境目の物語

(ry

黒く明るい焦土の地

 あの後俺は、なんとかあの恐怖しかない森を抜ける事ができた。その時にはすでに空が暗闇に包まれ、昼飯を抜かれた俺のお腹も飯をくれと唸りを上げていた。だがそんな時間帯でも、周りを見るのにはなんの問題もなかった。

 何故かって? それは大地に点々と炎が上がっているからだ。
 その明かりを頼りに見渡してみると、ここは地面の起伏が激しく、草木が一つも見当たらない、真っ黒な焦土であることがわかる。魔王城の近くならこの感じも納得できる。
 ただ、その起伏に遮られて遠くまで見えないので、俺は最寄りの丘に上がり、周りを見渡してみた。


 やはり火柱が点々と上がっており、割と遠くまで見通す事ができる。少し遠くにちらほらと大型の魔物が確認でき、その中でも目立っていたのは、炎に包まれたフェンリルのような魔物と、右手に見える石造りの建造物だ。
 ただ、それはここから遠めの辺りの話であり、この周辺には魔物も建造物も見当たらない。まあ、たとえ居たとしても機械人形と比べれば可愛いもんだ。というかあれはトラウマになりかねん。


 なにはともあれ、付近の安全は確保できた。次は、ぽっかり穴を開けられたこの右腕の心配をしよう。
 俺は止血用に巻いておいた布を取り外し、グロテスクな傷口を露出させた。そして、こんな時のための回復技を発動させる。ええと名前は……、


「思い出した。傷を癒せ【ERイーアール】!!」

俺は《彼》の言葉通りに技を発動する。
しかし、いつまでたっても傷口に変化はなく、あるのは風に吹かれて増していく痛みだけだった。


《まさか……発動できていないのか?》

 腕の痛みに耐えながらの試行錯誤に集中していた時に、突然《彼》の声が聞こえたため、俺は驚き飛び上がる。


「うおぅ! ビ、ビックリした〜。話すなら言ってくれよ」

《それは不可能だ》

「あ、すまん」

 そりゃあ姿かたち無くして合図なんて無理だろう。つまり、これには慣れるしかないわけか。なんかため息しか出てこない。


《そんな事は置いとくとして
 エネルギーリザ……ではなく
【エネルギーリペア】で
 発動してみてくれ》

「お、おう……分かった。
傷を癒せ!【エネルギーリペア】!!」

 俺は言い間違いなくそれを唱える。すると、あの時のように傷口がみるみるふさがっていき、たったの十数秒で完治した。それと同時に持久力が一気に減少し、どっと疲れが押し寄せた。


「はぁ、はぁ……
どんだけ疲れんだよこれ。」

《本来なら治療に1カ月はかかる傷だ
そうなっても不思議ではない》

 ああそうですか。でももう聴く気にもなれねえ。俺はぐったりして、そのまま地面に寝転がる。ただでさえ精神力に限界が来ていた上でのこれだ。動く気にもなれない。


《これは俺の失態だからお詫びをしたい
 何か知りたい事はあるかい?》

「知りたい事か〜」

 んー、何かあっただろうか。疲れのせいで、脳が働いてくれない。


「じゃあ……あんたの名前を教えてくれよ。《彼》だと呼び辛い」

 俺の頭にふと浮かんだのが、なぜかこれだった。たしかに必要な事だろうけど……


《【…ロト】だ》

「ロトか、わかった」

《いやロトじゃなくって【…ロト】だ
分かったか》

「やっぱりロトじゃないか」

……何故だろうか、話が食い違ってる気がする。俺には彼がロトと言っているようにしか聞こえないが、その前の間が気がかりだ。


《……禁止ワードが掛かっているのか
ならロトでいい
《彼》と呼ばれるよりはマシだ》

「そうか。ならよろしく、ロト」

 禁止ワードってのには引っかかるが、ロトに分からない事だ。俺にわかるはずもない。
 そう思った俺はそれを聞かなかった事にして、飯も食わずに寝る体勢に入った。


 だがそうして目をつぶった時だった。視覚分の集中力がほかに回された事により、微かな揺れを感知する。しかも結構多い。近くに敵がいるのだろうか。
 本当なら無視したい所だが、今この体調で強敵に出会っては生き残る保証がない。それに、この揺れ通りの大多数であれば生存は絶望的だ。

 ここで死ぬ気などさらさらない俺は、一つため息をついてから体を起こし、今一度周辺を見渡してみる。するとすぐに、それは見つかった。

 4……いや、5匹のサイクロプスの群れが、武器を担いだまま走っている。その前方には人間の姿があった。ここからではそれくらいしかわからないが、もう一つ確信できる事がある。

奴ら、こっちに向かってやがる。



(ryトピック〜傷の治療について〜

 この世界ではケガなど日常茶飯事な事であるが、その治療法は回復効果を持った薬草の使用や回復魔法の使用、果てには強制的な再生など様々である。
 が、後者側であるほど体への負荷が大きく、特に強制的な再生の場合は軽減が期待できないため、治した後の危険性を考慮する必要がある。
 この辺りの事が、パーティの回復役の重要性に関わっている。

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