異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

チョコレート事件(2)




 自分の部屋から出て廊下を走ったあとに到着したのはお母様と妹のセリーナがいるお部屋。

 コンコン

「このノックの仕方はシャルロットね!」
「当たりです!」

 お母様の返事があったあと、私は部屋の中へと入る。
 セリーナはベッドでスヤスヤと寝ているのが見えた。
 そして、お母様と言えばセリーナの靴下を縫っているようで。

「どうかしたの?」
「お母様は、元々薬師だったのですよね?」
「そうだけど……」
「カカオって、どこにあるか知りませんか?」

 私の言葉に「カカオ?」と、首を傾げるお母様。

「えっと甘いやつです!」
「それは、ハチミツのことかしら?」
「ハチミツじゃなくて……、苦くて甘くて口の中で溶けるようなものです!」
「えーっと……、ちょっと心当たりはないわね」
「そうなのですか……」

 しょんぼりとした私を見てお母様はコホンと小さく息をつくと、椅子から立ち上がり部屋の中の戸棚から一冊の本を取った。

「一応、フレベルト王国内に自生している薬の材料となる薬草の分布図を纏めたものだけれど……」
「お母様、ありがとう!」

 お母様からタウンページくらいある本を受け取り両手で抱え込むようにして持ってから部屋を出ようとしたところで「シャルロット」と、声を掛けられた。

「どうかしたのですか?」
「カカオって、どんな形なの? 色と形状が分かればルーズベルトに確認することも出来るのだけれど……」
「……形……、色……」
「――そ、そう。別に分からないならいいのよ? 頑張りなさい!」
「は、はい」

 お母様から借りた本を手に部屋へ戻るとニナさんと出会った。
 ある日、館の中歩いていたらニナさんに出会ったみたいなフレーズが頭の中に浮かんでくるけど、私は平静を保ちつつ見下ろしてきているニナさんの視線を真正面から受け止める。

「お嬢様、どちらに行かれていたのですか?」
「お母様のところです」
「クリステル様の所ですか?」

 私はコクコクと首を縦に動かしながら部屋の中へと入っていく。
 そんな私の行動を見ていたニナさんが大きく溜息をつく。

「お嬢様、食事の用意が出来ましたので食堂までお越しください」
「お母様の分は?」
「クリステル様の分はクロエが持っていくことになっています」

 いつもお母様はセリーナの居るお部屋で食べている。
 でも体が良くなったから一緒に食べるのかなと思っていたのだけれど、セリーナの事もあるから、暖炉のある客間で食事を摂るらしい。
 ニナさんの言葉に「そうですか」と答えながら私はお母様から借りた本をテーブルの上に置く。

「それではいきましょうか」
「お嬢様、まずは着替えを致しませんと……、寝間着のまま邸宅内を歩き回るのは淑女としての自覚が足りません」
「――あ、はい……」

 ニナさんに手伝ってもらって白色のワンピースに着がえたあと、少しヒールの高い靴を履かされた。
 話によると食事のマナーを覚えてもらうために無地の汚れが分かりやすい服装にしたようだけど……。
 まぁ、食事マナーについては私もかなりの物だから問題ないと思うけどね。

 その日は、香辛料がきちんと使われた塩だけじゃないスープを転生してきてから初めて飲んだ。
 どうやら、国王陛下はずいぶんとエルトール伯爵家に目を掛けてくれているらしい。
 そういえば……。
 私が着ているドレスに近いワンピースもヒールの高い靴も、エルトール伯爵邸で暮らしてきて見たことがない。

 今更、気が付くの? と思われがちだけど、色々な事が重なって、そこまで意識が向いていなかったのだ。

「お嬢様、食事の作法はどなたに習われたのですか?」
「え!?」
「いえ、お嬢様のご年齢ですと独学というのは考えられませんし、今までの食事献立を見た限りではスープとフォークの使い方を学習するメニューは無かったように見えますので……」
「アリエルから教えてもらったの」

 私がアリエルさんの言葉を出した途端、少しアリエルさんの雰囲気が変わったような?

「それでしたら、問題ありません。食事のマナーについては基礎的な事は出来ていますので細かいところを直していけば問題ないでしょう」
「……あ、はい」

 私は彼女の言葉に答えながら、初めて食卓に上がった鳥肉を口に含んだ。
 うん! おいしい!
 お肉なんて、転生してから初めて食べたかも知れない……。


 

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