた扉が開いており、両側にはスーツを着た魔族の男2人が立ちはだかっていた。さっきはいなかった2人だ。
無論、俺が扉に近づくと2人は
「ご用件は何でしょうか?」
と尋ねながら近寄ってくる。もちろん俺は、
「魔王と話をしにきた。通してもらえると助かるんだが……」
と答える。すると2人は顔を見合わせ、俺に聞こえないくらいの小声で話し合いをしたのちに、俺の短剣を指差して言う。
「その刃物を預からせていただけるなら、魔王様との対話を許可しましょう」
そう来たか。俺としてはこれを手放すわけにはいかない。仮にも我道さんに研いでもらった武器だ。ただでさえ武器がないのに、これを無くして勇者と戦闘にでもなれば、間違いなく殺されてしまうだろう。
……それでも魔王と話をしない限り、俺の目的は進まない。それに我道さんは、この状況を見据えた上でこの目的を与えた可能性が高い。ならこれは預けた方がいいのかもしれない。
俺は少し考えた末に鞘ごとベルトから外し、両手で持って手渡した。だがそれと同時に、
「そのまま持って行かれちゃ困るから、途中までついて来てくれないか?」
頼みを入れておく。結果はそれぐらいなら認めるとの事。
こうして俺は、短剣を預けた方の門番に案内してもらう形で、お城の中へと進んでいった。
城の中は外からの予想と違い、まるでオフィスのような空間が広がっていた。ある者は書類を運び、またある者は情報を書類にまとめる……。
こんな風にして、多くの魔物たちがいそいそと働いているその光景はどこか、ギルドの舞台裏のそれに通づるものがあった。
まあそれは置いとくとして、俺たちそのまま真っ直ぐ進んで行き、階を3つほど上がると、今までの仕事場のような光景からガラッと変わり、だだっ広い部屋にでた。
門番さんに尋ねてみたところ、ここは【四天王の間】らしく、勇者を迎え撃つための最終関門として、遥か昔から変わることなく存在し続けているらしい。だが見たところその四天王とやらの姿は確認できず、空間を支えるいくつもの柱くらいしか目に入るものがない。
と、いろいろ観察していると、不意に門番さんが足を止めた。
「私は門番ゆえに、これ以上先には進めません。魔王様の間はあの扉の向こうなので、ここからはお一人でお願いします。」
「あ、はいそうですか。」
やっぱり役職ゆえの境界線はあるよね。ともかく彼はここで待っていてくれるようなので、俺は短剣の無事を祈りながら、目前の大扉に向かっていった。
しかし俺が大扉のすぐ目の前まで来たその瞬間、不意にどの方角からか、とても強い殺意を感じた。
俺は反射的に後方へと飛び退く。するとその場所を挟み込むように、炎と水…二つの刃が襲いかかる。
それらが衝突すると、重たいしぶきと猛火の欠片が飛び散り、降りかかる。ギルドコートのおかげで大したダメージにはならなかったが、その衝撃を見るに直撃してれば即死……っ!
『あれを躱すとは、かなりやり手のようだね』
「……っ!!」
左側から聞こえる声に身構える。その声の主は、非常にコンパクトな銀鎧を身につけた魔族の男……レベルは40。そして反対側には黒い外套を身に纏った魔族?……正体は分からないがレベルは50。互いに立派な刀を持っている。
『私は水の四天王、君のような勇者を迎え討つ存在だよ』
男の方が軽い自己紹介をはさみつつ、一気に間合いを詰めてくる。もちろん俺は応戦するため、短剣を引き抜こうとする。だがあの短剣は腰についていない。そうだ、今あれは門番さんに預けているのだ。
そうしている間にも、男の突き出した刀が迫る。完全に対処が遅れた。それでも俺は身体を大きく横に反らして、間一髪それを躱す。
だがそれにより体勢を崩したところを突かれ、横に薙ぐ刀に腕を斬られる。切断されはしなかったものの、その切り口から大量の血が吹き出る。また、それに伴う痛みが俺を襲う。
……だがもうこの程度の痛みにはもう慣れた。
俺は何とか体勢を立て直し、意表を突くため逆に接近を試みる。それが功を奏してか男の反応が一瞬鈍る。
俺はせっかくのチャンスを無駄にせぬよう、全力の蹴りを繰り出した。狙いは刀を握るその腕、サイクロプスにしてやったあれだ。
「強撃ッ!」
その一撃はみごと直撃。男の手にはちゃんと痺れが生じたようで、握れなくなった刀が無造作に落ちる。
ただ、硬い籠手ごと蹴った反動で、足の甲には激痛が走る。けどこの更なるチャンスは無駄にできない。
その一心で強引に踏み込んで、男の顔面にストレートを一発。のけぞったところをついて、思いっきり蹴飛ばしてやる。
吹き飛ばされた男は背後の柱と衝突し、地に足をつけた後も、両手をついて荒々しく呼吸をする。かく言う俺も、バクバクとなる脈の音と激痛に揉まれながらリペアによる回復を試みる。
今の感じからして状況は互角、だが明らかにあちらの方が対人慣れしている。そういう意味ではこちらが不利。可能であればここで闘いを切り上げさせて欲しいのだが……。
「闘いはもう止めにしないか?」
俺は期待せず提案する。もちろん男は息を荒げながらも、
『四天王たる者、これしきで勇者に参ったりはしないよ……』
と、好戦的な答えを返してくる。だが男が立ち上がったちょうどその時、
《その人は勇者ではありませんよ、止水さん》
不思議な声が響いた。ロトの会話と似た感覚で、おそらく脳内に直接語りかけている。多分魔王のそれ……なのか?
俺がそう予想立てたその時、奥の大扉がギシギシと音を立てながら、ゆっくりと開いていく。その時視界の隅に、止水と呼ばれたあの男が反射的に跪く姿が映り込む。
そうするほどの奴なのか!?俺は思わず息を呑む。
そしてついに、魔王がその姿を現す。
……と思ったのだが、その姿はどう見ても子供のそれ。レベルも5と出ており、冒険者になりたての俺よりも低い。となれば、魔王の息子さんか何かだろうか?
だがそいつは首を横に振りながら、
「いえいえ、ぼ……私こそが紛れもない魔王、もとい【賢王インダスト】です!」
聞き間違えようのないほどにはっきりと、そう言った。
(ryトピック〜【魔王城】について〜
遥か昔にとある鍛冶職の男によって建てられたと言われている、謎めいた素材でできたお城。その素材のせいか、ここに至るまで一切風化していない(物理的に破壊された跡はそれなりにある)
だがその中身はただのオフィス。防衛システムも組み込まれていないので、もはや魔王を守る気はまったくないかと思われる。
……とは言うものの、設計したのは賢王本人なので誰も言い返さないし、その意外性から勇者に勘違いさせる機能もあるかもしれないと、本人は語っている。
それと、張り紙には「御用の方は日が落ちてから」と、何とも丁寧な説明が添えられていた。
なので俺は都市を散策したり、全く増えない小遣いを潤すべく、お金を稼ぐ術を尋ねてみたりして時間をつぶしていた。ちなみにそっちの方で、素材の換金によって稼ぐ方法を知ることができた。なので今後は素材もちゃんと回収しようと心に決めておいた。
話を戻して夜になった今現在、俺は早速お城の手前まで行ってみた。すると先ほどまで閉まっていた扉が開いており、両側にはスーツを着た魔族の男2人が立ちはだかっていた。さっきはいなかった2人だ。
無論、俺が扉に近づくと2人は
「ご用件は何でしょうか?」
と尋ねながら近寄ってくる。もちろん俺は、
「魔王と話をしにきた。通してもらえると助かるんだが……」
と答える。すると2人は顔を見合わせ、俺に聞こえないくらいの小声で話し合いをしたのちに、俺の短剣を指差して言う。
「その刃物を預からせていただけるなら、魔王様との対話を許可しましょう」
そう来たか。俺としてはこれを手放すわけにはいかない。仮にも我道さんに研いでもらった武器だ。ただでさえ武器がないのに、これを無くして勇者と戦闘にでもなれば、間違いなく殺されてしまうだろう。
……それでも魔王と話をしない限り、俺の目的は進まない。それに我道さんは、この状況を見据えた上でこの目的を与えた可能性が高い。ならこれは預けた方がいいのかもしれない。
俺は少し考えた末に鞘ごとベルトから外し、両手で持って手渡した。だがそれと同時に、
「そのまま持って行かれちゃ困るから、途中までついて来てくれないか?」
頼みを入れておく。結果はそれぐらいなら認めるとの事。
こうして俺は、短剣を預けた方の門番に案内してもらう形で、お城の中へと進んでいった。
城の中は外からの予想と違い、まるでオフィスのような空間が広がっていた。ある者は書類を運び、またある者は情報を書類にまとめる……。
こんな風にして、多くの魔物たちがいそいそと働いているその光景はどこか、ギルドの舞台裏のそれに通づるものがあった。
まあそれは置いとくとして、俺たちそのまま真っ直ぐ進んで行き、階を3つほど上がると、今までの仕事場のような光景からガラッと変わり、だだっ広い部屋にでた。
門番さんに尋ねてみたところ、ここは【四天王の間】らしく、勇者を迎え撃つための最終関門として、遥か昔から変わることなく存在し続けているらしい。だが見たところその四天王とやらの姿は確認できず、空間を支えるいくつもの柱くらいしか目に入るものがない。
と、いろいろ観察していると、不意に門番さんが足を止めた。
「私は門番ゆえに、これ以上先には進めません。魔王様の間はあの扉の向こうなので、ここからはお一人でお願いします。」
「あ、はいそうですか。」
やっぱり役職ゆえの境界線はあるよね。ともかく彼はここで待っていてくれるようなので、俺は短剣の無事を祈りながら、目前の大扉に向かっていった。
しかし俺が大扉のすぐ目の前まで来たその瞬間、不意にどの方角からか、とても強い殺意を感じた。
俺は反射的に後方へと飛び退く。するとその場所を挟み込むように、炎と水…二つの刃が襲いかかる。
それらが衝突すると、重たいしぶきと猛火の欠片が飛び散り、降りかかる。ギルドコートのおかげで大したダメージにはならなかったが、その衝撃を見るに直撃してれば即死……っ!
『あれを躱すとは、かなりやり手のようだね』
「……っ!!」
左側から聞こえる声に身構える。その声の主は、非常にコンパクトな銀鎧を身につけた魔族の男……レベルは40。そして反対側には黒い外套を身に纏った魔族?……正体は分からないがレベルは50。互いに立派な刀を持っている。
『私は水の四天王、君のような勇者を迎え討つ存在だよ』
男の方が軽い自己紹介をはさみつつ、一気に間合いを詰めてくる。もちろん俺は応戦するため、短剣を引き抜こうとする。だがあの短剣は腰についていない。そうだ、今あれは門番さんに預けているのだ。
そうしている間にも、男の突き出した刀が迫る。完全に対処が遅れた。それでも俺は身体を大きく横に反らして、間一髪それを躱す。
だがそれにより体勢を崩したところを突かれ、横に薙ぐ刀に腕を斬られる。切断されはしなかったものの、その切り口から大量の血が吹き出る。また、それに伴う痛みが俺を襲う。
……だがもうこの程度の痛みにはもう慣れた。
俺は何とか体勢を立て直し、意表を突くため逆に接近を試みる。それが功を奏してか男の反応が一瞬鈍る。
俺はせっかくのチャンスを無駄にせぬよう、全力の蹴りを繰り出した。狙いは刀を握るその腕、サイクロプスにしてやったあれだ。
「強撃ッ!」
その一撃はみごと直撃。男の手にはちゃんと痺れが生じたようで、握れなくなった刀が無造作に落ちる。
ただ、硬い籠手ごと蹴った反動で、足の甲には激痛が走る。けどこの更なるチャンスは無駄にできない。
その一心で強引に踏み込んで、男の顔面にストレートを一発。のけぞったところをついて、思いっきり蹴飛ばしてやる。
吹き飛ばされた男は背後の柱と衝突し、地に足をつけた後も、両手をついて荒々しく呼吸をする。かく言う俺も、バクバクとなる脈の音と激痛に揉まれながらリペアによる回復を試みる。
今の感じからして状況は互角、だが明らかにあちらの方が対人慣れしている。そういう意味ではこちらが不利。可能であればここで闘いを切り上げさせて欲しいのだが……。
「闘いはもう止めにしないか?」
俺は期待せず提案する。もちろん男は息を荒げながらも、
『四天王たる者、これしきで勇者に参ったりはしないよ……』
と、好戦的な答えを返してくる。だが男が立ち上がったちょうどその時、
《その人は勇者ではありませんよ、止水さん》
不思議な声が響いた。ロトの会話と似た感覚で、おそらく脳内に直接語りかけている。多分魔王のそれ……なのか?
俺がそう予想立てたその時、奥の大扉がギシギシと音を立てながら、ゆっくりと開いていく。その時視界の隅に、止水と呼ばれたあの男が反射的に跪く姿が映り込む。
そうするほどの奴なのか!?俺は思わず息を呑む。
そしてついに、魔王がその姿を現す。
……と思ったのだが、その姿はどう見ても子供のそれ。レベルも5と出ており、冒険者になりたての俺よりも低い。となれば、魔王の息子さんか何かだろうか?
だがそいつは首を横に振りながら、
「いえいえ、ぼ……私こそが紛れもない魔王、もとい【賢王インダスト】です!」
聞き間違えようのないほどにはっきりと、そう言った。
(ryトピック〜【魔王城】について〜
遥か昔にとある鍛冶職の男によって建てられたと言われている、謎めいた素材でできたお城。その素材のせいか、ここに至るまで一切風化していない(物理的に破壊された跡はそれなりにある)
だがその中身はただのオフィス。防衛システムも組み込まれていないので、もはや魔王を守る気はまったくないかと思われる。
……とは言うものの、設計したのは賢王本人なので誰も言い返さないし、その意外性から勇者に勘違いさせる機能もあるかもしれないと、本人は語っている。
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