境目の物語

(ry

本当の救い手?

 俺が階段を下り、ギルドの受付広場に出ると、数人の冒険者と、先輩の受付嬢が何かを話している姿が目に入った。ただ、みんな難しい顔をしている。

 俺はその様子が気になったので、近づいてみる。すると、真っ先に先輩が俺に気がついた。


「あっ、ラグ君が起きてる!」

 彼女のその声に、他のみんなも振り返る。そして一斉に、俺を囲うように近づいてきた。
 何事かと思って一瞬身構えるが、彼らの緩んだ表情を見て、状況を察する。



「遅かったじゃねえかよ救世主2号!」

「3週間も寝たきりなもんだから、心配したんだぞ!」


 やはり、みんなが一斉に喋り出した。というか救世主2号ってなんだよ!?


「皆さん落ち着いて下さい! ラグ君が困ってるじゃないですか」

 そんな彼らをなだめるように、先輩が声をかける。まあそんなもので落ち着くようには見えないけど。
 というわけで、俺から口を開く事にした。


「興奮してるとこに悪いが、今の状況を教えてもらってもいいか? 寝る前の事が思い出せないんだ」

 それを聞いたみんなは、一斉に静かになる。やはり主導権を握っていると、こういう所を動かしやすい。

 おっと、先輩が俺の前に出てきた。という事は、先輩が説明してくれるってわけか。


「えっと……どこから話せばいいかな?」

「あっ、そういえばそれ思い出すの忘れてた!! ちょっと待っててくれ」


 どこを聞くかを押さえないって、どんなミスしてんだよ俺!!
とにかく、俺は記憶を掘り起こしてみる。


 真っ先に思い浮かんだのは、ワニとトカゲの噛みつき合いだった。


「それじゃあワニがグリッチを喰った辺りから頼む」


「拝承しました!
 ええと……あの後ラグ君が本気を出して、あの巨大なワニを倒したんだよね」

「えっ、俺があれを?
……と思ったが、そういえば彼が手を貸してくれたんだったっけな」


 俺の記憶から、あの出来事について掘り起こされる。あと、いつから寝てたのかについても。


「彼?」

「あ、いやなんでもない。忘れてくれ。
でそのあとは?」


「そう! そのあとですよ!
 もちろんラグ君がワニを倒したあとも魔物たちの勢いは止まらないので、みなさん危機的状況に陥るわけですけど……」

 先輩が興奮した様子で話を聞かせてくれる。どうしたのかと思いながら聞いていると、


「そんな時、なんとあの【我道さん】が助けに来てくださったんですよ!」

「ええっ!? 我道さんが!!?」

とんでもない名が飛び出した。
 この8年間ずっと見かける事の無かった我道さんが? しかも、このタイミングで!?


「しかもその我道さんが、残ってた魔物たちを一瞬のうちに一掃しちゃうんですよ。かっこよすぎです!」

「で、その我道さんは今どこに?」

俺は速攻でそれを聞いた。


「彼なら今、外で武器を研いでますよ」

「それ本当!?」


 俺は思わず疑いたくなった。だってあの日以来、一切顔を出さなかったんだ。見捨てられたのかとも思った程だ。

だが、彼女の返答は納得いくものだった。


「間違いありません。だって、ラグ君が握ってた短剣を研いでいるんですから」


それを言われてハッとなり、即座にポーチに手を当てた。確かにあの短剣が無い。
……!?短剣どころかギルドカードまでないぞ!


「これ要するに、来ないのなら貰っていくぞってやつじゃねえか! ちくしょう!」


 俺はすぐさま行動に移した。軽い衰弱のせいで一回よろめいてしまうが、そんなの構わずに外へと向かう。


「あ、ちょっと! もういいのー?」

 後ろで先輩の声が響く。が、俺は足を止めない。もちろん、初の掘り出し物を失いたくないからだ。


 俺は久々の風を切る感覚に心地良さを感じながら出入り口へと向かい、思い切り外へと飛び出した。



(ryトピック〜先輩の受付嬢について〜

自称【戦闘不向きの筆頭受付嬢!】
 艶のある黒髪ポニーテールに、黒いヘビ皮製手袋と赤いライン入りのエプロンドレスがトレードマークの受付嬢。
 掃除が大の得意分野で、客がいない時は大抵どこかを掃除している。

 彼女の能力【継戦術】は本来、長期戦に強くなる優秀なものであるが、戦闘以外にも使える為、そっちメインになっている。
 戦闘不向きの所以にもなっているらしいが、真偽は本人にしかわからない。

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