異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
淑女はめんどい
刺繍を一通り終えてベッドの上で横になりながらニャン吉が残していった医学や薬の作り方が書かれている本を読んでいると。
――コンコン
「はい?」
「夕食のご用意が出来ました」
部屋の扉を開けるとニナさんが立っていた。
彼女は、キリッとした眼差しで部屋の中を見回すと私を見てくる。
「シャルロット様、ベッドの上で本を読んでいたのですか?」
「そうだけど……」
「あの様子ですと寝転がりながら読書していたのですね?」
「う、うん……」
「良いですか? お部屋には、テーブルと椅子があるのですから淑女たるもの椅子に座って本を読むのが嗜みと言うものです。ベッドの上で横になって本を読むなど貴族の令嬢として恥ずべき行為だとご理解ください」
「――で、でも……。アリエルは何も言わなかったから……」
「将来、王宮に嫁ぐとご当主様より伺っております。その際に、国の淑女の代表ともなられる王妃様がベッドの上で読書をしていたら他国からどう思われるか分かりますか?」
「……わかりました。気を付けます」
内心、溜息をつきながら彼女の言葉に私は頷く。
言いたい事は分かるけど、また厳しい人が来たなと思ってしまう。
夕食は、国王陛下からの援助もあってからか、いつもの塩野菜スープの中にホロホロ鳥をカットしたお肉が入っていた。
だけど……、テーブルマナーについて細かく口出してくるニナさんのせいで食べた気がしない。
食事を終えたあとは、貴族の淑女たるマナーや話し方のレクチャーをすると言う事だったので、私は調合をしないといけないと断り、現在はエルトール伯爵邸の調合室で傷薬を大量生産していた。
「はぁー、お父様には悪いけど正直、ニナさんはメンドクサイな……」
調合室には私一人だけ。
溜息をつきながら薬師ギルドから納入された薬草を磨り潰す。
――ごりごりごりごり
「えーっと、毒消し草を混ぜて、少しのエッセンスを追加してから薬草の液を混合すると……。対比は1対2対1と言ったところと――」
新しい薬――、この世界ではまだ発明されていない目薬を現在、作っている。
傷薬に関しては、現在は調合室に窯を作ってもらって、その上に鍋を置いた中に傷薬を入れ沸騰させて濃縮させている。
ポーションというか疑似エリクサーと言ったところ。
一応は、王家に納入する分とエルトール伯爵家で確保しておく分を作っているけど、かなりたくさん作ったので1000人分くらいはあると思う。
問題は、賞味期限というか消費期限というのがあって作ってから一ヵ月くらいで品質劣化により普通のポーションまで効果が落ちることだ。
それでも、私の普通の傷薬=ポーションなのでかなり効果は高い。
現在は、ポーションを手に入れようとしたら魔法薬に属しているのでダンジョンの宝箱からしか手に入らないらしいから、その高価ぷりはすごいと思う。
きっと、エルトール伯爵家の大事な収入源になると思うけど、戦争とかには使ってほしくない。
一通り薬を作り終わったあと、私は部屋から出る。
何とか王都に行く前にシャンティアの薬師ギルドに納入する分と王家に納める分が出来た。
「――んっ!」
私は、ずっと作業をしていたので体を伸ばしながら息を吐く。
思っていたよりもずっと疲れている。
それでもニナさんに貴族の淑女たるマナーや考えを教わるよりは疲れていない。
本当に夕食の時は疲れたから。
「よし! あとはお風呂に入ろっと!」
いつも魔法でお湯を入れてあるお風呂場に向かう。
浴室へと繋がる扉を開けて脱衣所に入ると浴室からの蒸気が漏れているのか少し脱衣所に白い煙が立ち込めていた。
気にせず私はワンピースと下着を脱いで浴室に入り体を洗ってから湯舟に浸かる。
「ふーっ」
――極楽極楽。
やっぱり疲れたときはお風呂が一番ね!
こういう時、魔法というのは素晴らしい物だと実感出来てしまう。
天候制御魔法とか光の魔法とかそんなのはどうでもいい!
マジ! お風呂最高!
ぶくぶくぶく……。
「――はっ!」
ここは!? と周囲を見渡すとどうやら私は自分の部屋で寝ているようであった。
どうやって自分の部屋まで戻ってきたのか全然! まったく! 覚えていない!
「うーん」
「シャルロット様」
「――!? に、ニナさん!?」
「はい。貴女の教育係も任されておりますニナでございます」
「ど、どうして……、ここに!?」
「調合室を訪ねましたらシャルロット様が居らっしゃいませんでしたので、探しておりましたら浴室で溺れていたのを見つけたので、お部屋まで運びました」
「そ、そうでしたか……」
「良いですか? 貴族の淑女たるもの! 湯浴みをする際には、必ず付き人を連れていってください。人間、もっとも無防備なのは湯浴みと就寝の時なのですから!」
――グチグチグチ
貴族の淑女たる者は、何たるかを永遠と繰り返し聞かせてくるニナさんに私は内心頭を抱えてしまった。
これから、これがずっと続くのかーと。
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