異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

チョコレート事件(7)




 両開きの扉を開けてお店の中に入る。
 店内は、まだ朝方と言う事もあり人影はまったくない。

「あら? お客様かしら?」

 厨房の奥から声が聞こえてきた。すぐに人が近づいてくると「まだ営業前――、あら? シャルロットちゃん?」と、女性が――、ジェニーさんが私とコルネットさんを見て首を傾げている。

「コルネット。こんなに朝早くからどうしたのよ?」
「いま、クリステルに追われているの。匿ってくれない?」
「ええ!? クリステルって産後から体の調子を崩していなかったけ? ここ4年くらいずっと顔を見せていなかったけど……」
「それがね、特効薬で治ったみたいで……」
「そうなの? シャルロットちゃん、良かったわね!」

 ジェニーさんが、朝早くから来た私達に嫌な顔せずに対応しながら朗らかな笑顔を見せて私の頭を撫でてくる。
 さすが飲食店の接客はしゅごい。
 私なら朝早くから人が来たら、「あと5分寝かせて」と、ささくれた対応をするところなのに……。

「う、うん……」

 でも、お母様の体が良くなったことを素直に褒めてもらえるとうれしい。
 やっぱり、私のことを心配してくれているお母様は、町の人にも人気なんだなと思いながらも、元々貴族ではないから町の人にも良く知られているということが分かる。
 人に歴史ありというところなのかもしれない。

「それよりも、どうしてクリステルに追われているのよ? あの子が人を追うようなことをするわけがないでしょう? 何か事情があるの?」
「それがね……」

 言いながらコルネットさんが私へと視線を向けてくる。
 その様子から私に説明をしろ! と言うのが分かるので、頭の中で整理しながら事情を説明することにした。

「じつは、成人したら隣国のカーレルド王国に嫁ぐことになったの」
「「――え?」」

 二人して驚いた表情を向けてくる。
 
「う、うそ……、シャルロットちゃんって砂漠の国のカーレルド王国に嫁ぐの? それって婚約の段階だよね?」
「はい……」

 コルネットさんの言葉に私は頷くと、ジェニーさんが「でも、エルトール伯爵領ってそんなに豊じゃないわよね?」と、すかさず突っ込みを入れてくる。
 そんなにエルトール伯爵領は、お金がないと何度言われなくても分かっているけど、やっぱり昔から貧乏領地に貧乏貴族のイメージは中々抜けない。
 まぁ、国王様経由でお金をエルトール伯爵家に回ってきていると言っても、それがすぐに領地内に情報で回るわけではないし、致し方ないのだろう。

「それで、どこの貴族様と婚約することになったの? 隣の領地の貴族様じゃないわよね?」
「コルネット、聞きすぎよ。シャルロットちゃんだって、一応は貴族様なんだから、どんなに貧乏でも貴族様なんだから。色々と事情があるのよ。きっと――。そうよね?」

 ジェニーさんの方が酷い。
 もう少しオブラートに対応してほしい。
 どんなに貧乏だったとしても第三者に言われるほど……。
 
 ――うん、やっぱり貧乏だから仕方無いか。
 仕方無いけど!
 ここは一発、バシッと言ってやる必要がある!

「カーレルド王家に嫁ぐことになりました」
「「えええええ」」

 二人の叫びが気持ちいいくらい重なった。
 そんなに驚くことなのかと思ってしまうけど……。

「本当なの? カーレルド王家に嫁ぐなんて……」
「はい。まだ婚約の段階ですけど」

 いち早く驚きから復帰したジェニーさんが問いかけてきて私は、それに相槌を返す。
 
「でも、おかしいわね? それだけでクリステルが追いかけてくるのは考えられないわ。何か問題でも起こしたんじゃないの?」

 ジェニーさんはさらに突っ込んで聞いてくる。
 まぁ、とくに何か問題を起こした訳ではないのだけど……。

「それってシャルロットちゃんが薬師ギルドに夜遅くに尋ねてきたことに関与しているんじゃ……」
「何よ、それ! 間違いなく、それでしょう?」
「ですよねー」

 二人の会話に私は思わず頷いてしまう。
 まぁ考えられるのはそのくらいしかない。

「――でも、手紙は置いてきました」

 私の言葉に「へえ? どんな手紙を置いてきたの?」と、ジェニーさん。

「自分を探す旅に一週間ほど行ってきます。王都の貴族学院に向かう前には戻りますので捜さないでくださいと書いてきました」

「行き先も書かずに?」と、コルネットさん。

「はい」
「そりゃ、クリステルじゃなくても怒るわよ」
「うんうん」

 ジェニーさんの発言にコルネットさんは頷いている。

「それじゃ、私はお母様の元に戻った方がいいのでしょうか?」
「それはマズイわね」
「――え?」

 答えてきたジェニーさんへと視線を向ける。
 彼女は険しい表情を見せていた。

「今、戻ったら町が居なくシャルロットちゃんは、3日は椅子に座れなくなるわよ? お尻ペンペンされてね!」
「――ッ!?」

 お尻ペンペン……。
 私の前世の記憶で子供の頃にペンペンされた記憶がある。
 あれは、とっても痛かったような……、駄目だ、覚えてない。
 
「とりあえずしばらく時間を置いた方がいいわね! お店の2階に屋根裏部屋があるから、そこで良いならしばらく暮らしてもいいわよ?」
「本当ですか!」
「ええ。でも伯爵家令嬢様が、そんな境遇に耐えられるかしら?」
「大丈夫です! 私、こう見えても貴族らしくないので!」

 私の発言に二人は苦笑いを見せてきた。




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