マスカレイド@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

9.縦横無尽

 二刀流を駆使してゼゲをテンポ良く処理していくサフィーの機体の横を、青い光の球と黄色い光の筋が通過した。それらはゼゲに命中、ゼゲは沈黙した。そして、間髪入れずに黒い影が横切り、更に二体のゼゲとのすれ違いざまに、そのすれ違ったゼゲを斬り裂いた。縦横無尽じゅうおうむじんだ。「ひゅーっ! 一瞬で四機か、あっちの方が欲しいなあ……」「そりゃ誰だってそうでしょ! あんなの最新機の中でも高級なんだから、それこそ副師団長じゃないと回してもらえないわよ!」「俺だって、対深紺の巨兵ブルーギガンテス用の特別措置じゃなきゃ回してもらえなかっただろうがな」 マクスンは、そう言う間にも、さらに二体のゼゲをフレムベルグで斬り付けている。
「しかし、すげえなあ」 ブリーツが縦横無尽じゅうおうむじんの鮮やかな手際に感嘆の声を上げた。「副師団長と縦横無尽じゅうおうむじんだもの。ゲゼ相手なら、物ともしないわ」 サフィーは会話しつつも、また一機、ゼゲを両手の剣で斬り裂いた。「サフィーもやるなあ。一方、俺はまだ二機しか撃墜してないのであった」「何でちょっと自慢げに言ってんのよ!」「いやあ、こいつ、ナイトウォーカーよりも強いかと思ったけど、そうでもないなあって。剣と魔法両方使えるのによー」
「ふむ、若いの、ゼゲの語源は知っているかな?」 不意に、ザンガ師団長との通信が開いた。「ゼゼゼっといっぱい湧いてきて、ゲゲぇって狼狽えるからですね!」「フランス語でgeneral guerrierですね、師団長」 自信満々にボケるブリーツに突っ込むことを必死で堪えながら、サフィーが立て続けに答えた。「そう、直訳すれば、汎用戦士と言ったところかのう。基本性能はナイトウィザードの方が勝るが、ゼゲ、そして、こちらのナイトウォーカーにも、特化された汎用性があるのじゃな」「なるほど……つまり、どういうことですかね?」「……あんた、話聞いてたの!?」「いや、単なる相槌だよ。聞いてはいたが、結論はまだだろう?」「あんたね……」「ほっほっほ、一理あるな。過程から結論まで、じっくりと聞くことは大事じゃからのう。で、その結論を言うと、ゼゲやナイトウォーカーは、地形やらパイロットに合った性能にできるし、数も揃えられるのじゃよ。が、究極の中途半端とも言える。一対一ならお主のナイトウィザードでも引けはとるまい?」「一対一か……確かにそうっすね。でも……」「ほっほっほ、まあ、これだけの数では一対一に持ち込むのも無理な話かのう。では儂からお主にプレゼントしてやろう」「へ?」 ブリーツは呆気に取られつつも、ゼゲの攻撃を避け、ゼゲを斬り付けた。剣の刃が、今までよりもスムーズに、ゼゲに食い込む。「おおっ! これはいい!」「エアロボディとナタクフェイバーじゃ。見たところ、剣の方が得意そうじゃったからの、足回りと攻撃力を強化しておいた。この泰然自若たいぜんじじゃくの魔力なら、この戦いの間は持つじゃろう」「おおっ! そういえば動きも軽い! ありがとうございます!」「うむうむ、頑張れよ若いの」 ザンガはそう言うと、泰然自若たいぜんじじゃくを更に自軍の中心へと進めて去っていった。
「いやあ、いい人だな、師団長」「そうかしら、ああやって話したり強化魔法かけたりするだけじゃなくて、弓で攻撃すればいいのに」 サフィーがイライラした様子でブリーツの言葉に返す。「いやあ、強化魔法も大事だぜ、ありがてえ、ありがてえ」「はあ……まあいいわ。足回りも強化されたんだから、私に付いてきなさい、ランドワームを逃がすための突破口を開くわよ!」「おう! 俺様の華麗な剣技を見てな!」「はいはい……」
 二人は、それぞれのリーゼをランドワームの固まっている地点へと向かわせた。 そこでは荷台を引いているランドワーム達の前にゼゲが立ちはだかり、味方のリーゼがそのゼゲからランドワーム達を守っているところだった。「思ったよりやられてる……」 サフィーが低い声で言った。周りにはランドワームによって輸送されていた物資が散乱していて、ランドワームの数も何匹か減っていた。
「これ以上はやらせない!」 サフィーはナイトウォーカーを加速させて一気にゾバに詰め寄ると、両手の剣で、同時に二体のゼゲを斬り裂いた。「おー、さすが。俺も負けてられないな……紅蓮の大火炎よ、全てを覆い、燃やし尽くせ……エクスプロージョン!」 ブリーツはゼゲの密集している地点を狙い、エクスプロージョンを放った。それが大体狙い通りの所に着弾すると、大きな爆発を起こした。 次の瞬間、エクスプロージョンによって発生した爆煙の中から大量のゼゲが現れ、ナイトウィザードに向かって来た。
「うおお! さすが中途半端機体。効果がすっごく薄いぜ!」 ブリーツはやっぱり威力が低いエクスプロージョンを見て叫ぶと、爆炎から現れた大量のゼゲとは逆方向に、全速力でナイトウィザードを走らせた。「わはは! 俺って人気者!」「笑いごとじゃない! あんた学習ってもんをしないの!?」 サフィーがブリーツに罵声を浴びせながら、ブリーツを追跡するゼゲを片っ端から切り倒していく。「もう! あんな貧弱な機体でヘイトもらうなんて信じらんない!」「わはは! わりいな! でもサフィーが処理してくれたおかげで、この数なら何とかなりそうだ。ファイアーボール!」 ブリーツは、ゼゲのメインカメラ目掛けてファイアーボールを放ち、それと同時にナイトウィザードを加速させ、ゼゲとの距離を一気に詰めた。「そら!」 ファイアーボールによって軽い目隠しをされたゼゲは、無防備な状態でブリーツの一太刀を浴びることとなった。「どうだ、テクニカルだろう!」「それだけ手間をかけないと、ゼゲの一体も倒せないってことだけどね」 師団長のバフに加えて、自身もナイトウィザードの使い方を分かってきて、ようやく本領発揮が出来ると意気込んでいるブリーツのテンションが、サフィーの的確な一言でだだ下がりになる。「……手厳しいな、サフィー」「ま、標準のナイトウォーカーよりマシなんじゃない?」「だろう! だろう! ファイアーボール! ファイアーボールー!」 ブリーツはファイアーボールを連発し、周りのゼゲに片っ端から命中させていく。そして、ゼゲの注意はブリーツのナイトウィザードへと集中することとなった。「だあっ! この数は無理だあ!」 再び多数のゼゲに追いかけられることになったブリーツは、一回目と同じようにナイトウィザードのブースターを最大出力にして、全力で逃げ始めた。 サフィーが「何やってんのよ! もう!」と毒づきつつも、ブリーツを追うゼゲを片っ端から二刀流で切り裂いていく。
 二人は終始、そんな調子で、どたばたとゼゲを倒していった。 そして、時間を忘れてランドワームを必死で守ろうと奮闘している二人の耳に、不意にマクスンの声が響いた。「輸送隊は全員退避した! 我々も退くぞ!」

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