異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
チョコレート事件(10)
でも……、さすがにベッドを頼むのは図々しい気がするし……。
「ハッ!」
良い事を思いついた。
「生活魔法が、想像して言葉を発することで発動するなら!」
うん。
植物の時もそうだったけど、私の生活魔法のレパートリーは広いと思う。
たぶんある程度は融通が利くはず。
つまり、究極的にはベッドも魔法で作れるということになるわけで……。
強ち間違っているとは言い切れない。
何せ試したことがないから。
「駄目元でやってみる価値はあるかも知れない」
成功しなかったら、寝床のベッドが無いだけだ。
つまり成功すれば、めっけもんってことになる。
「まずは想像……」
イメージをする。
いつものアヤフヤな想像のまま生活魔法を使って寝床を作れば大変なことになりかねない。
何せ、植物の魔物っぽいのを以前に作ったことがあるから。
「イメージするのは常に寝心地がいいベッドだ。それは私の体をやさしく抱きしめてくれて心地よい眠りに誘うもの。さらに必要なのは枕と掛け布団。何せ、夜はまだ寒いから――」
全てをイメージし、さらに色をつけるイメージ。
色はパステル色でいい。
あとは、現実に投影するだけ!
「空気寝具一式!」
私の高らかな声が屋根裏部屋に響き渡る。
それと同時に、現実世界に私の想像した寝具一式が投影されていき出来上がった!
「――完璧……、というか私の生活魔法って何でもありなのね……」
私は魔法で作ったばかりの布団の上に飛び乗る。
すると心地よい弾力がベッド全体から返ってきた。
さすがはエアーベッドを想像して作ったもののだけはある。
そして色をつけたのは、色をつけないとベッドがそこにあるのか分からないから。
あくまでも基本は空気の塊で出来ているのだ。
とりあえず、これで私の寝床は確保できた! 問題は……、これからどうするかだけど……。
屋根裏部屋の床から1階へと続く階段を私は下りて行くと、朝食目当ての客が多いのか厨房はすごく忙しそう。
厨房に降りて邪魔にならないように店の方をチラリと見ると外套を身に纏った多くの男性達が食事をしている光景が目に入ってくる。どうやらジェニーさんが一人で30人近い顧客の相手をしている模様。
「フロアも忙しそう……、でも……、それ以上のお皿洗いが追い付いていないよね……」
お皿が厨房の流しの上に山積みになっているのが見える。
ブラウンさんも料理を作るので手一杯で洗いものが出来ていないのだ。
ジェニーさんやブラウンさんは何もしなくてもいいと言っていたけど、無料で泊まらせておいてもらうのも気が引ける。
お母様の事があるからフロアの手伝いは無理だけど……。
「ブラウンさん!」
「何だ? 今は忙しいから屋根裏に――」
「私、伯爵邸で配膳の手伝いをしていたことがありますので手伝います!」
「駄目だ! エルトール伯爵家令嬢を仕事で使っていたことがバレたら大変だ!」
「誰にも言いませんから! それにお皿がもうすぐ無くなりそうですよ?」
「――ッ!?」
洗い物に手が回っていないのだから、お皿に限りがある以上はどうしても綺麗なお皿は無くなってしまう。
すでに棚にはお皿はない。
彼は、それを見て――。
「わ、分かった……。――だが、無理はしないでくれ」
「はい!」
――さて、ブラウンさんの許可も得たことですし! さっきのエアーベッドの応用で魔法を発動させてみますか!
「食器洗い洗濯機!」
汚れていたお皿が全て大きな気泡に包まれると空中に浮かぶ。
そして大きな気泡の中で対流する水に洗われていく。
物の30秒で、全てのお皿とコップがキレイになり、そこに乾いた風が吹きつけ木のお皿を乾燥。
「出来ました!」
調理場のテーブルには無数のお皿のコップが整然と並ぶ。
ブラウンさんの方を見ると彼が大きく口を開けて「うそだろ……」と呟いていた。
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