異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

チョコレート事件(4)



 薬師ギルドの2階は日本風で言うなら3部屋に台所がある建築物だった。
 そんな中、現在の私はコルネットさんが作ってくれた食事を口に運んでいる。

「結構、町の人ってお塩とか調味料を使っているのですね」
「そう? 私達もやりくりは厳しいから、そんなに使ってないわよ?」
「これ以上、味が薄くなったら微妙じゃないのか?」
「そ、そうですね……」

 どうやら、かなり限界まで味を薄くしているようで。
 ということは……、これよりも遥かに味が薄かったエルトール伯爵家の食事情は……。

 途中まで考えたところで頭を左右に振る。
 今のエルトール伯爵家の食事情はかなり改善されているのだ。
 過去のことは過去のことであり未来を見て行こう!
 夜食を食べ終えた私は、寝る前に一つの問題を抱えていた。
 ダイイングでお茶をしながら私は聞いてみることにする。

「コルネットさん、コルネットさん」

 ケインさんが席を外した瞬間を私は見計らいながら話しかけた。

「どうしたの? そんな小さな声で」
「お風呂って、どこにあるのですか?」
「お風呂?」
「はい。エルトール伯爵家から走ってきたので……」
「汗を掻いたってことね。それで?」
「あれば教えていただければ……」
「そうね……、お風呂は大衆浴場なんかが王都にはあるけれど……、こういう小さな町や村では基本は井戸水で体を洗ったりしているわね」
「……え? 寒くないのですか?」
「寒いけど……、皆それでやっているから……。ケインも今は――、ほら」

 コルネットさんが窓の方を指さしている。
 私は両手に持っていた木で作られたマグカップをテーブルの上に置くと窓の方へ近づき下を見下ろす。
 そこには、ケインさんが居て井戸からくみ上げた水で体を拭いているのが見える。
 すごく体を震わせていて寒そう!?

「寒そうです……」
「そうね。お湯が使えればいいんだけど、お湯を沸かすのも薪がいるからね」
「薪って高いのですか?」
「そうね。一応、取れる量は決まっているからね」
「伐採できる木の数がってことですか?」
「ええ、それに乾かさないといけないからすぐに使えるって訳でもないから」
「シャルロットちゃんも、体を拭きたいのよね?」
「そ、そうですけど……」

 さすがに春先の寒空の中で井戸水を使って体を洗う勇気はない。
 洗ったら心臓麻痺で逝ってしまう自信まである。

「作ります……」
「――え?」
「私はお風呂場を作ります! コルネットさん!」
「お風呂場を? そんなことをしたら、どれだけ薪が必要なのか分かっているの?」
「大丈夫です。私には魔法がありますから!」
「魔法……、そういえばシャルロットちゃんは魔法が使えたわね」
「はい!」
「ケイン! ちょっと来てちょうだい!」

 窓を開けて下に居るケインさんにコルネットさんが話しかけた。
 
「お、おい! 男の裸を覗き見するなんて、非常識じゃないのか!?」
「別に減るものじゃないのだから、いいでしょう?」
「減る減らないじゃなくてな……」

 ケインさんはすばやくタオルで体を隠しながら、コルネットさんと会話を交わしている。
 私は、それを横目で見ながら待っているとケインさんが戻ってきた。



「なるほど……、お風呂が作りたいと……。だが、お風呂は贅沢品だ。庶民が持っていて良い物ではないぞ? それにエルトール伯爵様にも許可を取らなければならないし、まずは下りない」
「待ってください。早急に考えを出さなくてもいいと思います。まずはお風呂には、いくつもの利点があるのです」
「利点?」

 私のお風呂に入りたいという事情だけではお風呂を作っていいという言葉は引き出せそうにない。
 だったら正統的に、そして王道的に話を持っていくしかない。

「お風呂は、体の健康にとてもいい効果を齎します!」
「たとえば?」
「感染症予防や、肥満体質改善にも!」
「肥満……」

 ケインさんが自分のお腹に手を当てていた。
 どうやら、身に覚えがあるようですね。
 にやり……。

「さらに! 美肌効果もあるのです!」
「ケイン! すぐにお風呂を作りましょう! 作るのはシャルロットちゃんの魔法らしいから場所だけ提供すれば!」
「だ、だが……、維持するのが……」
「それは、私の魔法で何とかなります!」
「う、うむ……」
「シャルロットちゃん、井戸の近くに作っていいからね!」
「は、はい……」

 どうやら決定権はコルネットさんに移ってしまったようで。
 美肌効果があると言ったときから、何が何でもお風呂場を作ろうという意志がコルネットさんから見て取れたけど……。

 それから1時間ほどして私の魔法により、お風呂というか露天風呂みたいなお風呂は完成した。
 

  


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