境目の物語
煌めきの下で…
「突然ですが、俺は今どこにいるでしょう?
答えは焦土に来て初めて登った丘です」
俺は今、口にした通りのあの丘のてっぺんに立っていた。それにちょうど日も落ちた頃合いで、あの日とそっくりの状況を作り出せている事にも気づく。
でもなぜこんなところにいるのかって?
それはあの戦いから今までの経緯を話すのが一番手っ取り早いだろう。
あの後、なんとか精神を保ったまま町まで戻ることができた俺は、ブレイブを自宅に寝かせて彼の休息を促した。まあ元より気絶してたからブレイブがどう感じてるかはわからなかったけど……。
そうしたあとすぐ、俺はこの町を飛び出して、この大地を歩きまわっていた。
理由はもちろん勇者様から身を遠ざけるため。それに、歩くのはいい気分転換になる。今回の戦いで主に精神的に疲れきっていた俺には、それが必要不可欠だった。
……まあだからと言って、昼頃からずっと歩き回るのはどうかとは思ったけど……。
ただ、ちょうど日が朱に染まったあたりでここの近くを歩いていたから、せっかくだと思って登ってみたわけだ。緩やかな傾斜を、だけどね。
まあ話を冒頭に戻すとして、俺は何となくそれを言ってみたくなったから、この言葉を口にした。そのあとここに座り込み、まわりを見渡してみた。
以前そうした時は、各地に火柱の上がる不気味な黒い大地が映っていた。だけど今は、黒き大地を照らす火柱はどこにも見当たらない。そりゃあヴァルフを倒したんだから当然のことだ。
ただ…………だからこそ、この大地は光を完全に失っていた。流派が観察者に派生した今だからこそ、闇の中をうごめく魔物たちを識別することはできている。けどそれでも、あたり一面の闇にはかすかな恐怖心を感じずにいられなかった。
《けどそれを言いたかったわけでは
ないんだろう》
指を鳴らす音とともに、ロトの声が響く。
「ああ……そうだ」
俺は力強くうなずき、視線を一気に上げて空を見上げる。
するとそこには、暗闇を飲み込むように輝く満天の星空が広がっていた。
今まで見たことのないほどに鮮やかな色彩を放つ銀河。個々がそれぞれにしかできないような光を見せる星の数々。
そして何よりも、ここで既に星の見えない夜空を見た経験がある俺だからこそ、この絶景には感動の声を上げるほかなかった。
「……やっぱりこれが、旅の醍醐味ってやつなんだろうな〜」
この光景に見惚れながら、俺はそう呟いた。そして他者に縛られる事なくこんな旅をしてみたいと、心から思うようにもなっていた。
しばらく俺はこの光景を楽しみながら、精神的な疲れを癒していた。そうして俺が満足し切った頃合いになった時、そのタイミングを見計らってかロトが声をかけてきた。
《しっかりと英気を養えたみたいだね
ここで少し話しておきたい事がある》
「話しておきたい事?」
《あの男【色原 我道】についてだ》
「えっ、我道さんについて!?」
ロトが我道さんの名を出すのは驚きだが、一体どんな話をするのだろうか……。正直予想できない。
《あの男が君にすすめた流派【傍観者】…
俺としては君にこの流派を
すすめられない理由があった》
「すすめられない理由……?」
《それは【観察眼を得る】
代わりに【身体能力を損なう】
性質がある事を知っていたからだ》
「身体能力を損なうだって!?」
そんな性質があったのか!?
……いや、そういえば昨日ギルドカードでステータスを確認した時、【筋力】と【機動力】だけ下がってたな。
それにあの流派を使い始めた時の全身の力が抜けていくような感覚。あの時はリラックス効果か何かだと思ってたけど、もしかして本当に力が抜けていってたのか?
思えば思うほど、心当たりのある現象がいくつも起きている事に気づかされる。そしてどれだけそれらを無視してたのかも思い知らされる。
《この性質は今まさに旅を始めようと
している人にすすめるようなものではない
のは君でもわかるはずだ》
確かにこんな縛りみたいな性質、すすめる意図が見当たらない。
《でもそれは違った
この流派は戦いにおける基礎に当たる
少ない力から最適な効果を生み出す動き方と
瞬時に的確な判断を下す観察力を
身につけるためのものだったんだ》
……なるほど。
なんか難しい言葉が出てきたけど、能力や魔法に頼らない(頼れない)そのままの戦い方を練習するための流派ってことなんだろう。多分。
でもまだ我道さんについての結論が出ていない。
「で、結局のところ何を言いたいんだ?」
俺がすぐに尋ねると…
《あの男は基礎の大切さを
よく知る人物であるという事だ
それにおそらく君と基礎との
相性の良さにも気づいている》
ロトはそう答えた。
しかし……俺と基礎の相性がいいとはどういう意味なんだろうか?
基礎っていうと、あまり強そうなイメージが浮かばないんだが。
《やっぱり君なら気になると思ったよ
でもそれは自分自身が体験していく事だ
俺から教える事は出来ないし
あの男だってそれを望みはしないだろう》
「そうか……」
そこまで言われてしまえば、もう聞き出す事は出来そうにない。それは探究心が強い俺にとってはけっこうな痛手だ。
でも彼の発言によると、遅かれ早かれその時は必ず来るらしい。ならそれを掴み取る事が、今の俺にできる唯一の探求手段ってことだ。
俺はその期待に胸を高鳴らせながら、ゆっくり立ち上がる。
もう立ち止まってなどいられない。今すぐにでも魔王から話を聞いて、その森を抜けて、早く我道さんに再開したい。
俺はその本来の目的に今まで以上のやる気を抱いた。
そしてその目的に向かうべく、魔王都市へと歩みを進めるのであっ……
《ちょっと待って!》
ロトがいきなり俺を呼び止める。俺としては、もう話は済んだものだと思っていたから、今の不意打ちにはさすがにビクッとならざるを得なかった。
「びっくりさせるなよ!」
俺は思わず怒鳴りつける。
でもそういえば、ロトは話を終えたなんて一言も言ってなかった。なら悪いのは俺の方なのか……?
俺の意識が一気に冷静さを取り戻していくのを感じる。でもだからと言って、ロトの気を害してしまった事には変わりない。
《驚かせてしまったようですまない
だがそれはそれとして
君に試してもらいたい事がある》
あれ、気にしてない?
……ていうか、
「試してもらいたい事?」
俺は空気に乗せられて、謝る事も忘れてそれを聞いた。
《目に見える範囲にいる魔物を
観察してもらいたい》
「観察か……、わかった。」
なんかもう謝る空気がなくなってしまった。ともかく俺は彼に言われた通り、近くにいたフェンリルを観察してみる事にする。
暗闇に溶け込んでいるから、いつもより少し観察しずらい。でも多分そういう事を言いたいのではないと思う。
《次はそのままの状態で
強さを測るイメージで観察してみて》
「強さを測る?……こうか?」
彼の説明は、ラピッズに閃風斬を教えてもらう時のそれに通ずるものがあった。
なので今回も俺なりの解釈として、フェンリルの身体能力を思い描くイメージで観察を続ける。
すると、何かの数値のイメージが、ぼんやりと浮かび上がってきた!
よく見てみると【30】と書いてあるようだが……
「もしかしてあれ、フェンリルのレベルか何かか?」
《その通りだ
これは対象の大まかな強さを見出だす技……
その名も【力量観察】だ!》
「力量観察っ!!
こんな事もできたのか!!」
俺はこの技に驚きを感じ、同時にとても強い関心を抱いた。これさえあれば、勇者様やほかのやつらのレベルも覗き放題に……
《……となればいいんだけどね
この技はあくまでも
外見から力を推測する技であり
また今の君だと結構な誤差が生じてしまう
あのフェンリルも俺がじっくりと見れば
【Lv.26】と出るようにね》
ロトの場合は26と出るのか。しかもご丁寧にレベルまで……。
こうなるとやはり実力の差を感じてしまう。でもおかげで俺の向上心に火がついた。ともかく練習あるのみだ。
あとで考えれば、俺って本当に一点しか見てないんだなって思ってしまう。
ともかくこの時の俺は、自由気ままな旅をすることへの憧れも、目的達成のために魔王城に行きたいと思っていた事も忘れて、ただ観察能力を鍛えることだけを考えて事に臨んでしまうのであった。
(ryトピック〜【力量観察】について〜
この技は観察対象の見かけだけの強さを見出だす技であり、使用者本人にわかるような形(ラグの場合はレベル形式)で表示されるようになっている。ただしこれは意識の問題なので、他の形式をイメージすればその通りに表示させることも可能である。
この技による鑑定の精度は使用者の観察能力に比例しているため、観察能力が高ければ高いほど正確に鑑定する事ができるようになる。
また、あくまでも外見による判断であるがゆえに、魔法や能力に依存したタイプの相手に使ってもあまり意味を成さない。
それに、この技はまだ習得したての未完成の状態である事も、忘れてはならない……
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