境目の物語

(ry

逃げられぬ戦い

俺はすぐさますべき行動を考える。
 闘うべきか、逃げるべきか。その二択だが、この体調であれらと闘うには無理がある。それに、この短剣の長さではあの分厚い肉を断つ事など不可能だ。別にあの人を助けたいわけでもないし、ここは逃げが正解だな。

 俺はあれに巻き込まれないよう逃げる事を念頭において、一歩前に踏み出した。
……あれ?何故逃げようとしているのに前に出たんだろう。少なくとも左右どちらかに動けば簡単に逃げられるのに。

 そんな疑問を抱えつつ、俺はまた一歩、また一歩と前へ進む。
……おかしい。体が言うことを聞かない。まるであの人を助けろと強制されるように、そこに近づいていく。


「まさか!!?」

 俺はハッとなり前を見る。いつの間にかすぐ近くにまで来ていたその人の姿が、視界にはっきりと映る。
 外見は黒髪で、青い旅人の服を着ていて、柔軟性の高そうな革靴を履いている少年だ。彼は走りながらこちらに腕を伸ばしている。


『そこのお前、手を貸しやがれ!』

 彼はそう、俺に呼びかける。それと同時に俺の体が地を蹴り、奴らへの急速接近を開始した。
 間違いない、操られている!

 自分ではどうにもできないその体は、僅か数秒で奴らの懐に潜り込む。そして腰につけた短剣を抜き出し、斬りつける。
 もちろん刃は骨にすら届かず、スパッと肉に切れ込みを入れるだけだった。

 それに、奴らはサンドバッグではない。力のギャップに驚く様子は見られたが、すぐに目的を思い出し、手に持つ石製の棍棒を振りかぶる。


••••••••••••邪魔ヲスルナアァァ!!

 そして、尋常じゃないほどの怒りが秘められたスイングをかます。風を押し潰すような轟音を立てながら、それは迫る。

 俺はそれに直撃し、十数メートルほど打ち上げられる。それと同時に呪縛のようなものが解け、体に自由が戻る。
 それにいち早く気づいた俺は丁寧に着地して、被害を最小限に抑えた。


「ゲホッ、ゲホッ。痛ってぇ。」

 喉の奥から上がってきた血を吐き出す。痛みこそ先の化け物どものそれよりは軽いが、痛い事には変わらない。それに、奴らに休ませる気は無いらしい。


•••••••••••••••••勇者ノ仲間モ倒スンダー!!

 背後から、あの悲痛にまみれた雄叫びが聞こえてくる。だが今度は動けるんだ。当たるわけにはいかない。

 俺はすぐに背後に向きを変える。同時に、振り下ろされる棍棒をひらりと躱し、そのまま距離を取った。その流れで少し考えごとをする。


 俺が気になったのは、同じサイクロプス種の【平原の主】は喋らなかったのに、奴らは当たり前のように魔物の言語を話していたことだ。

 何かいい策を思いつくかもしれないと思い、今一度奴らを観察する。2人はこちらに向かっており、後の3人は彼と交戦している。というか彼、3人同時にも関わらず対等に戦えている。
 それに、さっきあのサイクロプスが勇者がどうとか言ってた気がする。じゃあ彼があの勇者って奴なのか?

 急に寒気がしてくる。あの我道さんが危険視してた人物だ。あの技を使われたら逃げようがないし、他にも変な技を使えるかもしれない。それに、俺自身があれに致命傷を負わせられないのなら、和解を目指すべきじゃないか。

 俺は決意を固める。そして、それに臨むべく、今度は自分の意思で歩みを進めた。



(ryトピック〜この土地について〜

 正式な名は【無慈悲な焦土】。今わかってる中では魔王城の側に位置しており、それなりに強い魔物が集まる地である。
 だがその性質が、冒険者にとっては力試しに最適の地として話題になったりする。なお、魔物の領地であるため、滅多に依頼の目的地にはならない模様。

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