境目の物語

(ry

オオトカゲの決心

「状況は理解できたようだな。今、中で常森を中心に作戦会議を行っている。私が足止めをするから、君達はすぐにでも彼らの元へ!」

「っああ、分かった。
……ていうか、グリッチ1人で大丈夫なのか?」

「その事なら心配いらん。見ておけ」

 彼はそこまで言うと、大きく前に出た。そして、両手を胸に乗せて祈りの構えをとる。


「この姿を為す時、それは覚悟を決めた時。どうか彼らを守れますよう……」

そして、丹念に何かを唱え始める。


「今ここに回帰せよ、我が爬の姿!」

 その詠唱の最後に、力強い言葉が乗せられる。すると、彼の周りに不気味な黒い風が現れ、たちまち彼を包み込んだ。

 彼を取り巻く黒い風は次第に力を増していき、ある一点で、何事もなかったかのように消え失せる。
 その中心には、グリッチの代わりに一際大きなグールドモニターが立っていた。


••••••••ギルドを守れ!

 そいつ……いや、彼は魔物の言語で俺に告げる。その瞬間、俺の体からさらなる力が溢れてきた。
 俺のその変化を察したのか、彼はすぐさまあのワニに接近する。そしてその体に喰らいつき、その身を放り投げた。

 俺は彼が無事でいてくれる事を願うと、2人の方へと向きを変える。



「レンさんもトッキーもいい加減目を覚ませ!2人がいなきゃ、勝てる闘いも勝てなくなっちまうだろ!」

 俺は、2人に呼びかける。だがツネさんと違って、2人はなかなか気持ちを切り替えられないでいる。
 そんな時だ。あの2匹の爬虫類が、お互いに尻尾をぶつけ合い、凄まじい衝撃波を発生させる。その波は周囲の建物を破壊しながら、ここギルドにも迫る。


「っ!!」

そこでようやく火がついたのか、レンさんが前に出て、盾を構え、


「【アブソーブシールド】!!」

巨人の一撃を受け止めたあの技で、衝撃波を受け止めた!


「どうやら俺はここで、ギルドを守る必要があるらしい。ラグ坊、そっちの方は任せたぞ!」

「分かった。無理だけはすんなよ! それじゃあトッキーも行くぞ!」

 俺は外の守りをレンさんに任せると、まだ動こうとしないトッキーを引っ張って、建物に入った。




 当たり前の事だが会議の方は、既に最終段階に入っており、ツネさんが動きについての指示を出していた。


「レベルの低い冒険者は近隣の住民の避難を、レベルの高い冒険者は弓などの遠距離武器でギルドマスターの援護をお願いします」

 どうやら強い者と弱い者に分けて、グリッチを支援する寸法らしい。

 冒険者全員に作戦が伝わったのを確認し、ツネさんが開始の合図を出そうとする。がその時、上の階から慌てた様子の事務員が降りてきた。


「皆さん大変です!遠方より、【オーガ】や
【フェンリル】などの中級魔物が大多数で押し寄せています!数にして200強です!」

「何ですって!?」


 あたりが一気にざわつく。それだけ今の状況がマズイって事だ。

 さらに、ギルドに何かが激突する。その衝撃は室内全域に響き渡り、周囲の不安を倍増させる。


 だが、こんな時でも冷静さを保ったツネさんが、すぐに指示を出す。


「では皆さん、あのワニに挑む自身があるものは遠距離武器を取ってギルドマスターの援護を、そうでない人は魔物の一掃をお願いします」

 これまたわかりやすい。その指示を聞いた冒険者達は、すぐにそれぞれの武器を取り、闘いに臨む姿勢を見せる。
 ただし、ワニに臨もうとする冒険者は数人しかいなかったが……




「では皆さん、作戦開始ー!!」

「おおぉー!!!」

 開始の合図と共に、皆の気持ちが一つになる。このギルド……いや、この街をも守ろうとする強い意志だ。
 そして、一斉にギルドから飛び出して、それぞれの行くべき場へと向かっていった。






 俺は、最後の方に外に出た。既に開いている門からは2匹の爬虫類が互いの首を噛み合う姿が映る。

……ちょっと待て。トカゲとワニが互いの首を?


 俺がその疑問を抱いた時にはもう手遅れだった。ワニに首を噛まれた時点でもう決着はついていたのだ。
ゾッと寒気が襲う。

 奴は自慢の必殺技【デスロール】をお見舞いし、いとも容易くグリッチの首を引き千切ってしまった。


「………」

言葉が出ない。

 彼の頭部はそのまま飲み込まれ、残った胴体も一瞬だけ片腕を持ち上げたが、すぐに力無く崩れ落ちてしまう。

 その光景を見ている事しかできなかった俺に、一つの怒りが湧き上がる。それはすぐに頂点に達し、俺の理性を埋め尽くした。


「……許さない。
お前を絶対に許さないっ!!!」



(ryトピック〜【マーサナル•モニターズ】について2〜

 忘れた方も多いかと思われるので、一応補足。
 【グリッチ•モニター】により設立された、この世界区分でも名高いギルドである。

 名高いだけあって、人員の多いこのギルドだが、その総数は225名である。
 ただし、そのほとんどは小遣い稼ぎを目的としているため、実際に戦闘能力を持っているのは、せいぜい30人程度である。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く