異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

チョコレート事件(6)



 ――ど、どうして……、お母様がシャンティアの町に……。
 混乱している頭の中、私は店先の扉を閉めてから閂で施錠する。
 
「開けなさい! シャルロット!」
「……開けたら怒る?」
「当たり前でしょう! 部屋のテーブルに置いてあった手紙は何なの? 何を考えているの!」

 ドンドンドンと店先のドアが叩かれ、その都度――、音が辺りに木霊する。

「煩いな……、一体、誰が来たんだ?」

 ケインさんが2階から降りてくると「――ん?」と、首を傾げて扉に背を向けて抑えつけている私と目を合わせてくる。
 そして……、窓の外を見て顔色を変え――。

「シャルロット! 開けなさい!」

 お母様の声を聞いて、なるほどと言った表情をしたあと大きく溜息をつくと私に近づいてきて扉の閂を外して店の扉を開けてしまった。

「久しぶりです」
「――ッ!? ケ、ケインさん。お久しぶりです。娘の姿が見えたのですけど?」
「エルトール伯爵家のご令嬢様がどうかなされたので?」
「娘が、こんな手紙を残して……」
「見せてもらっても?」
「――ええ」
「シャルロットちゃん! こっちこっち!」

 声がした方にはコルネットさんが居て小さな声で私の名前を呼びながら手招きしてきている。
 このまま捕まったら絶対に伯爵邸に戻されてしまう。
 私が取れる方法は一つしかない。
 床の上を伏せたままコルネットさんに近づく。

「コルネットさん」
「今は言わなくていいわ。それより、クリステルはかなり怒っているわね。貴女、何かしたの?」
「あまり……、特には……、何もしていないと思います」
「そうなの? それでクリステルがあそこまで怒ることはないと思うのだけど……。だって口調は丁寧だけど目が笑っていないもの」
「……そうとう怒っていますか?」

 お母様が怒っていたのを見たのは、公爵家の年寄に嫁ぐとお父様が言った時くらいで、それ以降は殆ど怒られていない。
 だから、お母様の怒り度合いが分からないのだけど……。

「やばいわね、あれは相当怒っているわよ。ここは撤退して時間を置いてから話しをした方がいいわね。とりあえず――」

 カパッと言う音と共に店のカウンター近くの床板が持ち上がる。
 下には階段が続いていた。

「とりあえず、ケインが時間を稼いでいる間に保存庫経由で外へ逃げましょう。シャルロットちゃんには借りもあるからね」
「ありがとうございます」

 さっそく床下の階段へ降りる。
 すぐにコルネットさんも居りてきて、そのあと静かにコルネットさんは床板を元に戻す。
 辺りは暗くなって何も見えなくなる。

「コルネットさん……」
「魔法は使わないでね」

 彼女の言葉に私は暗闇の中で頷く。
 たしかに私の魔法は明かりが強い。
 床下からも明かりが見えてしまうかも知れない。
 コルネットさんに腕を引かれて階段を下りていく。
 しばらく階段を下りたあと、コルネットさんが離れてからしばらく経つと周辺に明かりが灯った。 
 明かりはコルネットさんが持っているランプからで――。
 
「とりあえず、ジェニーの家に行って匿ってもらいましょう」
「大丈夫でしょうか? あまり人に迷惑をかけるのは……」
「いいのよ。だってシャルロットちゃんには借りがあるからね、お風呂っていう借りが!」
「……それって……」
「大丈夫! 定期的にお風呂にお湯を補充してくれるだけでいいから!」
「つ、つまり等価交換ということですか……」
「そうそう。ジェニーにもお風呂に入れることを言えば匿ってくれるわよ。それに、エルトール伯爵様は、何だかんだ言っても甘いからね」
「そういうことですか……」
「問題は、クリステルよね。あれは怒ると本当にヤバイから、王都でも色々と問題起こしているから。主に正当防衛なんだけど……、お酒を飲んで絡んできた騎士団長を素手で教会送りにしたから……、さっきのクリステルの様子を見るに同じ雰囲気を感じたわ。だから……、しばらく身を隠しておいた方がいいわね」
「お母様に、そんな一面が……」



 話をしながら別の階段を上がり出た場所は、倉庫であった。
 薬草などが置かれていることから薬師ギルドの所有物だと言うのが一目で分かる。

「こっちよ」

 コルネットさんに手を引かれるようにして倉庫から出ると、少し離れた道を挟んだ反対側にエルトール伯爵家の馬車が見えた。
 店に入る入り口を見るとケインさんとお母様の姿が見えて何か話している。

「ああ見えてもケインは薬師ギルドの職員の中でも、口は上手いほうだから時間は稼いでくれるはずだから」
「……で、でも時間が稼げてもケインさんは――」
「きっと大丈夫。ケインに非は無いんだし」
「そうですか……」

 ホッと一息ついたあと、私はコルネットさんと共にジェニーさんが働いている食堂に向かう。




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