異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

チョコレート事件(3)




 ディナーを終えて部屋に戻ったあとは、湯浴みをするべくお風呂場に向かう。
 エルトール伯爵邸のお風呂場というか浴室は、私の魔法でいつも暖かい湯浴みが出来るのだ。

「ふんふん~」

 ガラガラと扉を横に開ける。
 前までは西洋風に普通の扉だったけど、それだと何となく雰囲気が出ないこともありお父様に事後報告という形で魔法を使って作ったのだ。
 近くの木を切って火の魔法で炙って乾燥させて風の魔法で加工し今に至る。
 我ながら力作の扉と言っていい。
 まぁ、お父様に報告した時には「先祖代々続くエルトール伯爵家の屋敷が!」と、ショックを受けていたけど、横にスライドするだけで脱衣所や浴室に入れるのでお母様には好評だったりする。
 妹のセリーナを抱いたまま足で扉を開ければ脱衣場に入れるから。
 結局、お母様の説得もあって脱衣場へと続く扉と浴室に続く扉は日本風の横スライド式扉が採用された。

 脱衣場の中に入ろうとすると後ろから引っ張られる。
 
「にゃ!?」

 思わず驚いてしまい変な驚き方をしてしまった。

「ニナさん……、どうしてここに……」
「お嬢様を廊下で見かけたからです。それよりも湯浴みでしたら、私が手伝いますので」
「いえ、必要ないです」

 理脱衣場の中に行こうとするけどニナさんがガシッとワンピースの襟首部分を持っていて先に進めない。
 
「はぁー、いいですか? 貴族の令嬢たる者。特に伯爵家、侯爵家、公爵家になりますと湯浴みの際にも付き人に手伝わせるものなのです。特にお嬢様はカーレルド王家に嫁がれる身なのですから、将来はカーレルド王家の王妃として、その国の貴族たち淑女達の模範となられないといけないのですよ? ご自身で、カーレルド王家に嫁ぐことを決められたのですから、それなりの教養を身に着けて頂かなくてはエルトール伯爵家だけでなくフレベルト王国の威信に傷がつきます」
「……あい」

 うわー、めんどくさいー。
 心の中で叫びながら私は頷いておく。
 もう、もう少し大雑把な感じのメイドさんを手配してくれれば良かったのに……。
 唯一、安らげる場所であるお風呂場にまで貴族というか王家の仕来りを持ってくるニナさんに私のストレスはやばい。

「それでは、私も用意してきますので」
「……」

 ニナさんは、それだけ言うとすぐに離れて行って、そしてすぐに戻ってきた。

「お待たせしました」
「う、うん」
「お嬢様、そういう返事は――」
「分かったわよ」

 私の返事を聞いてニナさんは満足したけれど、こうもダメだしを食らうとイライラしてくる。
 お風呂は、ニナさんに体を隅々まで洗われたけどストレスばかり溜まってしまいお風呂に入って心を休める暇はなかった。



 お風呂から出たあと、私は自分の部屋へ戻りニナさんに寝間着に着がえるのを手伝ってもらってから髪を梳いてもらったあと、彼女が部屋から出ていったのを見計らってベッドにダイブする。

「もー、もー」

 一抱えほどある枕を壁に立てかけてベッドの上で枕に向けてパンチする。
 モフッモフッという音が枕から鳴るけど私は何度もパンチしてから一通りストレスを発散したあとパンチしていた枕を元に戻してからベッドの上で横になる。

「はぁー、どうしよう。もう数日で疲れがピークだよ。ハッ!?」

 そ、そうか……。
 きっと甘い物の夢を見たのは、私なりの危険信号だったのかも知れない。
 どうして、そんな簡単な事に気が付かなかったのか!
 謎は全て解けた!
 つまり、私のストレスは甘い物を食べないと治らないということに。
 そうと決まれば答えは簡単!

 さっそく手紙を書く。
 もちろんお父様やお母様に向けて!



「それで家に一人で来たというわけかい? エルトール伯爵家長女であり次期カーレルド王国王妃である君が?」
「はい!」

 私はテーブルの上に用意された薬草茶を飲みながら頷く。
 エルトール伯爵邸の――、自分の部屋のテーブルの上に手紙を置いたあと私は家出を決行したのだ。
 
 そして、重力軽減の魔法を使ったあと身体強化魔法も併用して馬車でも数時間はかかるシャンティアの町まで移動したあと薬師ギルドの門を叩いてケインさんに受け入れてもらったのだから。

「どうしよう……。こんなことがバレたら……」
「大丈夫です! 薬師として、手伝いに来たってことにしてくれれば!」
「ただいまー。あら? シャルロットちゃん? どうして、ここにいるの?」
「コルネットさん、お久しぶりです! 今日からお世話になります!」
「えっと……」

 コルネットさんが困惑した表情でケインさんを見るけど、そんなケインさんも困った表情で。

「エルトール伯爵令嬢様は、しばらく薬師ギルドに居ることになったよ」
「そ、そうなの?」

 口に手を当てながらコルネットさんは驚いていた。
 



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