境目の物語

(ry

盗み上手な奴ら

ガザッ、ゴソッ……


「……んー?なんだ?」

 何かを漁るような物音に俺は目を覚ます。辺りは暗くて何も見えないので、俺は照明道具の【光石】を起動する。
 その石は程よい光を放ち、テント内を照らす。良し、周りが見える!と思い、辺りを見渡そうとした時だった。


『キャッ!キャッ!!』

 ギルドでは見たことのない二足立ちの爬虫類と目があったのだ。


「うわっ、何だこいつ!?」

 俺は思わず飛び退く。ちょうど着地点でレンさんを踏んづけてしまう。


「痛てっ!なんだなんだ??」

「あ、すいません。
っと、それよりもあれ、あれ!」

『キュイー!!』

 俺は奴の方を指差すとほぼ同時に、奴が叫び声を上げた。


「ヤベッ!おい、2人も起きてくれ!」

 レンさんが焦る様子を見せながら2人を起こそうとする。
 が、すでに時遅しとなる。


『キャッ!キッキッ!!』

『キュルルル!!』

『カタカタカタッ!!』

 そいつと同じ個体が複数テントの中になだれ込み、それぞれがテント内の荷物を咥え、凄まじいスピードで逃げ去っていったのだ。



 その嵐にも似た現象が過ぎ去った後に、ツネさんとトッキーが口を開く。

「……すいません、私の注意不足でした」

「とにかく荷物を取り返さなくちゃ!みんな、何を盗られたか確認しよ!」

「了解!」

 トッキーの呼びかけに応じて、俺たち4人は荷物の安否確認をし始めた。



「捕獲用具と【蟷螂騎士の大剣】を盗られてしまいました。」

「ポーチと【紅触媒の杖槍】を盗られちゃった…」

「予備を含めた盾を全部盗られちまった」

みんな顔まっ青で答える。次は俺か…


「ギルドカードと【鉄の直剣】を盗まれたよ……」

「つまり盾しか残ってないのか」

「そんな表情になっちゃうのも分かるわ。再発行できるギルドカードならまだしも、戦う手段を失ったのだから」

俺は深いため息をついた。ああ……ギルドカードが…………

「とりあえず被害はこんなものですね。
 落ち込んでても仕方がありません。とりあえず外に出て痕跡を探りましょう」

こんな状況でもツネさんだけは冷静だ。
 とりま俺たちは、テントの外へ出ることにした。





「あっ!あれは!!」

 外に出るとすぐに、トッキーが大声を上げた。何かと思いそこ照らしてみると、何らかの液体が一本の道を形作っているのに気づく。


「この液体は何だ?トッキー」

「これ【マナポーション】よ。すっごい高くてレアなやつだったのに……」

彼女の気力が一瞬にして消えていく。この気の落ち様は尋常じゃない。


「まあ落ち着いてください、トッキー。また今度、売ってくれる商人探しを手伝ってあげますから」

「ぐすん。ありがとうツネちゃん……」

 ツネさんがトッキーを慰める。そんなところにレンさんが割り込む。


「そんな事よりも、これを辿って【スチールラプター】の巣に行くぞ!」

「少しは私のことも考えてよ!」

「まあこれが乾くのも時間の問題ですから……急ぎましょう。」

 なんて気分の入れ替わりが早いんだ、この人達は。
 そんな事を考えつつ、俺たちはその液体の後を辿るのであった。




(ryトピック〜【マナポーション】について〜

この世界において、唯一【精神力】を回復させる効能を持った謎の液体である。
ただし、【マジック型】のみにしか効果を発揮せず、また貴重なものでもある為に表の店に出回る事は滅多にない。闇市や商人が高額で取引しており、その額は時に万すらも超えてしまうらしい。

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