バミューダ・トリガー

梅雨姫

十二幕 アビリティ・ラッシュ


さて、これから生徒の能力を覚醒させるための試みを始めようという訳なのだが―

「諒太はどうして妹を連れてきてるんだ?」
高校生二年部の集まりのはずなのだが、シスコン王子・植原 諒太は、なぜか中学生三年部の妹を連れてきていた。

「だって京子は僕の全てなんだよ!?」

「あ、もう分かった。大丈夫だ」

諒太に妹の話をさせると半日を浪費してしまう。深入りは禁物なのだ。

(あぶない、あぶない・・・)

ここで再び諒太が口を開いた。

「でも、それだけじゃないよ」

「・・・と言うと?」

「俺の《トリガー》は、京子とお揃いのペアリングだって、前に言ったよね」

「このリングは、私とお兄ちゃんの親愛の証なの」

兄妹揃って、仲睦まじさが溢れている。
だがまあ、言われてみればそうであった。諒太は《バミューダ》の被害を受けたとき、妹とともに巻き込まれた。そして、二人揃って助かったのだ。ペアリングは、そのときの《トリガー》として認められていた。

「まあ、全学年が能力覚醒に取り組んでるわけだし、一緒でも何でもいいか」

「最後の一言に諦めがにじみ出ているぞ、輪人」

珍しく、翔斗に突っ込まれる立場になってしまったのであった。


「それじゃあこれから、能力の覚醒を目指してチャレンジを始めようと思う。覚醒に必要なのは、恐らく《バミューダ》直前の記憶だ。そのとき自分が何を願っていたかを、思い出すんだ」

思い出せと言われても難しいことかもしれないが、それが一番の近道のはずだ。
それに、ふと昔の事を思い出すことは、誰しも経験がある事だろう。
ならば、この方法で覚醒できる可能性は十分にあるはず―

バスッ

「わっ、驚いたな」

声を上げたのは、稲童丸 影近だ。
俺自身初めて見た、ボクっ子の女子なのだが、彼女は《トリガー》を持ち合わせていないはずだ。

しばらく前に、大半の生徒の《トリガー》が戻ってくるという不思議な出来事があり、その際、高校生二年部の生徒のほとんどにも《トリガー》が戻ってきていた。
しかし、あくまでほとんどであり一部の生徒には《トリガー》が戻ってきていなかった。
影近も、《トリガー》が戻ってきていない生徒の一人であったはずだ。
しかし―

「神河くん、どうやらボクの《トリガー》が戻ってきたみたいだ」

そう言って嬉しそうに微笑む影近の手には、柄以外が白く統一された竹刀が握られていた。

「それが稲童丸の、《トリガー》・・・」

「そうなるね」

「やったね影近ちゃん!これで能力の覚醒に近づけたんじゃない?」

鈴の称賛の声が響く。
確かに、これで影近も覚醒に一歩近づけたはずである。

そう思いながら、順調な滑り出しに手応えを感じていると、影近が再び言葉を続けた。

「それがね、ボク、多分なんだけど―」

一度言葉を切り、再び―

「使えるよ、能力」

「え?今なんて?」

「影近ちゃん?」

言って影近はゆっくりと―

目を閉じ

重心を落とす

竹刀を右手に構え

左手を添える

《ボクは切る。例えこの剣が届かなくても》

「ボクの前に来ないでね」

その言葉には、背筋が凍るような冷たい覇気と―

―相手の事を思いやる、温かさが込められていた。

白心・尖剣はくしん・せんけん

下段に構えられた竹刀を、右上方に振るう。

瞬間、影近の竹刀の軌道に沿って、純白の
斬撃が放たれた。

ズザンッ!!

鈍い轟音が響いた直後、練習場の壁が斜めに割れた。

「残、心ッ!!!」

影近が勇ましく言い放つ。

「うおぉ?!ビビった!」

「影近ちゃんすごい声っ!」

「今のなんだよ、稲童丸ぅ!」

興奮した声が飛び交う。
なんと、チャレンジ開始早々に影近が能力の覚醒を成し遂げたのだ。

(斬撃を飛ばすのが影近の能力か?!)

「ねぇ影近さん!どうやって願ってたこと思い出したの?」

諒太が問いを投げかける。

「思い出した、っていうか、最後に何を願っていたかなんて、きっと考えて思い出すものじゃないよ。ボクは以前も今も、変わらずボクだからね」

答えを聞いた諒太が、妹の京子に話しかける。

「今願ってることが、《バミューダ》直前に願っていたことと同じかもしれないってことかな?」

「でも、じゃあ私とお兄ちゃんの願いって決まってない?」

「そうだよね、そうだよね!じゃあいくよっ?せーのっ」

《四六時中、兄妹一緒にいたい!》

(((えええぇーー・・・)))

一瞬だが確かに、諒太を除くクラスのみんなの意思が、今までで一番揃った気がした。

正直、若干以上に引いていた。

しかしそんな感情は、目の前の光景によってすぐさま消えてしまった。

「諒太、お前それ・・・!」

「ん?わぁっ」

「どうしたのお兄ちゃ、わぁっ」

見ると、植原兄妹が身につけているリングとリングの間が、赤い糸のようなもので結ばれていた。
それだけではない。二人の間の赤い糸が練習場の床に触れた途端に、ジュウッという何かを焼き切るような音をたてて、赤い糸が僅かに床に食い込んだ。

(何だそりゃっ?!変幻自在なレーザーか?!)

「みてみてお兄ちゃん!これって!」

「うん!運命の赤い糸だねっ!」

「しかもしかも!」

「愛の熱でオーバーヒート!」

「アッハハハハ」
「ウッフフフフ」

嬉しそうに微笑み合う二人。

「輪人、あの二人は、どうなってんだ?」

「二人は無事能力を覚醒させてから・・・お花畑に旅立っていったよ」

「そうか、なるほどな」

これからしばらくアハハウフフをしているであろう二人に話しかける生徒は、誰一人いなかった。
しかし影近に続いて二人も覚醒に成功したのだ。これはとてもいいペースだと思う。

(この調子でバンバン覚醒出来れば!)

あまりにスムーズであるため抱いたほのかな希望は、このあと現実となるのであった。






同時刻の地上。
警察署に程近い路地。そこに突然二つの影が現れた。

「貞命兄さん、この感じは・・・」

「奴ら、余計なことを始めやがったな」

「早く里音様に報告しなくては」

「ああ。現段階ならば、里音様なら柔軟に対応されるはずだ。急ごう」

二つの影は2対の羽となり、闇に溶けていった。




着実に進む能力検定の最中


敵もまた、黙って待ってはいなかった


新たな事件の発生までの


カウントダウンが始まる

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