境目の物語

(ry

小鬼達の狩り

 俺はブレイブに導かれて建物の外に出る。内と外の明るさの違いにより少し目が眩んだが、次第にそれもおさまっていく。
 そして今、俺の目の前に広がったのは、石材建築が建ち並ぶ小規模な町のような場所だった。そこには様々な物資を運ぶ黒ゴブリン達が行き交い、忙しそうな印象が強くあった。


「行くぞラグ、こっちだ」

 ブレイブが声だけでなく全身で俺を呼んでくれる。それに合わせて俺は後を追う。

 それにしても、右手に見える篝火のある広場だったり、少し向こうに見える訓練場のような場所など、やはりこの町にはどこか懐かしさを感じる。
 俺はそれを観察して楽しみながら彼を追う。だが彼としては早く目的地に行きたいらしく、何度も俺を呼んで急かしている。

 そんなこんなである程度進んだ時だ。突然四方から角笛のような音が鳴り響いた。同時に作業途中のゴブリン達の手が止まり、空気感が大きく変わった。


「なあブレイブ、こりゃなんだ? 大丈夫なのか?」

 俺は不安になってきて彼に聞いた。だが彼は少しにやけて東の方角を向いた。そしてその方向を指差しながら口を開く。


「まあ見ててくれ。おもしろいもんが見れるぜ」

……ますます不安になってきた。せめて何が起こるのかぐらい教えてほしいのだが。


 だがそれを聞こうとした丁度その時、彼が指差すあたりから4メートル程の背丈をした大型の獣が現れた。豊かな毛並みを持ち、鋭い牙をギラつかせたその姿を見る限り、あの獣はフェンリルなのだろう。

 よく見ると反対側に、迎撃要員であろう7人のゴブリンが立ち塞がっている。その中には弓を持った者が4人と多いが、特に目立つのが丸々とした大きなゴブリンだ。
 ぱっと見太っているように見えるが注目して見るとがっしりとした筋肉が浮き上がる程についており、只者ではない事を物語っていた。

 そのゴブリンは大きく前に出て、腰にかけた赤塗りの角笛を取り出す。それを口元にあてて大きく息を吸い、思い切り吹いた。
 轟音が鳴り響く。ここなら遠いため耳を塞ぐとまではいかなかったが、フェンリルからしたらあの距離だ。塞げない耳を恨みたくなる程の音を受けたに違いない。その牙を今まで以上に剥き出して、ついにはそのゴブリンに飛び掛った。

 だがなんとそのゴブリンは狼の大口に両腕を入れ、強引に口を開かせてそれを受け止めた。そのまま更に口を開かせ、遂には顎を外し、その体を前方に投げ飛ばした。
 その先には見覚えのある人影が剣を掲げている。


『【エンチャントサンダーバード】!!』

 その掛け声と同時に、晴れた空から勇者の持つ剣めがけて雷が落ちる。俺にはその雷が鳥の姿をしているようにも見えた。
 その後すぐに剣を構える。雷は更に力を増していく。


『決まれ! 【サンダーバード】!!』

 勇者はその掛け声と共に剣を振る。それと同時に剣に纏わせていた雷が放たれ、フェンリルの身体を鋭く貫いた。しかしこの動き、あのサイクロプスもしていたような……

 そんなことよりも、あのフェンリルはまだくたばっていないらしい。先ほどの一撃で腹から尻尾付近にかけて抉られたにもかかわらず立ち上がり、後方にいたゴブリン達へと飛び掛かる。
 だがそれも承知の上か、すでに弓兵が弦を最大限に引き絞り、狙いすら合わせられている。

そして一斉に矢が放たれる。
 その1本は右の瞳に、ほかの3本は胴部に深々と突き刺さり、フェンリルに重大なダメージを負わせる。お陰で攻撃の手が弱まり、弓兵を目前にして止まってしまう。

 もちろん彼らがそんな隙を見逃すはずがない。すぐにその足を大柄のゴブリンが掴み取り、宙を介して全力で地に叩きつける。その後すぐに懐から角笛を取り出て、先ほどとは少し違った音を鳴らした。

 それを承ったかのように、控えていた2人のゴブリンが飛び出した。よく見ると2人とも身の丈ほどの巨大な包丁を抱えている。もしやと思ったタイミングで大柄のゴブリンが飛び退き、次の行動を確定的にした。

 だが、その光景は予想をはるかに超えていた。なんと彼ら、あんな巨大な物を振りましながら、またその豪快さに似合わないほど丁寧にフェンリルを解体し始めたのだ。最初に首を落とし、流れるように四肢を切り分け、踊るように胴体を捌いていく。
 そうして俺があっけに取られてより僅か30秒で、あの全身を綺麗に捌ききってしまった。


「解体ショーはどうだったか?楽しめただろ」

「ああ、正直信じられないよ。あんなスピードであそこまで丁寧に捌けるなんて」

 俺なんて小さな鳥を捌くのに数分かかる上にちっちゃな一切れしか取り出せないってのに。敗北感が凄まじい…
 と言っても、相手はプロなのだろうから仕方ないか。俺はポジティブに捉えてこの話を切り上げて、またこちらを呼んでいるブレイブの後を追いかけた。




(ryトピック〜【スコーチフェンリル】について〜

 この焦土間に生息しているフェンリルの亜種。ところどころ火柱の上がっている過酷な環境に適応できる程度の身体能力と炎属性までの耐性を獲得している。
 かなりタフであり内臓を1つや2つ破壊したぐらいでは大したダメージにもならないらしい。
だがその強靭な肉体は上質なタンパク源となっており、無慈悲の狼にもよく狙われている。

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