異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

チョコレート事件(1)




 ゆさゆさと体が揺さぶられる。
 それが心地よくてまどろみの中で私は寝続ける。
 いわゆるレム睡眠という奴で、半分寝ているけど半分起きているような感じ。

 目の前には数々の日本では普通に食べられるお菓子の数々がテーブルの上に整然と並んでいる。
 イチゴのショートケーキに、御芋のタルトにチョコレートケーキにアップパイと並んでいて――。

「お菓子の宝石箱ですうー」

 そういえば、異世界に来てからというもの甘い物を全然食べていない。
 無類のお菓子好きな私としてはあり得ないこと! そう! あり得ないことなのです!

「でも、今日は目の前にお菓子があるから許してあげます……はむはむ……、ん? 噛み切れない――、というか妙に暖かいような……」

 解けたチョコレートがかけられた大きなシュークリームを口に頬張ろうとしてもまったく噛み切れない!
 悪戦苦闘していると、頭を何かで殴られたような衝撃が走り……。
 今まで見えていたお菓子パラダイスの世界がぼやけていき消えた!



「――あ……、あれ?」
「あれ!? じゃありません!」

 声がした方向へと顔を向けると、そこにはニナさんが立っていて、豊満な旨を両手で隠していた。

「ニナさん……?」

 私は首を傾げながら部屋の中を見渡す。
 ふむ……、どうやら私はベッドの上で休もうとしたらそのまま寝てしまったようで。
 きっと、午後の練習をするためにニナさんは私を呼びにきたと思われる。
 それにしても……。

「ニナさん、胸をどうかしたのですか?」
「お嬢様を起こそうとしたら抱き着いてきて……」

 ニナさんの顔が真っ赤に染まっていく。
 どうやら、何か言い難いことがあったようだけど、私はすぐに察することができた。
 空気を読むことは得意な日本人の特徴が遺憾なく発揮された瞬間ともいえる。

「そういうことですか……。ニナさんの胸元の服が湿っているのは、私がシュークリームと間違えて口に含んだからですね!」
「少しは空気を読んで発言してください!」
「――あ、はい……」

 きちんと空気を読んで発言したのに……、酷い!
 まぁ、言いたいことは分かるけどね。
 でも女同士だし、そんなに顔を赤くする必要もないとおもうけど。

「コホン、それではお嬢様。午後の練習をと思っていましたが……」

 ニナさんがチラリと外を見る。
 私も釣られて部屋の窓外を見るとすっかり日が沈んでいた。

「もう時間はないみたいですね」
「ええ。お嬢様が、まったく起きなかったので無理矢理起こそうとしましたら襲われましたので……、実力行使を出させて頂きました」
「なるほど……、床の――、絨毯の上に転がっている分厚い本は、そのための物だったのですね」
「いえ、本は殴るための物ではありませんから」
「それで、どうしましょうか?」
「夕飯のご用意が出来ましたらまた来ます」

 ニナさんは溜息交じりに本を拾ったあと、部屋から出ていった。
 それよりも、思ったより私は午前中の淑女の為の教育で疲れていたみたいで、そのせいでお菓子の夢を見たのかもしれない。

「お菓子……、そういえば……、異世界に来てからお菓子を一切口にしてないよ!」

 そう、私は異世界に来てからというもの一切、お菓子を口にしていない。
 女の子の体の99%はお菓子で出来ているという立派な私的な格言が存在している以上、お菓子というのは死活問題と言っても過言ではない!

「ニャン吉が残した本に何か書いてないかな?」

 薬草やポーションの作り方が書かれているニャン吉が残した本を片手にベッドの上で寝転がりページを開く。
 この本は、色々な調合方法や薬やポーションについて書かれているのは良いのだけれど、目次が無いのが問題なのです。
 
 ペラペラとページを捲っていく。
 
「こ、これは!?」

 チョコレートの作り方と書かれている。
 貧血や便秘の解消、そして有効成分はポルフェノールが含まれていてコレステロールを下げて動脈硬化を予防するらしい。
 お年寄りに食べさせるといいと書かれているけど。
 いまは、そんなことはどうでもいいのです!

「ふむふむ。なるほど……、原材料のカカオが必要と…………、カカオ? カカオってエルトール伯爵領にあるのかな?」

  

 

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