異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

エピローグ




「太陽がまぶしい……」

 ニャン吉は、私がもう大丈夫だと言って姿を消した。
 サポートが終わったとも言っていた。
 それは、私を信頼してくれたからと言う意味なのかは定かではないけれど、きっとニャン吉の話ぶりからすると無理をして戻ってきてくれたのかも知れない。
 
 私は夜の帳が明けていく空を見上げながら、ニャン吉が置いていったタウンページこと医学大全集を両手で抱きかかえるようにして体育座りをする。
 
「シャルロット? そんなところに居て危ないじゃないか!」

 下にはお父様が居て、その隣にはお母様やアリエルさんやセバスさんの姿もあった。
 こんな朝早くから何をしているのか分からないけど、重力軽減の魔法を使って地面の上に降りる。
 
「お父様。こんな朝早くからどうしたのですか?」
「ああ。アリエルの処遇が決まったこともあって朝早くに行うことにしたのだ」
「処遇って――、私に一任されていたはずでは……」
「そうだね。アリエルから詳しい話は聞いたよ? だから、彼女にはしばらく暇を出すことになった」
「――え!? そ、それじゃ……。もう一緒に住めないのですか?」
「そうではないよ。シャルロットは、来月から王都貴族学院で学ぶことになっているからね。早めに王都に行ってもらいその準備をしてもらう事になったのだ。セバスも一緒に行くことになっているから、しばらくは屋敷には私達家族だけになってしまうけれど、これからは国王陛下からの援助もあるからね。以前に雇っていた者を再雇用する予定だ」
「そうなのですか? それでは、アリエルは……」
「お嬢様、これからもよろしくお願いします」
「えっと……、うん! これからもお願いね」

 セバスさんとアリエルさんが乗った馬車は王都に向かって走っていく。
 その姿を見送ったあと、何だか胸に大きな穴が出来たような感覚を覚えてしまった。
 それは、ずっと一緒に暮らしていた人が一時的とは言え居なくなってしまったからだと思う。
 すると、後ろから抱きしめられた。

「お母様?」
「頑張ったわね」
「うん……」
「精霊様も帰られたの?」
「うん……、これを残して――」

 私は手に持っていた本を強く抱きしめる。
 
「そう。精霊様は何か言っていた?」
「私には魔力があるって、それと人を信じる事は止めないようにって……」

 途中から声にならない何かがこみあげてくる。
 異世界に転生してきてから、たくさんの事があった。
 多くの経験や、たくさんのことを教えてもらった。
 それは日本に住んでいたら気が付かないことばかりで……。
 誰かを信じる事や、自分の思いを忘れずに貫き通すことがどれだけ大変なことなのか。
 それを学校は教えてくれない。
 体験と言う身を持ってでしか学べないと今では思う。
 だから……。

「私は……」

 両親の元に生まれて――。

「この世界に生まれて良かったと思います」

 何故なら生きるという意味を教わった気がするから……。



「ずいぶんと戻ってくるのが早かったわね」
「やっぱり見ていたニャ?」
「ええ、それにしても……」
「メルル様としては不服ニャ?」
「……」

 そこは、どこまでも暗闇の広がる世界で――、足元にはシャルロットの姿が見えていた。
 その表情は、ハッキリとした自我が見える。
 日本で流されていて惰性で生きていた時はまるで違う。

「メルル様としては、神無月朱音を傀儡として利用する気だったニャ? だから力を与えたニャ? 自分の失敗を上位神にバレないようにするために利用したニャ?」
「貴方……、何を言って――」
「もう調べはついているニャ。もう一人の異世界人はメルル様が召喚したってことニャ」

 そういうとニャン吉は、空間から人形を一体取り出すとメルルの足元に投げ捨てた。
 これは高レベルの魔法を使える者じゃないと使えないニャ。
 調べればすぐわかることをして只で済むとは思わないことニャ。

「そ、そんな……。それじゃ、あの世界は……」
「問題ないニャ。神無月朱音なら――、シャルロットなら何とかしてくれるニャ。それだけのポテンシャルを秘めた人間ニャ」
「そんなわけが!」
「メルル様は、人間のことを何も分かってないニャ。人間は限られた時間を生きるからこそ、その成長度合いは神々や精霊や妖精と比べ物にならないニャ。シャルロットなら、壊れかけた異世界を正してくれるはずニャ。そう、異世界を治す薬師としてニャ」

 ニャン吉は下界を見下ろす。
 そこには、異世界転生してからようやく本当の親子になったシャルロットが笑っているのが見えた。




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