異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
チョコレート事件(9)
私がお世話になっている食堂は1階建ての木造建築で屋根裏部屋には調理場から移動することができる。
つまり必然的に――。
「ジェニー!」
「はいはい」
「このガキは、何だ?」
――そう。食堂のマスターであり料理人でもある人が店に来れば必然的に顔を合わせることになるのだ。
「その子は、コルネットから預かっているのよ?」
「預かっている? こんなガキをどうしてだ? ここは子供を預かる場所じゃないんだぞ?」
「それには色々と事情があるのよ」
ジェニーさんは、熊のような髭を生やした身長が190センチ越えのガタイのいい男性に悪びれることもなく答えている。
「――それに、誰もいない家に置いておく訳にもいかないでしょう?」
「答えになっていないぞ? どうして預かっていると聞いたんだが?」
「はぁー。その子はクリステルの子供なの。貴族としての嗜みを教えられていることに嫌気が差して家出してきたんだって」
「クリステルのガキか? ほー。似てないな」
たしかに、私はお母様とは似ていない。
顔だって日本人風だし、髪の毛や瞳の色も黒だし……。
「お父さん! そういうデリカシーの無い発言は駄目だからね! まったく……、シャルロットちゃん、ごめんね! お父さんとか、気が回らなくて」
「いえ――」
突然、押しかけた形になったのだ。
戸惑いは当然だと思う。
それよりも……。
「えっと、ここの食堂の……、あの男性はお父さんなのですか?」
「そうよ。昔からよく似ていないって言われているわ」
「たしかに……、ジェニーさんは美人ですものね」
私の答えに、ジェニーさんの父親が「……俺の妻も美人だったぞ……」と、小さく呟いていたけど、それはどうでもいいとして。
「――でも、あっさりと私が食堂の屋根裏で寝泊まりしてもいいと許可をくれたのは、この食堂はジェニーさんのお父さんのお店だったからなのですね」
「そうそう。だから気にしなくていいのよ?」
「でも、そういう訳には……。あっ! そうです! 私もお店の手伝いをしましょうか?」
「必要ない。怪我でもされたら困るからな」
取り付く島もないほどの即答。「そ、そうですか……」と、答えることしかできなかった。
とりあえずジェニーさんのお父さんの名前はブラウンさん。
彼に許可をもらったあと、魔法でササッと掃除を終わらせた。
「一人で大丈夫か?」
バケツと雑巾を借りたけど、10歳の子供では10畳近くある屋根裏部屋を掃除するのは難しいと思ったのか階段を上がってきたブラウンさんが顔だけを床穴から出して聞いてきた。
「はい。もう掃除は終わりました」
「こいつは……」
ブラウンさんは部屋の中を見て絶句している。
それもそのはず。
埃塗れだった屋根裏部屋はピカピカに魔法で磨いてあるから。
しかも光の魔法を部屋の四隅に置いて明るさも確保してある。
「一体、どうやって……」
「魔法です」
「魔法? エルトール伯爵家は魔法が使えない家系だったはずだが……」
「生活魔法です」
「そ、そうか……。俺の記憶違いだったかな……」
ブラウンさんは首を傾げながら床下から調理場に降りていった。
彼はどうやったら納得してくれたみたい。
「――さて……と、あとは、ベッドがあればいいんだけど……」
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