境目の物語

(ry

互いの成果

 あの後、俺は食料調達を名目としてこの町の外に出て、彼らに提供するためのフェンリルを狩りながら、1人で技量を磨く日帰りの旅をしていた。
 正直なところ、ラピッズの2人が忙しいからと言って独学で閃風斬を磨くのはどうかと思ったが、実戦の中で磨くことで思った以上に技を成長させる事が出来ていた。


 そして、決意を固めたあの時から5日間経った今。晴天下の元に広がる真っ黒な大地を踏みしめている俺は、その大地を駆ける1匹のフェンリル獲物を捕捉していた。

 俺は一瞬口元に嗜虐的な笑みを浮かべ、腰にかけた鞘から短剣を引き抜いた。
 奴との距離は60メートル程空いている。だが俺は武器を構える。そして瞬間的に風のイメージを形作り、鋭く空を裂き、斬撃波を放つ。

 細く鋭い波は、20メートル、30メートルと、以前では考えられない程遠くまで伸びていく。
 そしてついには、駆け回るフェンリルの無防備な腹部に直撃し、斬り裂きながら貫通した。


「よし決まった!」

 偏差撃ちが決まったので、俺は左手だけでガッツポーズをとる。そしてすぐに、戦闘へと意識を戻す。不意打ちを受けた奴は完全にこちらに気づいたらしく、

『アオォーーン!!』

 と一吠えした後、すぐに全速力で走ってくる。奴の取り柄とも言えるそのスピードは、60メートルという距離だろうと一瞬で詰めてくる。
 そして攻撃の間合いに入ったフェンリルは、その推進力をダイレクトに乗せて俺に噛み付く。

 だが俺はそれに当たる前に飛び上がり、容易に躱す。さらにそこから、以前もよく使っていた急降下からの斬撃を繰り出す。ついでに名付けて!


翡翠ひすい斬り!!」

 そう叫びながらも、確実にフェンリルの尻尾を目掛けて武器を振るう。そして切断する。見なくても、尾を斬られて痛みに悶える奴の姿が想像できる。

 さらに急降下からの反発力を利用して懐に潜り込み、痛みにのたうち回ろうとする奴のその腹部に短剣での連撃を叩き込む。
 短剣での一振り一振りが腹を裂き、合わせて血の飛沫が上がる。まさに闘いにおける最高の瞬間だ。それは全身に返り血を浴びている事を忘れるほどに。

 だが油断はしない。胸元まで斬り刻んだあたりで、奴の右腕、さらにはその鉤爪が襲い掛かる。それを躱し、すれ違いざまに腕に斬り、深い切り傷を負わせる。
 次は頭部の、噛み付きによる攻撃だ。ずらりと並ぶ鋭い牙が、一斉に襲い掛かる。それを後方に飛び退いて躱す。同時に少し距離を取り、大きく息をついて不足ぎみの酸素を補給する。

 だがフェンリルは俺の様子を見るとすぐに向きを変え、ボロボロになった体を無理に動かし、逃走を始めた。ここまでボロボロにしたとはいえ、まだ直線移動では奴の方が一枚上手だ。追いかけなければ逃す事になる。

 俺は軽く息を整え、すぐに追う。そうしながらも短剣は前に構え、以前とは違う、風のイメージを形作る。
 イメージがガチッとはまり込むのを確認する。そして腕を、短剣を後ろ肩に回し、


「閃風斬!!!」

 いつも以上に大振りに、力強く空を裂く。そこから、フェンリルの胴ほどの大きさの、巨大な斬撃波が放たれる。
 それは、駆ける俺のスピードをも乗せて、逃げるフェンリルに迫る。

迫る。迫る。

 そしてついには追いつき、バサッと大きな音を立てて、フェンリルの身体を両断した。
 魔物の中では結構タフな方であるフェンリルであろうと、流石に胴体を切断されれば生きてはいられない。万が一のこともあるので首筋も斬り裂き、フェンリルが完全に絶命したのを確認すると、ようやく俺も肩の力を抜く事ができる状態になった。



「ふ〜終わった終わった」

 俺は短剣を鞘に納め、腕を伸ばしながら言う。
 たった5日間でここまで出来れば上等だろう。閃風斬に関しても頑張れば100メートル以上の射程も引き出せるようになったし、あとは翡翠斬りかな〜。


「あ、そうだ!」

 俺はふと、ギルドカードの事を思い出した。きっと今自分がどれほど強くなったのか、あと流派のレベルがどこまで上がったのかが気になってきたからだろう。
 早速俺はポーチからギルドカードを取り出し、その裏面を見てみる。




【名前】ラグレス•モニターズ

種族:【他世界種(不明)】Lv.13

能力:概念系【慣れ/進歩 上手】Lv.3
流派:【傍観者】Lv.9


フィジカルランク:Lv.38

耐久力:【C-】
精神力:【C】
筋力 :【D-】
機動力:【C-】
持久力:【C+】
思考力:【C】

                     250.c




「すげー、傍観者のレベルがあと1でMAXになる!」

 俺はその事に喜ぶ。正直フィジカルランクがあんまり上がってないのが気になるが、今は流派のそれだけで十分だ。ならそのあと1を上げに行きますか。

 と意気込んで空を見上げた時だった。雲一つない晴天の空に、金色の光が見えた。何だあれ?っと思ってじっくり観察してみると、左右の大翼と嘴が確認できた。どうやら鳥らしい。
 しかしもっとよく観察してみると、それが俺のいる方向に一直線で進んでいる事に気づく。まさかこのフェンリル狙いか!?

 他を当たればいいとはいえ、せっかくの肉を奪われるのは気に食わない。あれの撃退を図るため、俺は短剣を引き抜こうとする。だがそこで体が言う事を聞かなくなる。
このパターンはやっぱり…

 全くその通りで、金色の鳥は俺の目の前、フェンリルの上に着地し、その背から勇者が現れた。


「何しにきたんだ、勇者様。
……ていうか、その鳥なんだ?」

『ん?
ああ、こいつは付与雷鳥エンチャントサンダーバードのサンダーバードだ。やっと自由に操縦できるようになったからな』

「マジで!?」

 確かにその鳥は、金色に輝いているのではなく、バチバチと鳴る電気が輝きを出しているのが確認できる。これじゃあ俺よりも強くなってるじゃないか。


『そんな事よりも、お前を呼びに来たんだ』

「俺を呼びに?何で?」

『この後開く会議に出てもらうためだ。
明日の作戦における最終確認の会議だ。ラグが到着し次第始めるから、なるべく早く帰って来いよ』

「ああ分かった。こいつを解体してからすぐ戻るよ」

『解体する必要はないぜ』

 彼はそう言うと雷鳥サンダーバードの背に飛び乗った。そしてその脚でフェンリルを掴ませたまま、空へと飛び上がった。同時に俺の体の自由が戻る。


『じゃあ、また後で』

「ちょっと待て!!」

 俺はまだ自分用の肉を回収していないフェンリルを奪い去ろうとする勇者を呼び止める。だが雷鳥の羽ばたきの音に遮られてか、声が届いていないらしい。なら強引な手段を取るまでだ。

 俺は今度こそ短剣を引き抜き、すぐさま閃風斬を繰り出す。だがどういう乱数なのか、カラスの群れがその間に割り込み、内の一匹が斬撃波を庇ってしまった。
 その間に勇者は射程外まで飛び去ってしまい、俺は止める術を全て失ってしまった。


「ちくしょう、俺の昼飯が……」

 俺はとてもがっかりした。自分で仕留めた獲物ほどうまい食材は無いというのに。
 とりあえず俺は、閃風斬を庇ったカラスを回収する。そして、やりたいと思っていた流派のレベリングも仕方なく放棄して、不完全燃焼感に気を悪くしながら、町の方へと戻ったのであった。



(ryトピック〜【翡翠ひすい斬り】について〜

 この技は、ギルドにいた頃に見かけた翡翠カワセミの挙動に似ていた事からラグが名付けた自作技である。
 跳躍からの急降下による力を乗せた一撃となるため、極めれば素の力の数倍もの力を発揮できる。また、そこからの着地ぎわに地を蹴る事で追撃に派生させることも可能であるため、連撃戦術に通ずるところもあるらしい。
 もちろんラグはそんなところには気づけていない。

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