バミューダ・トリガー
二十四幕 来訪と記憶
「翔斗、発射物のタイプは銃弾だ」
「・・・!ああ、わかったぜ!」
どことなく俺の意図を理解したらしい翔斗が、ニィッと笑う。その楽しげで自身に満ちた眼差しは、俺から、翔斗が被弾するという心配を消し去った。
「じゃあ行くぞ、始めっ!」
掛け声と共に、射出のボタンを押し込む。
音を置き去りにするゴム弾が、的確に翔斗に向けて打ち出された。
擬似的に作られたアスファルトの床を蹴り、翔斗が駆ける。
ゴム弾とはいえ速度は音速を超えている。
当たればただではすまない威力の弾を、しかし、畏れずに翔斗は見据える。
突進し、踏みとどまり、躱す。
徐々に慣れてきたらしい翔斗は、胴と首の捻りのみで躱し始めた。
(・・・すげぇな、翔斗)
俺は、感心を露にしつつその姿に見入っていた。
―――――――――――――――――――――――――
新設怪校の正面に、影が生じる。
散り散りとなる黒い影が去ったあとには、二人の青年がたたずんでいた。
「・・・この場所で間違いないのか?」
「えっと・・・合ってるはずだよ、多分」
「はあ、いいか、時々。穏当に、だぞ」
「ふふっ、貞命兄さんのほうこそ、いきなり銃突きつけたりしないでね」
「わかっている・・・行くぞ」
「うん・・・」
扉を開いて早々、どう見てもただの留守中の古民家であるその建物に、五影兄弟が揃って硬直したのは言うまでもない。
―――――――――――――――――――――――――
訓練を終えた翔斗と俺は、上りのエレベーターに乗っていた。
結局、時間にして十五分、残弾が尽きるまで全ての弾を躱し尽くした翔斗は、さっぱりとした表情で笑う。
「ふぅー、良い訓練だったぜ!」
「それは何よりだよ。ってか、お前の《風読》って本当すげぇよな、あんなの普通は交わせねえよ」
「へへっそうか?まっ、俺にかかればこんなもんだ!それより、諒太と京子ちゃんは?」
翔斗は、いつの間にか訓練場を後にしていた植原兄妹のことを話題にあげた。
「ああ、あいつらなら、第三百五十八回のグリコ下校大会の時間になったとかなんとか言って、しばらく前に帰っちまったよ」
「なっ、俺が訓練している途中でっ・・・まあ、あの二人なら納得か!」
謎の理解を介して納得へとたどり着いたらしい翔斗が爽やかに笑かけてくるのと、エレベーターが到着の合図を鳴らすのがほぼ同時だった。
同時刻、より少し前。
怪校内に入ったは良いものの、何も特別な施設らしきものや、授業の形跡を見つけられ無かった五影兄弟。
怪校の存在する可能性を感じられなかった彼らは、諦めて帰路につく・・・事はなく。
そのまま、部屋の物色を始めた。
「貞命にいさん、もう帰ろう。僕の情報が誤りだったのかもしれない。それに、この家が一般市民のものなら、僕たちも捕まりかねないよ」
「あ?ダメに決まってるだろうが!時々が情報収集でヘマやったことなんかねぇだろ?それに、いざとなれば《影繭》で逃げられるさ。それより、きっと何かあるはずだ・・・何か・・・」
そう言うと、貞命は再び部屋を調べ始めた。
「そう、かな。ありがとう・・・わかった、もう少し調べてみよう!」
時々は、自分の協力の価値を認められ、照れ笑いしながら台所と思しき部屋に入った。
――――――――――――――――――――――――
数分後
「何もないな・・・・・・はっ!まさか!」
「!どうしたの貞命兄さん、もしかしてなにか見つけたの?それとも、やっぱり僕が間違ってた、とか?」
「いや、ただの推測だが、前の怪校は・・・地下にあったよな?」
「!!」
「今回もそうだとすれば、どこかに地下への入り口があるはずだ」
「なるほど、そうだね!」
鐵 里音のもとで活動して長い五影兄弟にとっては、盲点であった。
一般的な組織ならば、二度続けて似たような造りの基地など滅多に造らない。
「どこかに地下への階段とかがあるのかな」
そう言って時々が、手をかけていた大きめのクローゼットの扉を開き―
―隠されていた、エレベーターを発見した。
「貞命にいさん、これはっ!」
「ん?うおっ!これは・・・間違いないな。怪校の本体は地下に建設されている!」
二人は向かい合って頷き、貞命が、下へ向かうことを示しているボタンに手を伸ばす。
表示を見る限り、そう深いところまで階があるわけでは無さそうである。
重々しく稼働音を響かせて、エレベーターがあがってくる。
ゆっくりと開く扉。五影兄弟は、いざエレベーターに乗り込まんとして―
「「「「・・・えっ?」」」」
―怪校生である神河 輪人、そして黒絹 翔斗と鉢合わせた。
「おまっ・・・警察署ん時のぉっ!!」
血気に満ちた翔斗は、過去に敗北した相手と見るや否や、すぐさま飛びかからんと構える。
「ま、待ってください!」
「待ってくれ。すまないが、怒りを鎮めてはくれないか。俺たちは、ただ話をしに来ただけだ。謝罪も、な」
思わぬ事を口に出す五影兄弟に、俺と翔斗は唖然として、また、拍子抜けして固まってしまった。
「「しゃ、謝罪いぃ?!」」
これは俺と翔斗が、これまでになくシンクロした瞬間であった。
―――――――――――――――――――――――――
じゃ、輪人!願い事何にする?
俺は今、十分幸せだし、特に願うこともないかな
じゃあ、願い事は決まったね
え?・・・あっ、そうだな
《こんな時間が
これからも続いていきますように》
じゃあ私もお願いごとするね
そんな時間を生きる、輪人を―
ゴァッ!ドオオオオオォォン・・・
―――――――――――――――――――――――――
神河輪人は知らない。
まだ、己が思い出せていない記憶が―
姉の恭香の願いがあったことを。
「・・・!ああ、わかったぜ!」
どことなく俺の意図を理解したらしい翔斗が、ニィッと笑う。その楽しげで自身に満ちた眼差しは、俺から、翔斗が被弾するという心配を消し去った。
「じゃあ行くぞ、始めっ!」
掛け声と共に、射出のボタンを押し込む。
音を置き去りにするゴム弾が、的確に翔斗に向けて打ち出された。
擬似的に作られたアスファルトの床を蹴り、翔斗が駆ける。
ゴム弾とはいえ速度は音速を超えている。
当たればただではすまない威力の弾を、しかし、畏れずに翔斗は見据える。
突進し、踏みとどまり、躱す。
徐々に慣れてきたらしい翔斗は、胴と首の捻りのみで躱し始めた。
(・・・すげぇな、翔斗)
俺は、感心を露にしつつその姿に見入っていた。
―――――――――――――――――――――――――
新設怪校の正面に、影が生じる。
散り散りとなる黒い影が去ったあとには、二人の青年がたたずんでいた。
「・・・この場所で間違いないのか?」
「えっと・・・合ってるはずだよ、多分」
「はあ、いいか、時々。穏当に、だぞ」
「ふふっ、貞命兄さんのほうこそ、いきなり銃突きつけたりしないでね」
「わかっている・・・行くぞ」
「うん・・・」
扉を開いて早々、どう見てもただの留守中の古民家であるその建物に、五影兄弟が揃って硬直したのは言うまでもない。
―――――――――――――――――――――――――
訓練を終えた翔斗と俺は、上りのエレベーターに乗っていた。
結局、時間にして十五分、残弾が尽きるまで全ての弾を躱し尽くした翔斗は、さっぱりとした表情で笑う。
「ふぅー、良い訓練だったぜ!」
「それは何よりだよ。ってか、お前の《風読》って本当すげぇよな、あんなの普通は交わせねえよ」
「へへっそうか?まっ、俺にかかればこんなもんだ!それより、諒太と京子ちゃんは?」
翔斗は、いつの間にか訓練場を後にしていた植原兄妹のことを話題にあげた。
「ああ、あいつらなら、第三百五十八回のグリコ下校大会の時間になったとかなんとか言って、しばらく前に帰っちまったよ」
「なっ、俺が訓練している途中でっ・・・まあ、あの二人なら納得か!」
謎の理解を介して納得へとたどり着いたらしい翔斗が爽やかに笑かけてくるのと、エレベーターが到着の合図を鳴らすのがほぼ同時だった。
同時刻、より少し前。
怪校内に入ったは良いものの、何も特別な施設らしきものや、授業の形跡を見つけられ無かった五影兄弟。
怪校の存在する可能性を感じられなかった彼らは、諦めて帰路につく・・・事はなく。
そのまま、部屋の物色を始めた。
「貞命にいさん、もう帰ろう。僕の情報が誤りだったのかもしれない。それに、この家が一般市民のものなら、僕たちも捕まりかねないよ」
「あ?ダメに決まってるだろうが!時々が情報収集でヘマやったことなんかねぇだろ?それに、いざとなれば《影繭》で逃げられるさ。それより、きっと何かあるはずだ・・・何か・・・」
そう言うと、貞命は再び部屋を調べ始めた。
「そう、かな。ありがとう・・・わかった、もう少し調べてみよう!」
時々は、自分の協力の価値を認められ、照れ笑いしながら台所と思しき部屋に入った。
――――――――――――――――――――――――
数分後
「何もないな・・・・・・はっ!まさか!」
「!どうしたの貞命兄さん、もしかしてなにか見つけたの?それとも、やっぱり僕が間違ってた、とか?」
「いや、ただの推測だが、前の怪校は・・・地下にあったよな?」
「!!」
「今回もそうだとすれば、どこかに地下への入り口があるはずだ」
「なるほど、そうだね!」
鐵 里音のもとで活動して長い五影兄弟にとっては、盲点であった。
一般的な組織ならば、二度続けて似たような造りの基地など滅多に造らない。
「どこかに地下への階段とかがあるのかな」
そう言って時々が、手をかけていた大きめのクローゼットの扉を開き―
―隠されていた、エレベーターを発見した。
「貞命にいさん、これはっ!」
「ん?うおっ!これは・・・間違いないな。怪校の本体は地下に建設されている!」
二人は向かい合って頷き、貞命が、下へ向かうことを示しているボタンに手を伸ばす。
表示を見る限り、そう深いところまで階があるわけでは無さそうである。
重々しく稼働音を響かせて、エレベーターがあがってくる。
ゆっくりと開く扉。五影兄弟は、いざエレベーターに乗り込まんとして―
「「「「・・・えっ?」」」」
―怪校生である神河 輪人、そして黒絹 翔斗と鉢合わせた。
「おまっ・・・警察署ん時のぉっ!!」
血気に満ちた翔斗は、過去に敗北した相手と見るや否や、すぐさま飛びかからんと構える。
「ま、待ってください!」
「待ってくれ。すまないが、怒りを鎮めてはくれないか。俺たちは、ただ話をしに来ただけだ。謝罪も、な」
思わぬ事を口に出す五影兄弟に、俺と翔斗は唖然として、また、拍子抜けして固まってしまった。
「「しゃ、謝罪いぃ?!」」
これは俺と翔斗が、これまでになくシンクロした瞬間であった。
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じゃ、輪人!願い事何にする?
俺は今、十分幸せだし、特に願うこともないかな
じゃあ、願い事は決まったね
え?・・・あっ、そうだな
《こんな時間が
これからも続いていきますように》
じゃあ私もお願いごとするね
そんな時間を生きる、輪人を―
ゴァッ!ドオオオオオォォン・・・
―――――――――――――――――――――――――
神河輪人は知らない。
まだ、己が思い出せていない記憶が―
姉の恭香の願いがあったことを。
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