異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
エピローグ
私は、お母様から渡されたカカオの種が入って入る袋を手に取る。
袋の中を見ると乾燥気味の細長い茶色い種が10個くらい入っているのが確認できた。
「シャルロットちゃん、どうかしたの?」
袋の中を覗き込んで固まっていた私のことが気になったのかコルネットさんが近寄ってくると袋の中を覗き込む。
「これを植えたらチョコレートが出来るの?」
「いえ。チョコレートというか、その前段階のカカオ豆が取れるのです」
「へー」
感心しているコルネットさんに、カカオの種が入って入る袋を渡すと、私はエルトール伯爵邸から背負ってきたお手製のランドセルからニャン吉が置いていった分厚い本を取り出す。
「えーっと、亜熱帯気候じゃないと植えても育たないみたいです」
「姉ったい?」
「亜熱帯です。湿度が高くて暖かい気候じゃないと種を植えても、まともに育たないと書いてあります」
「それだと、エルトール伯爵領だと栽培は厳しいかも知れないわね」
「そうですね……」
カカオの種が手に入ったというのに、このガッカリ感。
たぶん、お母様も何か期待していたと思うけど、気候まではさすがに魔法で長期間維持したらどんな弊害が起きるか分からないから、手出しは出来ない。
「お風呂でも入ればいい案が出てくるかも知れないわよ?」
「お風呂……」
そうです。
こういう時はお風呂にまったりと浸かって考えるといい案が出るかもしれません。
コルネットさんと二人で露天風呂に浸かりぼーっと空を見あげる。
すでに夜の帳は落ちていて、日本と違って電気の明るさが無い分、星空が良く見える。
「星がきれいね」
「はい」
コルネットさんの言葉に頷きながら、お風呂に肩まで浸かる。
エルトール伯爵領は、まだ春になったばかり。
夏は、まだ当分先。
異世界だから日本みたく四季はないけれど、それでもある程度は気候は暖かくなる。
私は空を見上げる。
露天風呂から立ち上る湯気が、白い蒸気となって空へと上がっていく。
「――ん? 上がっていく? ハッ! そうです! 忘れていました!」
「ど、どうしたの?」
「亜熱帯にする方法が思いつきました!」
「――え?」
「露天風呂の蒸気を使ってサウナみたいにすればいいのです!」
「サウナって何?」
私が、王都に行くまで時間はあまりない。
翌日から、行動に移ることにした。
「な、何? こ、これ……」
薬師ギルドの裏手には、露天風呂があり、その露天風呂を覆うように透明なガラスで作られたハウスが建っていた!
もちろん魔法で作ったもので! 最近、私の魔法は何でもありな気がしてきたのは気のせいでは無いのかも知れない。
そして、成長促進の水をかけて、植えたカカオの種は発芽してスクスクと育っていく。
翌日には、立派なカカオの木が出来上がっていてカカオの実を大量につけていた。
「完璧です!」
「シャルロットちゃん。この木はどうするの?」
裏庭に生えている3本の木を見て茫然と呟くコルネットさん。
「これがカカオの実です! これをすり鉢で70時間くらいゴリゴリ潰すと滑らかなチョコレートになるのです!」
いくつかカカオの実を取り、すり鉢の中に入れて魔法で高速にかき回し砕く。
ガリガリガリガリ
そのまま1時間ほどで、チョコレートのできあがり!
「ずいぶんと早かったわね……、70時間くらい掛かるんじゃなかったの?」
「魔法で短縮しました!」
出来上がったチョコレートを一舐めする。
とてもおいしい!
「すごいわね。こんなの食べたことないわよ?」
「チョコレートは体にもいいのです! これを冒険者ギルドで販売しましょう!」
「――え? いいの?」
「はい!」
それから4日後、私は王都の貴族学院に向かった。
あとから、貴族学院の寮に手紙が届いた。
そこには、出来上がったチョコレートは、シャンティアの町の薬師ギルドで売られて爆発的な大ヒット作品になったそうな。
それで、エルトール伯爵領の経済が潤ったらしい。
でも、そのお話は――、また別のお話なのです。
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