バミューダ・トリガー
四十二幕 追尾
日が長くなっていると言っても、まだ初夏とまでは言い難い時期だ。さすがに、五時を過ぎた頃には薄暗く感じるほどに日が傾いていた。
「ちっ、あいつらが言っていたようなヤツは一向に現れねぇな」
加賀 秋仁は、ヘッドホンをかけた首を傾け電柱の影から顔を出したまま舌打ちをする。待ち伏せているだけの地味な作戦に、秋仁は早くも音を上げそうだ。
「でも、二人があれ程言うんだから、きっと相当な変質者のはずだよね。ボクとしては、放っておきたくないよ・・・んっ?」
その背後で、石壁を背に立つ稲童丸 影近が、ささやかながら意思表示をした、そのときだ。
三人の背筋を、じっとりとした気持ちの悪い汗が伝った。
僅かに足が下がる。何か常ならざるものに対して、体が意思とは別に拒絶を示した。
三人は、自分以外の二人も何かに勘づいているということを、互いに目配せで察した上で頷く。
「今の・・・」
「来たか」
「どっちだ?」
商店街前の、南北にはしる大通りと東西にはしる通りが交わる地点。
そこを見渡せる位置に陣取った三人は、すぐ近くに目標となる人物らしき気配を感じ取っていた。
そして―
「「「っ!!」」」
―――――――――――――――――――――――――
「・・・アレで、間違いないみたいだね」
「怖気、ってのはよく言ったもんだな」
「チッ、寒気がはしるのも納得だ」
三人が目撃したのは、切れ目が特徴的な顔で春物のガールズコーデを着こなし、あくまでおしとやかに振る舞いつつ大通りを闊歩する、男の姿であった。
それは一見すると、ぎこちなくはあるが女性に見えなくもない風貌だ。現に、三人以外の町民のなかには違和感を感じている様子の人は居るものの、確信をもって彼を男として見ている人はいないようだ。
しかし、女性にしては些かがっしりとしすぎている肩と、見覚えのある顔が、怪校生である三人にとっては決定的な判断材料となった。
「なあ、アレは・・・」
「間違いない・・・龍王 蓮鎖先輩だね」
「恐らく今、俺たちの考えは重なっていると思うが・・・」
「一体なにしてんだ?」
「先輩は何をしてるんだろうね?」
「ヤツは何がしたいんだ?」
三人の結束力が、深まった瞬間だった。
―――――――――――――――――――――――――
羞恥と不満を背中から垂れ流しながら商店街の中へと歩いて行く龍王の後を、影近、頼矢、秋仁の三人は追うのだった。
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