巫女と連続殺人と幽霊と魔法@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入

9話「刑事たち」

「ありがとうございましたです」 梓が言うと、警察の一人は死体にビニールシートを掛け直した。「概ね写真から読み取った情報通りですね」
 梓は、今回は素早く現場に来て、死体の様子を確かめることができた。死体は何かしらの鋭利な刃物で首を切断されていたようでだった。あの被害者も、首をはねられ、地に伏してから意識が無くなるまでの数秒で、走り書きのようになんらかのメッセージを書いたのだろう。 梓は被害者の傷を見て、考察をはじめた。 あの時、杏香がこの事件を梓の元へ持ってきてから、更に二件、あの死神の件と類似の殺人が起こった。梓の居る、この場所で起こった雑貨店の梅田さんの殺人事件。もう一つは、別の場所でガソリンスタンド勤務の二宮さんが殺された。
「うーん……」 梓が今回、素早く現場に来ることができたのは、警察から直接、梓の元へ連絡が来たからだ。杉村のような人も居るが、霊能を積極的に利用しようという人も、杏香の周りの警察をはじめ、少なくはない。梓が今回の事件に関わるきっかけとなったのも、そういう人たちだし、今回の事件に関わるようになって、そういう人のグループに、頻繁に連絡を取るようにもなった。
「また、新たに二人……」 この連続殺人の特徴、短い期間に二回の、連続した殺人。 一時期は連続通り魔かと思われたが、同一人物が移動できない距離で同時に起きていることもあるので、複数人による犯行という説が、警察では根強いらしい。もっとも、警察は半分、諦めているらしいが……。
「情報としては、これまで以上のものは得られなそうですが……再認識はできました。被害者は間違いなく、物理的に首を切られている」 辺りに漂う血の匂い、まだ乾ききっていない血溜まりが、事件はついさっき起きたばかりだと訴えかけるように梓の五感を触る。
「まこと奇怪にござるな。この状況を見るに、皆、一様に首を鋭くはねられておる。今のところ、例外は存在せぬようだ」「はい……断面が綺麗過ぎるのは気になるところですね。人間業とは思えません」「物の怪の類かのう」「まだ特定はできませんが、候補は絞られてきたですね。並外れて鋭く切れる、何らかの手段を持っているか……または、それほど鋭くはなくとも、毎回人に気付かれずに近づき、首をはねられるほどの隠密性を持つ手段か……」「霊気のほうは残っておるのか?」「無いですね」
 梓が霊気を見ようとすると、その霊が行動した跡が青い蛍光色のような色で見えるのだが……霊の痕跡は見当たらない。霊によるものである確率は少ないのかもしれない。そうなると、梓の分野とも、少々ずれてくるが……霊以外だとしても、警察が対応しきれないケースは山ほどある。妖怪……呪い……超常現象……非現実的な手段を用いている可能性は、心霊関係ではないにしろ、非常に高い。梓はそう思うと、急に気が重くなった。 非現実的な手段による犯罪ならば、警察はほぼ役に立たない。梓にとってはいつも通りの流れだが、梓にとっても、心霊以外は得意ではない。しかし、依頼を受けた自分を中心として、少人数で、しかも、ほぼ民間で対処しなければならない。
「……しょうがないですけどね、いつものことだし」 ぼそりと呟く。
「やあ、四季織さん。話は杏香から聞いてるよ」「あ、三矢部みやべさん。お邪魔してます」 話しかけてきたのは三矢部みやべ屡見矢《るみや。彼は若く、オカルト肯定派の中でも温厚な刑事だ。梓との関わりも、前々から頻繁にある。「三矢部さん、捜査のほうは、どうです?」「僕達警察も、些細な事でも何かあればと思って調べてるんだけど……進展は無いね」「そうですか……」「四季織さんの方はどうだい?」「非現実犯罪の可能性が高いと思います」「だよね……経験からで申しわけないけど、僕もそんな気がする。現実的に不可能じゃないんだけど……」
 三矢部は、困っている顔をしている時でも、少し口角が上がっているので、にやついているように見える。しかし、そんな三矢部の顔は、本人の性格との相性は良いようで、多くの人には爽やかに見えるらしい。
「今回のは微妙なラインですから、無理もないです。私も可能性としては、まだどちらの線もあると思いますから」「だから、杉村みたいのがでしゃばる余地が残ってるのよね。面倒だわ」「あ、杏香さん」「やあ、君も来たのかい」
 相変わらずオレンジ色に見える髪をなびかせながら、杏香は頭をポリポリとかいている。「二人共、精が出るじゃない。梓、杉村に絡まれたんだって?」「あ……まあ、ちょっと言い争いになってしまったんですけど……」 梓も頭をポリポリと書く。
「気にしなでいいわよ。彼、ああいう性格だからさ。こっちでもたしなめてるんだけどねぇ……どうにも頑固で」「いえいえ、大丈夫ですよ、気にしてませんから」「そう? ならいいんだけど……」「真面目過ぎるんだよね、彼は」 三矢部は困ったように眉をひそめた。
「その真面目さが、今回はちょっと困ったことになってるから、どうにかできないかと思ってるんだけどねぇ……オカルトを信じられない人なんて沢山居るけど、彼みたいに暴れまわられると、色々と捗らないわ」「ごめんね、杏香」「屡見矢が謝ることないでしょ。ま、仕方ないわよ。警察の役割は、本来は証拠を探して犯人を特定する事だし。村山みたいに頭が固過ぎると、今回みたいな性質の事件だと色々と苦労も増えるだろうけどね」「うん……大変そうは大変そうなんだ、彼。最近は更にイライラしてるようだし」「悪循環ね。現実的な証拠は見つからないわけで、そうなると頼るのが、私か梓みたいな外部の人間、しかもオカルト要素満載のね。そういう人間や手法を認められないから、また証拠を探し出すけど……」「見つかるわけないさ。これだけ探したんだから、手持ちの情報だけでなんとかするしかない」「ええ……イライラはつのるばかりってことね」「無いようで存在する非現実的要素を信じずに、存在するようで無い証拠を探し求める……ですか……」「皮肉に感じるけど、普通の人にとっては、それが当たり前なのよね。あたしや梓みたいに、現物を何度も見てるわけじゃないから。……で、梓、心霊方面からは、どんな感じ?」「心霊の線は、ほぼ無いと思います。可能性としては現実犯罪と変わらないくらいでしょうか。霊気が残っていなかったです」「そうなんだ……となると、警察側も、こっち側も、どっちも不得手ってことね。今回は面倒ねぇ」「とはいえ、可能性は絞られてきたよ杏香。これで心霊以外の非現実犯罪の線が濃厚になった」「まあ……進展があっただけマシか……さて、ちょっと中、覗かせてもらうわよ」「どうぞ、二人共、こういう時は、ほんと、心強いよ」 三矢部がブルーシートをかけられた死体の方を手の平で指し示すと、杏香はコクコクと頷きながら、てきぱきとその方向へと向かっていった。
「彼女、パワフルだよね」「ですね。杏香さんが居なければ、私もこんなに警察と関わらなかったかもしれません」「僕もそう思う。奇妙な縁で繋がれてる気がするよ。僕と杏香、それに、君ともね」 三矢部の口角が更に上がる。が、それほど嫌味な笑いには見えないのが、この三矢部の人気なのだろう。梓はそう思いながら、微笑み返した。

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