異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

チョコレート事件(14)




「それで、私が怒っている理由は分かるわよね?」

 いつもは優しい表情をしているお母様が今日は般若のような顔つきで問い詰めてくる。
 あー、お母様がやけに素直に食堂から出たと思ったら、あれでもかなり怒りを抑えていたのね……。
 私は心の中で呟きながら、溜息を洩らす。

「その溜息は何なのかしら?」
「――何でもありません……」

 いつも優しい人が怒ると怖いと聞くけど、お母様が怒ると応接室内の空気がピリピリするほどで。

「はぁー……」

 お母様は大きく溜息をつくと「本当に良かったわ。無事に見つかって――」と、私に語りかけてきた。
 一発、2発殴られる覚悟をしていただけにお母様からの言葉は完全に予想外。

「お母様……」
「シャルロット」
「は、はい」
「理由は聞いたけれど、貴女は自分で私と約束したこと――、自分で決めたことについて責任を持たず屋敷から逃げたことについて、私は本当に落胆しているわ」
「ごめんなさい……」
「貴女もいい年なのだから、自分で決めたことがどれだけの意味を持っているのかきちんと知らないとダメなのよ? カーレルド王国に嫁ぐことを自分から決めたのだから」
「……はい」

 お母様の言っている事は正論で何も言い返すことは出来ない。
 そもそも言い返す雰囲気ですらない。
  
「奥様、そのくらいで――」
「仕方無いわね」

 ニナさんの言葉に、お母様は「この子は、まったく――」と、言うと握り拳ほどの大きさの袋をテーブルの上に置く。

「お母様、これは――」
「カカオの種よ。若い頃に恩師に貰ったことがあったの。でも、カカオの種を発芽させる為には温暖な気候じゃないと無理だと本には書いてあったから、そのままにしておいたの。貴女は植物を成長させる魔法を使えるのでしょう? 数日は、薬師ギルドに寝泊まりすることで言っておくから、栽培してみせなさい」
「……栽培」

 カカオの実が手に入ると思っていたのに、カカオの種とか――。
 お母様は私が植物を成長させる魔法を使えると知っているみたいだけど、実際の所、成長させた植物は全部ミュータントになってしまった。
 そんなのをカカオの種で作っていいのか……。
 でも、断ったらカカオを探しに町に来たって言葉自体が嘘になりかねないし、何よりバレたらヤバそう。

「出来ないのかしら?」
「やってみます! ぜひ! やらせてください!」

 お母様の言葉に力強く答えると、「頑張ってね!」と、ウィンクをしてお母様は建物から出てエルトール伯爵邸がある方へと馬車に乗り戻っていった。

 一応、何とかなったけど……。
 
「ど、どうしよう……」
「シャルロットちゃん……、ごめんね。まさかジェニーが裏切っていたなんて――」
「気にしないでください。遅かれ早かれこうなることは何となくわかっていました」

 コルネットさんは謝罪してくれたけど、元々は私が無断で! というか置き手紙を置いてきたとは言え屋敷から出てきた私が悪い。

 ここは、うまく立ち回ってお母様を納得させるしかないよね。



 

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